魔王様は休みなし?
心の中だけでも謝っておこうと思った……集団で騒がれると、嫌でも目は覚めるんだな。
俺は仁漁に来たら、スマホのアラームもオフにしている。潮騒の音で自然に起きれたし、営業先は旅館から近いからだ。
でも、今朝は……
「みんな、おはよー。ねえ、どんな水着買ったの?」
「絶対、男子見てくるよね。剣崎先輩にだけアピールしたいのに」
「趣味、悪っ。あいつ、たらしでナルじゃん。イケメンになら見せても良いけど、おっさんとかに見られるの嫌じゃん」
「分かるー。チラチラこっち見てきてさ。年、考えろっての」
今朝は女子高生の愚痴で目が覚めました。テンション高いし、声も大きいから嫌でも目が覚める。内容も辛辣だし……。
(修学旅行で『他のお客様からうるさいと苦情がきました』って叱られた事があったけどマジだったんだな。あの時、宿泊していた方すいませんでした)
大人になった魔王が、心の底からお詫びします……後、生徒さん早く部屋に戻って。おじさん、部屋から出辛いです。
(くそっ!早くビュッフェに行きたいのに……)
高級ホテルで食べ放題なんだぞ。ずっと楽しみにしていたのに。
外の気配を探っていると、スマホがなった……この着信音は社長だ。
リアルで『俺、また何からかしちゃいました』かになる。でも、魔王様の場合は胃が痛くなる方のやらかしなんだよね。
「社長、おはようございます。何かありましたか?」
就業時間前?そんなの関係ない。だって、この時間に電話って絶対にクレーム関係じゃん。
亜空間に謝罪用お菓子入っていたかな?ドキドキしながら、社長の反応を待つ。
「岩倉、朝早くから悪いな。岡流の息子さんの事、何か分かったか?昨日から確認の電話が凄いんだよ」
そっちかい!心臓に悪いっての……でも、やらかし案件じゃなくて安心しました。
「岡流社長のご子息個人の消息は掴めていませんが、何人かが行方不明になっているみたいですよ。でも、地元の警察は動いていないみたいですね」
岡流社長、息子が心配なの分かるけど、昨日の今日だぜ?プロの探偵でも情報掴めないっての。
「行方不明者が出ていても、警察が動いていないのか?岩倉、危険な事には首を突っ込むなよ」
社長の言葉から俺を心配してくれている事が伝わってくる。こんな人だから、
「安心して下さい。会社の看板に泥を塗る様な真似はしませんよ……これは俺の勘なんですけど、竜崎財閥が絡んでいる気がします」
まあ、ほぼ確定なんですけどね。漫画や小説なら、大企業の不正を暴くって正義に燃えるんだろうけど、魔王様は関わる気がありません。
だって、あんな大企業に逆らっても一文の得にならないもん。出歯亀根性で探りを入れていた岡流の息子が悪いんだし。
(絶対に何重にも予防策を貼っているよな)
法律的にもばっちり対応しているし、非合法な対策もしている筈。
「だから興信所も手を引いたのか……頼んだのが、お前で良かったよ。岡流には、俺から上手く言っておく。絶対に無理はするなよ」
もちろん、文武事務機社員としては、無理する気はない。でも、魔王様的にきな臭い物を感じているんだよね。
◇
漁協に加工場、スーパーに福祉施設。魔王様の地道な営業が功を奏して、今日も大忙しなのです……たまに新規の紹介とかあって、非常に助かっています。
これから行くのは、そんな新規の所。前に寄った営業先で、訪ねて欲しいって言われたのだ。なんでも健康関係のNPO法人らしい。
そしてやって来たのは、街はずれの一軒家。
「初めまして。紹介して頂いた文武事務機の岩倉です。本日はご挨拶に伺わせてもらいました」
お客様に悪いけど、警戒心が高まる。停まっている車はなし。でも、中から人の気配はしている。
本当に、ここはNPO法人なんだろうか?
