魔王様は指示される

 神様が作った食事を口にする。それは神の功徳を体内に入れるという事だ。


「なに?これ!美味しいを通りこして、言葉にならないんだけど」

 桜は感動のあまり号泣している。まあ、俺と契約したから、美味しいだけで済んでいるんだけど。


「そりゃ、そうさ。師匠かみさまが創ったんだから」

 そう文字通り、師匠は料理を創ったのだ。師匠はそうあれと思っただけど、あらゆる物を創造する事が出来る。

 無から最高に美味しい焼き魚定食を創る事位、朝飯前なのである……可愛い弟子に新しい出会いは創ってくれませんでした。

 

「神様って、凄いんだね。一口食べる度に、身体の中が清められていく感じがするよ。みんなにも食べさせたいな」

 体内だけでなく、前世からの悪業や罪科も浄化されているのだ。しかも、これで桜は、師匠と繋がりが出来た。向こうの世界の呪いとかは、一切効かなくなるのだ。


「それは止めておけ。普通の人間にとって、師匠の料理はある意味毒だ。お前は俺と契約したから平気だけど、そうでなきゃ消毒薬を直飲みするようなもんなんだぜ」

 師匠の聖気に耐えきれず、存在自体が浄化されてしまう。


「神様が創られた物だもんね……しげちゃん、顔をしかめているけど、美味しくないの

 いや、味は美味しい。なんか嫌なスキルが付与されているんですけど。


「魔力隠蔽(神級)・信者勧誘・前世の縁・王権一時許可・危険察知・角隠し、なんかスキルが手に入っているんだよ」

 スキルなんて前世では聞いた事もなかったんだぞ。まあ、スキルとうたっているけど、ほとんど権利関係ばかりだ。

 後、師匠角隠しは花嫁さんの専用ですよ。使ったら頭に純白の布が巻かさるんじゃないだろうな。


「スキルもらったら嬉しいんじゃないの?」

 うん、成長途中ならそう思うよね。


「師匠がわざわざ俺に新しいスキルをくださるって事は、それが必要な事態に遭遇するって事なんだよ……食後のお茶はなに飲む?」

 ある程度の魔物には勝つ自信はある。しかし中級以上の魔族となると、色々問題が起きてくる。なにしろこっちは人や建物を守りながら、戦わなくてはいけないのだ。


「ジュース飲みたいから、冷蔵庫見ても良い?寮の部屋に冷蔵庫ないから、喉乾いた時困るんだよね」

 冷蔵庫か。俺も出先で使えたら便利だよな。


「ちょっと、待てよ。名前をアイテムボックスに変えて、空間を分けてっと……出来た。桜、お前用のアイテムボックスを作ったから、好きなジュース何本か持って帰って良いぞ。冷蔵空間ありだ」

 流石に時間停止機能は付けられなかったけど、十分便利だと思う。


「良いって。ジュース位自分で買うし……わざわざアイテムボックスに冷蔵機能つけなくても」

 俺が欲しかったって言うのもあるけど、分けないと大変な事になるのだ。


「水と食い物がないと、どんな強者でも死ぬんだよ。それとお前に剣を渡しておく。銘は龍姫の爪。素材は龍の爪とミスリルだ」

 切れ味は抜群なんだけど、俺にはちょっと軽すぎる。あの威勢の良い竜族のお姫様は元気だろうか?

 ちなみに剣を冷蔵空間に入れると冷え過ぎて、持てなくなってしまう。


「……持っただけで、分かる。この剣凄い力が宿っている」

 まあ、俺自ら錬成した剣なんだし。


「練習の時とかは、いつもの剣を使って実戦ではそれを使え。さあ、送って行くぞ。それと服を買ったら、連絡しろ」

 でも、買い物に付き合うのはパスです。若い子が服を買いに行くお店なんて、身の置き場がありません。


「しげちゃん、なにかお礼させてよ。僕に出来る事なら、なんでもするからさ」

 なんでもか……これは良い事を聞いた。


「それならケーキ屋に付き合ってくれ。師匠が食いたいって言ったケーキ屋なんだけど、おっさん一人じゃ入り辛いんだよ」

 さっきホームページを見たけど、ファンシー過ぎて無理でした。


 桜を寮まで送った帰り、突然スマホが鳴りだした。しかも聞いた事のない音だ。

 車を路肩に停め、スマホをチェック。


「危機管理通知アプリ?事故でも起きるっていうのか?しかも、このマークは……」

 見間違える事はない。これは師匠のシンボルだ。

 タップすると、周辺の地図と共に情報が表示された。


危険度:G 人間関係親密度:F  神様迷惑度:A

早急に対応する事

 神様迷惑度だけが赤字になっている。

 危機感知って俺じゃなく、危険な目に遭っている人を感知する能力なのね。

 神様迷惑度か。赤字でAって事は、かなり迷惑を被っている事か。

 地図に表示されているのは、雑居ビルの地下。


海灘うみなださん、永倉と付き合っているんじゃなかったのか」

 どこかで聞いた事がある声だと思ったら大久保君だった。大久保勇気君、桜のクラスメイトで、桜に片思い中との事。

(相変わらず熱いねー……どういう事?)

 てっきり、高校生同士の恋愛のもつれだと思ったのに。


「ごめんね。私は、この人に夢中なの」

 海灘と呼ばれた少女が応える。多分、高校生だと思うし、かなりの美少女だ。

 その目はうつろで、なんの意思も感じられない。


「そういう訳だ。帰りな、坊主」

 海灘さんと一緒にいたのは、二十代後半と思われるチンピラ風の男。海灘さんは真面目そうな少女だから、違和感が凄い。

(まあ、真面目そうな子ほど、不良に憧れたりするし……違和感?)

 良く観察してみたら、男から微弱の魔力を感じた……出所は男の指輪だ。


「あんなに仲良かったのに、なんで?」

 どうやら海灘さんと永倉君は、仲の良い恋人だったらしい……だから迷惑度Aなのか。


「しつこいな……これを見ろ」

 男の指輪が怪しく光る……まずい。


「良い年した大人が、魔道具で高校生をたぶらかすとはね」

 右手に魔力をまとわせ大久保君の目を覆う。そして魔王様には特大のブーメランが突き刺さりました。


「んだ?リーマンがなんの用だ?怪我したくなかったら、すっこんでろ!」

一、男をぶん殴る。慰謝料とかで脅されそう。

二・大久保君を連れて逃げる。なんの解決にもならない。

三・指輪を壊して、海灘さんの目を覚ます。一と同じ。


「インキュバスの指輪か。どこで手に入れた?」

 こうなれば相手を退かせるしかない。やばい事をしている自覚があるんのなら、逃げる筈。


「これは俺様が作ったんだよ。ユニフォームガーディアンいやセキュリティーガーディアンの俺様がな」

 いや、思いっきり治安を乱しているじゃん……まずい。


「そうかい。それだけ聞けば十分だ……スリープ」

 全員を眠らせて、大久保君と海灘さんを担ぐ。そのまま雑居ビルの屋上まで飛び上がる。

(仲間が来たか。数は六人……このまま顔を確認する余裕はないな)

 屋上を飛び回り、車で戻る。後は寮に戻ればなんとかなる……筈。

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