魔王様は待ち構える
夢って何歳で諦めるものなんだろう。プロスポーツ選手や芸能人になれるのは、ほんの一握り。
殆んどの人は現実的な夢にシフトしていく。結婚、仕事で優秀な成績を残す、平穏な生活を送る等々。
(仕事以外全部叶わない夢になっちまったな)
結婚……あてすらありません。
平穏な生活……巻き込まれて、きな臭い話に片足どころか全身突っ込んでいます。
ちなみに俺の子供の頃の夢は勇者になる事……実際は倒される側の、魔王だったんですけどね。
「定時報告です。間方は未成年を雇用して、お偉いさんや金持ちを接待させていました」
ある程度、店の調査が終わったので、理事長先生と
「お偉いさん……もしかして、政府の関係者もいるんですか?」
副追さんの顔つきが変わる。そりゃ、そうだ。政府の高官が未成年の接待を受けていたなんて醜聞以外の何でもないんだし。
「今の所区や都の職員ですね。こちらが確認出来た人物です」
テーブルに写真を並べていく。知っている顔がいるらしく、副追さんが頭を抱えました。
角が戻ったお陰で、面識がない人でも鑑定が出来る様になったのです。とは言っても、個人名と肩書位だけど……鑑定と言うより潜在意識を読み取っている感じです。
「岩倉君も店に行ったんですか?」
理事長先生の目が怖い……教育者としては許し難い事なんだろう。
「いえ、サラリーマンが未成年の接待を受けていたなんて、知られたら社のイメージダウンは確実です。近くで待機して調査したんですよ」
今回もゴミ箱の中に隠れていました。ゆっくりくつろげる様に、ごみ箱内に畳を設置。お陰で靴を脱いで自室感覚で調査出来たのです。
それに脅迫のネタに使われる危険性がある。女子校生相手に鼻の下伸ばしている写真なんて撮られた日には……おー、怖い。
「それを聞いて安心しました。それで、これからどう動くんですか?」
今回も丸投げですか。いや、理事長先生が、あの店に行ったら、それこそ大問題だ。
「間方の出勤日が分かったので、あいつ個人の動きを調べようと思います。それと卒業したユニフォームガーディアンの周囲を注視して下さい。」
前に君についていたダニを植物園で捕まえておいた。眷族化させたので、あいつに調べさせようと思う。
日本での最初の部下がダニって……魔王様のプライドが。
「分かりました。私の方からも注意を促すメールを流しておきます」
つまり、副追さんは旧ユニフォームガーディアンと繋がりを持っていると。
「それと緊急時動ける様にしたいので、ユニフォームガーディアンだった生徒の現状を出来る範囲で教えて下さい」
これでユニフォームガーディアンのとっかかりが掴める。
「セキュリティーガーディアン……彼等は何をしたいんでしょうか?命懸けの戦いをしてくれた分、報酬やバックアップは十二分にしたつもりなんですが」
理事長先生は恵まれた成功者だ。彼等の気持ちは分からないのかも知れない。
お題目通り自衛も含まれていると思う。でも、普通の生活を送っていたら魔物に会う事は滅多にない。
会ってもゴブリン。戦いの基礎が出来ていれば、対処するのは難しくない。強力な魔物なら副追さんを通して
「夢に縋りたいだと思いますよ。一時とはいえ、ヒーローとしてもてはやされた。でも、高校を卒業したら、ただの人……簡単には割り切れないと思いますよ」
現状に不満があればある程、過去に縋りたくなる。本当の自分はもっと輝ける筈だと。
◇
報告を終えた俺は一路自宅へ……最近は店の調査ばっかりだったので、久しぶりの自由時間です。
ゆっくり飲みたい所だけど、そんな時間も体力もない。
(よし、久しぶりにあれを作るか)
一人暮らし歴十二年の魔王様が作るお手軽男飯。
用意する物 鯖の水煮缶一個 冷ご飯好きなだけ 醤油適当 あればネギ
まずは丼に冷や飯を好きなだけ盛る。今回は家にある一番でかい丼を使います。
そこに鯖缶を汁ごと入れる。さらに醤油も好きなだけ掛ける。
次にご飯と鯖缶を混ぜる。このままだと汁気も多いし、冷たいのでレンジへ。
ご飯がある程度汁を吸って、熱さも丁度良くなったら実食!
(うん、美味い……っと、グループライソに何を食ったか報告しないとな)
絶対桜達興味がないと思う。多分、見るのは明日の朝だと思う……秒で既読が付いたんですけど……しかも四って全員じゃん。
桜『しげちゃん、にゃんこまんまじゃん。少し目を離すとこれなんだから。おじさんとおばさんに報告するからね』
桜、やめて。この年で親から叱られたくないの。
静香『岩倉さん、忙しいの分かりますがご自愛して下さい』
雪守さん、見た目はあれだけど美味しいんですよ。健康にも良いし。
晴『岩倉さーん、弁当とか買えば良いじゃん。フェーアさんが一回ゆっくり話したいって』
絶対怒られるパターンじゃん。野営時の飯より良いと思うんだけどな。
祭『きちんと、お野菜も食べて下さい。今度ご飯作りに行きますね♪』
魔王様、女子校生に駄目だしされまくっています。飯よりがっつり寝たい気分なんですよ。
桜『それじゃ前に言ったタコパしよう。場所は、しげちゃんの家』
女子校生が四人も部屋に来る?勘弁して……通報待ったなしじゃん。
晴『それだったら、海灘も誘わないか?あいつ、最近元気ないし』
秋月さん、やめておこう。おじさん、センシティブな問題に関わりたくないの。
『やめた方が良いと思いますよ。多分、成人男性に嫌悪感を抱いていると可能性が高いですし。何より俺の事をなんて説明するんです?』
うん、上手い逃げだ。未成年の女の子に出入りされると、魔王様の世間体が崩壊するのです。
『そのまんま僕の知り合いで、歴史研究会の校外指導員をしている人って言えば良いじゃん。知り合いっていうのは、事実なんだし』
桜、良い子だから察して。おじさん、絶対空気になっちゃうから。
魔王様の切なる訴えは届かず、着実に進んでいく計画。海灘さん、断って良いんですよ。
◇
眷族にしたダニには位置情報が分かる魔法を掛けてある。
(間方がラルム近づいてきている?また海灘さんに近づく気か)
残念だったな、間方。魔王様もラルムにいるんだぞ。
「それで、俺はたこ焼きパーティーに駄目出しをすれば良いのか?」
俺がラルムにきた理由はただ一つ。大村先生を味方に付ける為だ。
「ちょっと待て。間方が学校に来た」
大村を誘い素知らぬふりで、間方に近づく。
「今度皆でタコパしよう」
間方は桜が海灘さん誘う所を見てニヤリと笑った。魔王様の領地に無断侵入したら、重罪なんだぜ。
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