寿司と蛙ロケット?

十代の食欲って凄いんだな。普通、女子高生ってダイエットを気にして小食になると思っていたんだけど。


「鯵、うまっ!しげちゃん、食べないなら僕がもらうよ」

 俺の返事を聞く前に、鯵に手を伸ばす桜。


「食うよっ!お前、晩飯食べて来たんだろ?」

 桜達はホテルで夕食を食べた筈。だから、絶対に寿司は残すと思ったんだけどな。


「あんなの食べたうちにはいらないよ。かえってお腹が空いたもん」

 なんでも夕食は野菜を中心にしとしたメニューだったらしい。


「本当にそうだぜ。精進料理でも、もっとお腹いっぱいになるっての。メインが大根ステーキって酷くないか……唐揚げうまっ!」

 そう言いながら唐揚げを頬張る秋月さん。それは竜崎ホテルの名物になっている野菜を使ったフルコースだと思う。お値段はかなりお高め。OLさんや奥様には大好評らしいが、肉好きの秋月さんには物足りなかったようだ……でも唐揚げは、一人何個って計算してしまう魔王様はみみっちいのでしょうか?


「素直達もコンビニに行ってたみたいだよ」

 流石に男子には物足りなかったらしく、大勢コンビニへ行ったらしい。でも、女子は男子の目を気にして行かなかったと……皆、俺の前では大口を開けて食べているよね………魔王様は男扱いされていないとか。

(昔ならおじさんだからって、残念がっていたんだろうな)

 漫画やラノベを読んで羨ましいって思っていた時期もありました……あれはあくまで創作なんだよな。


「でも、勉強になったよ。あれなら慈人さんも美味しく食べられると思うな」

 夏空さんの言葉を聞いて皆がニヤニヤした顔で俺を見てきた。

 嬉しいよ、好意は凄く嬉しい。でも年の差があり過ぎる。無下にも出来ないし、魔王様の胃は痛む一方なのです。

 皆、笑顔でご飯を食べている。前世の餓鬼時分は、腹を空かせている事が多かった。

 魔王になると、流石に腹いっぱい食える様になったけど、食糧問題にはいつも頭を悩ませていた。

(子供がお腹一杯食える幸せか……)

 日本の農業技術や養殖を持ちかえれば、向こうの食糧事情も変えられる筈。


「明日も大変なんだろ?好きなだけ食って良いぞ」

 子供が平和に暮らせて、腹いっぱい食える社会。それが俺の政治指針の一つだ。


「やった!しげちゃん、ヒラメもらうね」

「俺は赤身もーらい」

 二人共、反応早くない?


「それと竜崎の教師と、海から聞こえてくる歌声には気を付け下さい。何か気になる事がったら、ライソをお願いしますね」

 昼間は本業があるので、ホテルにいられない。桜達が頼りなのだ。


「竜崎の先生ってユニフォームガーディアンの顧問だよね。いつも、女の子とイチャイチャして嫌なんだよね。自分の年を考えろっての」

 やめて、桜。それ俺にも効くから。


「あれはジョブの力を悪用しているんだよ。生徒さんは被害者だ……そしてラルムの生徒を狙っている危険性がある。ホテルの敷地内なら、予防策を張っておいたけど、警戒するのに越した事はない」

 情報の共有って大事よ。女性生徒へのアフターフォローにも繋がるし。


「ジョブですか?そんな都合の良いジョブなんてあるのですか?」

 雪守さんが不思議そうに聞いてくる。少なくとも、前世ではなかった。日本で言うとホストが近い気もするけど、似て非なる物だし。


「名前は介部かいべ君守きみもり、竜崎の数学教師です。ジョブはロード、つまり君主。早い話が王様ですよ」

 夏空さん以外の視線が冷たくなる。言っておく。本当の王様って、そんな美味しい職業じゃないぞ。


「しげちゃんも似た事……出来る訳ないか。出来ていたら、とっくに結婚しているもんね」

 桜君、フォローありがとうございます。でも、魔王様のハートに傷を付けている事も忘れないで下さい。


「王様になれる最低限の条件として領地と領民がある。介部、はそのどっちも持っていない。一部のジョブってのは、本当の職業じゃなくて概念の方が近いと思うぞ」

 職業は、能力が見合って初めて雇用してもらえる。でも王は雇用する側だ。何より戦士も魔法使いも兵士として雇用しているから、ジョブは兵士な筈。正確に言うと魔王軍○○隊〇〇班所属の兵士となるのだ。

