魔王様は腹をさぐる
さっきから冷汗が止まらない。別にセーフティなんちゃらが怖い訳じゃない。身バレならぬ魔王バレ覚悟で戦えば余裕で勝てる。
(検問とかしていないよな)
バックミラーで後部座席を確認。そこにいるのは、すやすやと眠っている男女の高校生。
そう、大久保君と海灘さん……今お巡りさんに見つかったら、魔王様は未成年者略取で捕まってしまうのです。
お師匠様、危機管理通知アプリは俺にも有効なんでしょうか?
巡回パトカーに怯えながらも、無事に寮の近くまで到着。
すぐさま桜に電話を掛ける。
桜、お願い電話に出て。魔王様、社会的信用失いたくないの。
『しげちゃん、どうしたの?』
良かった。でも、まだ安心するのは早い。もし、外出中だったら危機続行なのだ。
『ちょっとな……桜、今寮にいるのか?』
魔王だけど、神様と仏様に祈る。あまり師匠に頼ると、後が怖いんです。
『良かった……寮の管理をしている人でユニフォームガーディアンの関係者はいるのか?』
早く学校関係者に丸投げしたいんです……大久保君と海灘さんって、寮住まいなんだろうか?
『今日は春告鳥先生が泊りに来ているよ……男子寮は大村先生だし』
なんでも寮にはユニフォームガーディアンの生徒が結構いるらしく、事情を知っている先生方が代わる代わる泊りに来ているそうだ。
これはラッキーだ。きっと俺の祈りが天に通じたんだと思う……師匠に何か贈らなきゃ駄目でしょうか?
『春告鳥先生に連絡取れるか?実はな……』
俺が事情を話したら、桜は大慌てで電話を切った。これで、安心。後は大村と春告鳥先生に丸投げします。
◇
……確かに俺は校外指導員の任を受けた。でも、もう勤務時間外だと思うの。
「それで、一介のサラリーマンをどこに連れて行くんだ?」
ただ今大村の運転する車で移動中、
事情を話すと大村達は顔を真っ青にした。そこからてんやわんやの大騒ぎ。
もう晩酌タイムはとっくに過ぎている。魔王様略取で訴えてやるぞ。
「理事長の家だ……政府の関係者も来る」
……なんだと?
「止めてくれっ!理事長先生だけでも、俺のキャパを超えているんだぞ!」
ユニフォームガーディアン関係って、絶対に高級官僚じゃん。俺の胃を壊す気か。
「……お前仮にも元魔王だろ」
仮じゃなく、がちで魔王なんだぞ。今はサラリーマンだけど。 それにエリート様って、こっちを見下してくるから嫌なんだよな。
「前世は前世、今は小市民リーマンなんだぞ。それに国家権力には出来るだけ、関わりたくないんだって」
かつて握っていた立場だから、国家権力の厄介さを知っているのだ。
味方になったからって、安心出来ない。深く関われば、関わる程、危険は増す。
国は感情で動かせない。時には非情に徹さなきゃいけない時もある。知り過ぎた奴は処分しなきゃいけないのだ。
「身をもって知っているから、分かる恐怖か……ところで大久保と海灘は無事なのか?」
無事か……何を持って無事っていうんだろ?
