魔王様はお友達になる

 間方の魔石を調べようと思っていたんだけど、なんか皆様俺に用事があるようです。


「慈人、少し話をしようか?」

 親友おおむらが怖い顔で、肩を掴んできた。しかし、俺は元とはいえ魔王だ。

 舐めてもらっては困る。猿人の力で拘束出来ると思っているのか?


「良いけど……そうだ、海灘さん達は無事だったのか?」

 必殺!話題変更の術。苦手なお得意様から飲みに誘われそうになった時に有用です……だって大村、真剣過ぎて怖いだもん。


「ああ、お陰で海灘と永倉は、無事だったよ……お前、夏空に何を言った?」

 質問の意図が見えません。二人の護衛をお願いしただけだし。


「しげちゃん、しげちゃん。祭に告ったって本当?もう、祭の事が、好きなら言ってくれたら良いのに」

 桜は何を言ってるんだ?俺が夏空さんに告白?……戦況把握は王の務め。そんな無謀な戦いをしないぞ。

 絶対に断れて気まずくなるに、決まっているじゃん。


「祭が『岩倉さんから大事な人だ』って、言われたって喜んでいたんだぞ。身に覚えはないとは言わさないぞ」

 幼馴染なつぞらさんみの事だけあり、秋月さんの目は真剣そのもの……大事は人?

 記憶を整理する。間方が夏空さんに目を付けて……『俺の大事な人に指一本でも触れてみろ!本当の地獄に送ってやらあ』って言ったんだよな。言ってるじゃん、俺。告白って思われても仕方がないワードです。


「勢いというか激高してしまい……はい、言いました」

 なんか、俺が地獄に送られそうな空気なんですけど。


「祭さん、前から岩倉さんに惹かれていたんですよ。だから、凄く喜んでいましたわ……今更なしは駄目ですからね」

 雪守さん、追撃は止めて下さい。おじさんをこれ以上窮地に追い込むのは勘弁して欲しいんですが。


「フェーアさんから事情は聴いているよ。でも、祭は祭であってフェスティさんじゃない。どうするんだ?」

 考えろ。ここで話題変更の術は、悪手だ。どうすれば、夏空さんを傷つけないで済む。


「フェーアさん?それはどなたですか」

 雪守さんが不思議そうな顔をする。ここで俺の前世を知らないのは雪守さんだけ。そしてフェスティさんの事を知らないのは、雪守さんと桜。前世まおうの話で煙に巻くか。


「フェーアさんは、俺の魔石の持ち主だった人さ。フェスティは、祭の前世での名前。そして岩倉さんの前世は魔王で、フェスティの婚約者なんだよ」

 秋月さん、簡潔な説明ありがとうございます。ちなみに夏空さんは、海灘さん達の護衛役として部屋に残ってもらったそうだ。


「く、詳しい話は部屋でしましょう」

 冷や汗が滝の様に、流れている。さっきから春告鳥先生の冷たい視線が、背中に刺さりっぱなしです。


 ◇

 どうする?全員の記憶を弄るか……フェーアさんが許してくれないだろうな。絶対に師匠が口をだしてくるし。


「やっと巡り合ったけど、祭ちゃんに前世の記憶はなし。だから、しげちゃんは、祭と距離をとっていたんだ」

 はい、桜君正解です。でも、誤爆で距離が縮まってしまった様です。


「ああ、自分の気持ちを抑える自信がなかったからな。おっさんに好かれても良い迷惑だろ……それに前世の好感度を利用するのは、夏空さんにもフェスティにも失礼だ。俺は幸せを見守っているつもりだったんだよ」

 これが俺の本音だ。世間体も大事だけど、一番大事なのは夏空さんの幸せなんだから。


「……真面目魔王だ。しげちゃん、敵は平気ではめるのに、どうして恋愛は堅物なの?中年なのに、中学生みたいだよ」

 赤ちゃんの頃から知っている高校生さくらから、中学生扱いされるとは。


「だって、夏空さんはモテるんだろ?そんな中、前世の縁とかで、おじさんが横入りしたら、その子に申し訳がないだろ?それにそんな下駄こうかんどで、夏空さんの気持ちを踏みにじる訳にはいかない」

 前世フェスティ前世フェスティ今世なつぞらさん今世なつぞらさんなんだから。


「岩倉さんが独身な理由分かった気がするよ。俺に『お前は綺麗ごとしか知らないお嬢様達の司令塔だ。常に敵の動きや戦略を考えろ。仲間の手綱を握れ』て言った癖に、恋愛は石頭なんだな。今時少女漫画でも、そんなお堅いキャラいないぞ」

 お堅くないぞ。俺は悪逆非道な魔王だって、猿人から恐れられていたんだぞ。


「春告鳥先生、分ってくれましたか?しげちゃんは、魔王だけど危険人物じゃないって……間方みたいに魔法を悪用しろって言わないけど、もう少しアグレッシブになれないの?」