 それに召喚士を雇用した事はないし、シーフじゃなく工作員として雇用していた。


「分かりました。気を付けます……慈人さん以外の男は警戒しますね」

 ……夏空さん、俺の事も警戒して下さい。むしろ距離を置いて……おじさんの自制心が崩壊寸前なんです。


 廊下が静かになった。予定表通り、消灯時間を迎えたのだ……つまり、今からは大人の時間。

 これで堂々とコンビニに行ける。桜と秋月さんが寿司を食い尽くしたので、魔王様はお腹がペコペコなのです。

 学生さんが泊まっている部屋を避けて、遠回りをして降りていく。


「う、嘘だろ?お菓子もないのか?」

 割合こそ少ないけど、一校の男子ともなればかなりの人数だ。弁当類は全滅。お菓子やパンも買い尽くされていたのだ。

 しかし、こんな事でへこたれる魔王様ではない。学生さんと違って大人は外出が自由。近くのスーパーに買い出しに行ってやる。

 ホテルを出た途端、ある異変に勘づく。明らかに昼間より魔物の気配が濃くなっていたのだ。

(絡まれるのも面倒だし、魔力は隠していくか)

 早速、魔力隠蔽を使ってみる。これで安心して買い出しに行けます。

 ……魔力のない俺はただのおじさんなんだよな。


「グギョギョ」

 刺身の匂いに釣られたのだろうか?スーパーを出て数分でゴブリンに絡まれました。


「随分とふざけた真似をしてくれるな。ここは俺の営業区域なんだぞ。お客様が怪我したら、どうするんだ?」

 一気に近づいてゴブリンを蹴倒す。今は勤務時間外、俺の自由時間を邪魔して良いと思っているのか?


「ゴブリンを倒すのに躊躇がない。噂のユニフォームガーディアン?それにしては年齢が……見た目も聞いたのと違うし」

 現われたのフロッグマン。早い話が蛙人間だ。両生類だから連れて来たのかも知れないけど、海水は苦手な筈だぞ。

 ユニフォームガーディアンの平均年齢は十代。なぜか見た目が整っている。だから、フロッグマンの言っている事は間違っていない。


「ああん?人の飯を邪魔した癖に言ってくれるじゃねえか。その舌、引っこ抜くぞ」

 でも、ムカついたのでフロッグマンの舌を思いっきり引っ張ってやった。千切らなかった魔王様は優しいと思います。

 

「痛いっ……しかも、この馬鹿力……お前は一体?」

 ……今の魔王軍って兵士の教育をちゃんとしているんだろうか?格上の存在への対処方法がなってないぞ。


「お前に許されるのは、俺の質問に答えるだけだ……舐めた口聞くと、ケツの穴から空気を入れて空に飛ばすぞ」

 やはり、魔物相手だと魔王モードになりやすい……桜達に、こんな態度をとったら一発で嫌われるだろうな。


「人間風情が生意気なっ……ぐえっ」

 舌を引っ張って近づけた後、腹に膝蹴りを入れる、


「餓鬼が生意気言うな……戦にプライドなんて必要ないんだよ。しかも、ここは敵地だ。必要なら、媚びを売って隙を作れ。媚びは金も掛からない戦術なんだぞ。ったく新生魔王軍は、こんな事を教えてないのか……今この辺に来ている旧魔王軍関係者はいるのか?」

 旧知の奴なら説教しなければ。


「ヴァンパイアのブラッド伯爵様だ……お前より数倍強いぞ……あのなんで私を縛るんですか?」

 フロッグマンの言う通り、ブラッドは今の俺より強い。そして俺がジャントだと認めさせるのは困難だ。

(ブラッドは、なんで日本に来たんだ?)

 あいつの性格から考えると新生魔王軍に入ったとは考えにくい。でも、今は接触を避ける方が賢明だと思う。


「そっちは海ですよね?まさか、本当に……」

 PS・フロッグマンはむかついたので、蛙ロケットにして海に飛ばしました。

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