「文武事務機さんですね、ご苦労様です。どうぞ、中へお入り下さい」
出迎えてくれたのは、やたらとごつい男性。どう見ても堅気には見えません。
「お忙しそうですし、今日はパンフレットだけを置いていきますね」
これは絶対に罠だ。でも、下手だなって思う。罠にはめるなら、確実に餌に食いつかせないと。
(車がないのはナンバーを控えさせない為か)
そして堅気ではないけど、プロでもないと思う。
「そんな事言わずに……なんか、こそこそ嗅ぎまわっているみたいじゃねえか?おい、こいつを中に連れていけ」
奥から強面の男達がぞろぞろと出てきた……これで確定だ。その筋の人は、もっと狡知で、初手からこんなヘマはしない。
「そんな、嗅ぎ回るだなんて。知人から『仁漁に行ったら連絡が取れなくなった人がいるから、探して欲しい』って頼まれただけですよ」
穏やかな笑みを浮かべながら、ゆっくりと返事をする。この手の奴はビビったら、つけこんでのくるが定番。
「良いから、来い。化け
男が背後を見てニヤリと笑った瞬間、後ろの連中が人狼に変化した。
(さっきまで気配は人の物だった……つまり太郎君と同じ魔石を植え付けられたパターンか)
「ワーウルフか……おい、臭いで俺が誰か分からないのか?人の営業エリアでふざけた真似すると、玉ねぎを食わせるぞ!」
今回のからくりが、何とか分かってきた。どうもユニフォームガーディアンも、一枚岩じゃないらしい。
「おい、お前等どうした?あいつを襲え」
男が激を飛ばす。しかし、ワーウルフは微動だにせず。中には尻尾を縮こまらせて、怯えている奴もいた。
「やばいって。あの臭い、ジャント様の物だぞ。親父が頂いた剣に残っていた臭いと似ている」
「でも、ジャント様は死んだんだぞ。こっちの世界にいる訳ないだろ?」
「関係者でも、やばいんだって。今、ブラッド様も来ているんだぞ」
お互いの目を見ながら、ひそひそと話すワーウルフ。そのまま、シンキングタイムに突入。
「おい、ジャントって誰なんだよ?早く、あいつを殺せ」
男の話を聞いてさらに続くシンキングタイム。
「ジャント様を呼び捨てって、絶対アウトだよな」
「もう向こうに戻った方が良くね?」
「でも、まだ仕送り出来る程、稼げてないぞ」
……出稼ぎだったのか。多分、まだ少年のワーウルフだ。
そうか、生活が苦しいのか……途中で死んだ俺にも遠因があると思う。
「これを持って帰れ。でも、俺の事は秘密だぞ」
亜空間にしまっておいた向こうの金をワーウルフに渡す。
「こんな大金……もしかして、本当の……」
「ありがとうございます!これがあれば、弟達も餓えずに済みます」
「良かった。婆ちゃんの薬を買える」
良い子達じゃん。おじさん泣いちゃうぞ。
「
この男は、組織……竜崎財閥の末端だ。詳しい情報は何も持っていないと思う。でも、王として許す訳にはいかない。
「俺は何も知らない。ここで人を拘束しろって言われているだけなんだ」
さて、ここでこいつを殺すのは簡単だ。でも、後始末が面倒なんだよね……記憶を弄るか。
「えーと、俺が来たけど、電話で出れなかった事にして……ワーウルフ達はホームシックで帰宅……それでもって……岡流渡だ。こいつ等は証拠隠滅の為に、町に捨て去れば問題ないな」
ワーウルフの一匹が、岡流渡に戻った。多分、竜崎財閥の事を探っているうちに捕まったんだと思う。そしてワーウルフの魔石を植え付けられたと。
どう考えても、自業自得だ。家族の為に異世界に来たワーウルフの若者と大違いだ。
男の記憶を弄って帰路に着く。結局、新規はゲットできず、徒労に終わりました。
(腹減ったな。食堂に寄っていくか……電話?)
町に着くと同時にスマホが鳴った。電話の相手は大村先生。まだ勤務中だよね。
「岩倉、今から戻って来れるか?竜崎学園から対抗戦の申し出があったんだ」
しかも条件は負けたら介部のパーティーに加入する事らしい……コンビニ寄ったら怒られるかな?
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