 最初は夏空さんに告白された事を糾弾されると思ったんだけど、恋愛観を駄目だしされているんですけど。


「岩倉さん、フェーアさんから伝言だ。『魔石にフェスティの意志は、殆んど残っていない。あったら、俺に干渉してくる……ちゃんと自分の言葉に責任を持て』だってさ。だから、祭の気持ちは、祭のものだ…逃げないよな」

 女子校生に詰められる齢330年の魔王様。良いだろう、覚悟の違いってやつを見せてやる。


「お、お友達からって事で……もちろん、手は出さないぞ」

 なんで皆溜息をつくの?ベストアンサーじゃん。唯一の同性である大村に助けを求める。


「岩倉、前世の事を抜きにしても、夏空に好意を持っているだろ?だから大人って立場から出ない様にしていた。どっちも傷つかない為にな……ところでなんて間方を逃がしたんだ」

 流石は大村先生。話題を変えてくれた。それと正直に言おう。滅茶苦茶タイプです。

 でも、おじさんが女子校生をタイプって言ったら絶対に引かれるじゃん。


「一番の理由は、夏空さんと女の子達の安全の確保だ。檻の中にいれば、手を出せないからな。もう一つの理由は、後から教えるよ……それと、誰か夏空さんを呼んで来てもらえますか?」

 神様……出来たら、師匠以外の神様にお願いします。ごめんなさいパターンにして下さい。

 まあ、俺にはとっておきの秘策があるけどな。


 ◇

 良くラノベで、おっさんが若い子のハーレムを築くやつがある。ねえ、君達は、世間の目で胃がいたくないの?魔王様はお友達一人で胃酸が大荒れなんですが。

(夏空さん、なんで本と箱を持って来たんだ?)

 後、凄くキラキラした目で俺を見ています。


「慈人さん、さっきほどはありがとうございました……あの恰好良かったです」

 そう言って顔を赤らめる夏空さん。嬉しいけど、胃の痛みが倍増したのは、なぜでしょうか?


「無事で良かったです……皆、これを見てくれ」

 間方の魔石を取り出す。ここにいるのは全員ユニフォームガーディアンの関係者。魔石に関心がある筈。


「岩倉、これって」

 魔石を持たない大村でさえ、茫然としていた。それ位間方の魔石は、彼の知っている物と違っていた。


「間方の魔石だよ。欲に溺れた所為で、穢れを溜め込んだ魔石だ」

 魔石の中では、ヘドロの様な物が蠢いていた。封印しないと、周囲に害をもたらすレベルだ。

 これが俺の秘策だ。恋愛も大事だけど、命はもっと大事。このままお友達路線で確定さて下さい。


「魔石って、こうなっちゃうんだ。気を付けないとね……祭、しげちゃんが『お友達からお願いします』だって。年を気にして言えなかったみたいよ」

 桜、ナイスフォロー。今度お小遣いあげます。お友達ならプライベートで関わる事はないだろう。


「よろしくお願いします。今度、お友達として、ここに行きたいです」

 夏空さんは、本の1ページを指さす。それは師匠が貢ぎ物として指定したお洒落なケーキ屋が載っている記事だった。


「友達ならケーキを食べに行っても、問題ないよな。岩倉さん、よろしくな」

 今の高校生って、そんなに進んでいるの?おじさんの高校時代って、もっと純だっよ……モテなかっただけって話もあるけど。


「そうだ。慈人さん、宅配代わりに受け取っておきました」

 そう言って夏空さんは、箱を差し出してきた。そういや今日届く予定だったもんな。


「川島のだけキミプリンだっ。しかも十個入り。流石、しげちゃん、デザートまで準備しているなんて」

 川島の嶽キミプリン。某鉄道すごろくゲームに出てくる地元の有名なお菓子。俺は、これが大好きで毎年注文している。


「これ一度、食べてみたかったんです。慈人さん、もらっても良いですか?」

 恋愛は餓鬼レベルかもしれなけど、俺は良い大人だ。それなりの分別がある。


「一人一個ですよ。秋月さん、妹さんに持って帰りませんか?フェーアさんにコンタクトとって、アイテムボックス作りますよ」

 ここにいるのは全部で七人。それに実さんとフェーアさん……師匠にも捧げないと、まずいよね。丁度十個じゃん。


「すげー、このトウモロコシプリンに負けない甘さだっ。実の奴喜ぶぞっ」

 相変わらず秋月さんはいもうとさんが可愛くて仕方ないらしい。


「これって冷凍で届くんですよね。今度、素直と食べてみます」

 そして雪守さんは、今日も川路君一筋。


「懐かしいな、良くお父さんが買ってくれたんだよね」

 桜は春人さんを思い出して、涙ぐんでいた。この顔を見れたのなら、大好物のプリンも惜しくない。


「慈人さんも、甘い物お好きなんですね。デート楽しみです」

 デート?確かに二人で出掛けたらデートになるだろうけど……先生が睨んでいるから、ここでは止めて。


 ◇

 数日後、間方が獄中で殺された。

(ダニの居場所は土貴と竜ヶ崎……面白くなってきたな)

 あのダニは魔力を持った奴についていく。つまり間方を殺した奴は、土貴と竜ヶ崎の関係者である可能性が高いって事だ。

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