魔王様はお友達になる
間方の魔石を調べようと思っていたんだけど、なんか皆様俺に用事があるようです。
「慈人、少し話をしようか?」
舐めてもらっては困る。猿人の力で拘束出来ると思っているのか?
「良いけど……そうだ、海灘さん達は無事だったのか?」
必殺!話題変更の術。苦手なお得意様から飲みに誘われそうになった時に有用です……だって大村、真剣過ぎて怖いだもん。
「ああ、お陰で海灘と永倉は、無事だったよ……お前、夏空に何を言った?」
質問の意図が見えません。二人の護衛をお願いしただけだし。
「しげちゃん、しげちゃん。祭に告ったって本当?もう、祭の事が、好きなら言ってくれたら良いのに」
桜は何を言ってるんだ?俺が夏空さんに告白?……戦況把握は王の務め。そんな無謀な戦いをしないぞ。
絶対に断れて気まずくなるに、決まっているじゃん。
「祭が『岩倉さんから大事な人だ』って、言われたって喜んでいたんだぞ。身に覚えはないとは言わさないぞ」
記憶を整理する。間方が夏空さんに目を付けて……『俺の大事な人に指一本でも触れてみろ!本当の地獄に送ってやらあ』って言ったんだよな。言ってるじゃん、俺。告白って思われても仕方がないワードです。
「勢いというか激高してしまい……はい、言いました」
なんか、俺が地獄に送られそうな空気なんですけど。
「祭さん、前から岩倉さんに惹かれていたんですよ。だから、凄く喜んでいましたわ……今更なしは駄目ですからね」
雪守さん、追撃は止めて下さい。おじさんをこれ以上窮地に追い込むのは勘弁して欲しいんですが。
「フェーアさんから事情は聴いているよ。でも、祭は祭であってフェスティさんじゃない。どうするんだ?」
考えろ。ここで話題変更の術は、悪手だ。どうすれば、夏空さんを傷つけないで済む。
「フェーアさん?それはどなたですか」
雪守さんが不思議そうな顔をする。ここで俺の前世を知らないのは雪守さんだけ。そしてフェスティさんの事を知らないのは、雪守さんと桜。
「フェーアさんは、俺の魔石の持ち主だった人さ。フェスティは、祭の前世での名前。そして岩倉さんの前世は魔王で、
秋月さん、簡潔な説明ありがとうございます。ちなみに夏空さんは、海灘さん達の護衛役として部屋に残ってもらったそうだ。
「く、詳しい話は部屋でしましょう」
冷や汗が滝の様に、流れている。さっきから春告鳥先生の冷たい視線が、背中に刺さりっぱなしです。
◇
どうする?全員の記憶を弄るか……フェーアさんが許してくれないだろうな。絶対に師匠が口をだしてくるし。
「やっと巡り合ったけど、祭ちゃんに前世の記憶はなし。だから、しげちゃんは、祭と距離をとっていたんだ」
はい、桜君正解です。でも、誤爆で距離が縮まってしまった様です。
「ああ、自分の気持ちを抑える自信がなかったからな。おっさんに好かれても良い迷惑だろ……それに前世の好感度を利用するのは、夏空さんにもフェスティにも失礼だ。俺は幸せを見守っているつもりだったんだよ」
これが俺の本音だ。世間体も大事だけど、一番大事なのは夏空さんの幸せなんだから。
「……真面目魔王だ。しげちゃん、敵は平気ではめるのに、どうして恋愛は堅物なの?中年なのに、中学生みたいだよ」
赤ちゃんの頃から知っている
「だって、夏空さんはモテるんだろ?そんな中、前世の縁とかで、おじさんが横入りしたら、その子に申し訳がないだろ?それにそんな
「岩倉さんが独身な理由分かった気がするよ。俺に『お前は綺麗ごとしか知らないお嬢様達の司令塔だ。常に敵の動きや戦略を考えろ。仲間の手綱を握れ』て言った癖に、恋愛は石頭なんだな。今時少女漫画でも、そんなお堅いキャラいないぞ」
お堅くないぞ。俺は悪逆非道な魔王だって、猿人から恐れられていたんだぞ。
「春告鳥先生、分ってくれましたか?しげちゃんは、魔王だけど危険人物じゃないって……間方みたいに魔法を悪用しろって言わないけど、もう少しアグレッシブになれないの?」
最初は夏空さんに告白された事を糾弾されると思ったんだけど、恋愛観を駄目だしされているんですけど。
「岩倉さん、フェーアさんから伝言だ。『魔石にフェスティの意志は、殆んど残っていない。あったら、俺に干渉してくる……ちゃんと自分の言葉に責任を持て』だってさ。だから、祭の気持ちは、祭のものだ…逃げないよな」
女子校生に詰められる齢330年の魔王様。良いだろう、覚悟の違いってやつを見せてやる。
「お、お友達からって事で……もちろん、手は出さないぞ」
なんで皆溜息をつくの?ベストアンサーじゃん。唯一の同性である大村に助けを求める。
「岩倉、前世の事を抜きにしても、夏空に好意を持っているだろ?だから大人って立場から出ない様にしていた。どっちも傷つかない為にな……ところでなんて間方を逃がしたんだ」
流石は大村先生。話題を変えてくれた。それと正直に言おう。滅茶苦茶タイプです。
でも、おじさんが女子校生をタイプって言ったら絶対に引かれるじゃん。
「一番の理由は、夏空さんと女の子達の安全の確保だ。檻の中にいれば、手を出せないからな。もう一つの理由は、後から教えるよ……それと、誰か夏空さんを呼んで来てもらえますか?」
神様……出来たら、師匠以外の神様にお願いします。ごめんなさいパターンにして下さい。
まあ、俺にはとっておきの秘策があるけどな。
◇
良くラノベで、おっさんが若い子のハーレムを築くやつがある。ねえ、君達は、世間の目で胃がいたくないの?魔王様はお友達一人で胃酸が大荒れなんですが。
(夏空さん、なんで本と箱を持って来たんだ?)