「海灘さんは催眠に掛かっていた時の記憶、大久保君は一時間位の記憶は消しておいた。でも、あの男にどんな事をされたかまでは調べてないぞ」
思いっきりセクハラになる可能性がある。
覗きは趣味じゃないんです……それに場合によっては、あの男の事を許せなくなると思う。
◇
今から転移魔法を発動しては駄目でしょうか?場所は高級住宅街、ホワイトネーゼが住んでいる所。
そこに建つのは、豪邸ばかり。警備を置かなきゃいけない家って、日本に存在したんだな。
「ここだ。一応、服装チェックしておけ」
まじか。門が自動で開いたぞ。
「田舎の農家なら分かるけど、都内でこの土地は反則だろ」
都内とは思えない広いお庭。しかも高級外車が三台停まっても、まだ余裕があるんだぜ。
「ある所にはあるんだよ。俺は家庭訪問で慣れたよ……大村です。今着きました」
ホテル並みに重厚なドア。大村君なんで、躊躇なくインターホンを押せるんですか?魔王様は既に胃が痛いってのに。
……ラルムって金持ちの子供が多いもんな。金でマウント取られる様じゃ、まともな指導は出来ないか。
「遅くに呼び出してすまないね。さあ、入り給え」
出迎えてくれたのは、背広を着た理事長先生……バスローブとは言いません。スエットとかで出迎えて欲しかったな。
そして通されたのは、ドラマのセットみたいな客間。
(この魔力は……元魔法使いだろうな。でも、まだまだだな)
猿人にしては、魔力は高いけど漏らし過ぎだ。あれじゃ、直ぐに実力がばれてしまう。
「初めまして、
そう言って不敵に笑う副老……ナチュラルにエリートマウントを取りやがって。魔王様、魔力マウントを取っちゃうぞ。
「副老君はうちの卒業生で信用のおける人間です。岩倉さんの事をある程度、話しているので……何があったか話してもらえますか?」
腹芸は魔王様時代の十八番だ。理事長に話している情報に沿って、起こった事を伝える。
「その男はこの写真の中にいますか?」
副老さんが取り出した写真には学生服を着た十数人の少年少女が映っていた。ラルムだけでなく土貴や竜崎女学院の生徒もいる。
(春告鳥先生がいるな。それに方相と副老さんか……あいつはっと)
「この人です」
海灘さんを襲った男は、土貴の生徒だった。写真では真面目そうな生徒だから、分かり辛いが面影がある。
「やはり
いや、情報って無料じゃないのよ。見返りが欲しいね。
一度、副老君の目を見てから、わざと口をつぐむ。
「岩倉さん、副老と間方は共に魔法使いだった人間です。その他に欲しい情報はありますか?」
流石は理事長先生、俺の腹を読んでくれた。
「それで納得出来ました。あれは、正に指輪なんですよ。インキュバスの指を加工した催い……眠用のマジックアイテムとでも言いますか」
淫と言い掛けたので、言い直す。魔王様は海灘さんのプライバシーに配慮したのです。
効果は抜群だ。ただし、物が物だけに、副作用が強い。確か猿人の国でも禁止されていた筈。
「それで、そいつを使うとどうなるんだ?お約束で自滅エンドなんだろ」
大村君、もっと引っ張って対価を吊り上げたいんだけど。
「正解。早い話が頭の中がピンク一色に染まるんだよ……手を付けちゃいけない相手でも、平気で口説くんだぜ。報復確定なマジックアイテムなのさ。しかも、問題はそれだけじゃない。あれを使った人間は、確実にインキュバスに殺される」
騎士団長の奥さんやお姫様に使って一族全部殺された馬鹿もいたんだよな。
「インキュバスを倒さないと、指輪は作れないのでは?」
副老さん、惜しい。確かにそうだけど、インキュバスも馬鹿じゃない。
「あれには、インキュバスの呪いが掛かっているんですよ。使えば使う程、インキュバスの下僕になっていくんです」
そして最後は無様に殺される。何しろ同族の指輪で作られたマジックアイテムだ。見逃す訳がない。
「岩倉さん、セキュリティーガーディアンの調査をお願いできませんか?元のユニフォームガーディアンの私達は顔が割れてしまっている。かといって魔力のない人間を調査に向かわせたら、確実に殺されてしまう」
副老さんはそう言うと、俺に頭を下げてきた。俺は偉いって感心したりしない。だって下手したら、俺や周囲が危険な目に遭う可能性もあるんだし。
「元ユニフォームガーディアンの情報をもらえますか?そしてこれは必須条件……俺の周りを嗅ぎまわったら、ただじゃおかねえぞ」
魔力を少しだけ解放して、マウントを取る。
配下に掛かる金は理事長を通じておねだりさせてもらいます。
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