後、凄くキラキラした目で俺を見ています。
「慈人さん、さっきほどはありがとうございました……あの恰好良かったです」
そう言って顔を赤らめる夏空さん。嬉しいけど、胃の痛みが倍増したのは、なぜでしょうか?
「無事で良かったです……皆、これを見てくれ」
間方の魔石を取り出す。ここにいるのは全員ユニフォームガーディアンの関係者。魔石に関心がある筈。
「岩倉、これって」
魔石を持たない大村でさえ、茫然としていた。それ位間方の魔石は、彼の知っている物と違っていた。
「間方の魔石だよ。欲に溺れた所為で、穢れを溜め込んだ魔石だ」
魔石の中では、ヘドロの様な物が蠢いていた。封印しないと、周囲に害をもたらすレベルだ。
これが俺の秘策だ。恋愛も大事だけど、命はもっと大事。このままお友達路線で確定さて下さい。
「魔石って、こうなっちゃうんだ。気を付けないとね……祭、しげちゃんが『お友達からお願いします』だって。年を気にして言えなかったみたいよ」
桜、ナイスフォロー。今度お小遣いあげます。お友達ならプライベートで関わる事はないだろう。
「よろしくお願いします。今度、お友達として、ここに行きたいです」
夏空さんは、本の1ページを指さす。それは師匠が貢ぎ物として指定したお洒落なケーキ屋が載っている記事だった。
「友達ならケーキを食べに行っても、問題ないよな。岩倉さん、よろしくな」
今の高校生って、そんなに進んでいるの?おじさんの高校時代って、もっと純だっよ……モテなかっただけって話もあるけど。
「そうだ。慈人さん、宅配代わりに受け取っておきました」
そう言って夏空さんは、箱を差し出してきた。そういや今日届く予定だったもんな。
「川島のだけキミプリンだっ。しかも十個入り。流石、しげちゃん、デザートまで準備しているなんて」
川島の嶽キミプリン。某鉄道すごろくゲームに出てくる地元の有名なお菓子。俺は、これが大好きで毎年注文している。
「これ一度、食べてみたかったんです。慈人さん、もらっても良いですか?」
恋愛は餓鬼レベルかもしれなけど、俺は良い大人だ。それなりの分別がある。
「一人一個ですよ。秋月さん、妹さんに持って帰りませんか?フェーアさんにコンタクトとって、アイテムボックス作りますよ」
ここにいるのは全部で七人。それに実さんとフェーアさん……師匠にも捧げないと、まずいよね。丁度十個じゃん。
「すげー、このトウモロコシプリンに負けない甘さだっ。実の奴喜ぶぞっ」
相変わらず秋月さんは
「これって冷凍で届くんですよね。今度、素直と食べてみます」
そして雪守さんは、今日も川路君一筋。
「懐かしいな、良くお父さんが買ってくれたんだよね」
桜は春人さんを思い出して、涙ぐんでいた。この顔を見れたのなら、大好物のプリンも惜しくない。
「慈人さんも、甘い物お好きなんですね。デート楽しみです」
デート?確かに二人で出掛けたらデートになるだろうけど……先生が睨んでいるから、ここでは止めて。
◇
数日後、間方が獄中で殺された。
(ダニの居場所は土貴と竜ヶ崎……面白くなってきたな)
あのダニは魔力を持った奴についていく。つまり間方を殺した奴は、土貴と竜ヶ崎の関係者である可能性が高いって事だ。
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