魔王様は師匠と再会する

 一般的な女神のイメージは、優しいとか美しいだと思う。

 確かに美しいのは否定しない……したら、ガチでしばかれるし。

 でも優しくはないし、一般的な常識は一切通じないんだぞ。


「師匠、なにをされているんですか?」

 家のドアを開けたら、女神ししょうが俺のお菓子をむさぼり食っていました。チョコやスナック菓子を手当たり次第に食べている。

 俺の力は異世界にある。それを創ったのは、師匠でもある女神クレエ様。つまり力の根源は師匠にあるのだ。当然、結界は無効になる。


「見れば分かるでしょ。供物の回収よ」

 いや、確かに俺は弟子である前に女神クレエの信者なんだけどね。どこの世界に供物を回収に異世界までくる女神がいるんだ!

 女神あんたは降臨を見たってだけで、聖人扱いされる存在なんだぞ。


「仕事はどうしたんですか?てか、創造神が世界から離れたら、まずいですよね」

 師匠は世界その物と言っても過言ではない。その気になれば世界を丸ごと作り変える事も可能だ。


「今の私は分体だから問題ないの……きちんと人間しているみたいで安心したわ。二ホンを滅ぼすとか息巻いていたのに、人助けまでしてるんだもん」

 そう言って煎餅をバリバリ食べる師匠……信者が見たら泣くぞ。


「こっちの世界にも恩人が出来ましたし……あー、今お茶淹れますよ」

  静かになったと思ったら、ビスケットの食べ過ぎでむせていた。どうやら、口の中の水分を全部持っていかれたららしい。


「流石は元魔王、気が利くわね。お礼にこれを貸してあげる」

 そう言って師匠が差し出してきたのは、一組の手袋……いや、これって簡単にあげたら駄目な物だろ。


「師匠、これって神具ですよね?」

 見た目はただの革手袋なんだけど、伝説級の神具である。なにしろ新しい神族が生まれた時、師匠はこの手袋をつけて権限を授けるのだ。

 元魔王で弟子だけど、気軽に触れて良い代物ではない。


「私の持ち物なんだもの、当たり前じゃない。良いジャント、魔石に触れる時や、新しく契約する時は、絶対にその手袋を使いなさい」

 この方は、どこまで把握しているんだ。


「ありがとうございます。師匠、まだ詳しい事は教えてもらえないんですね」

 この手袋を貸してくれるって事は、向こうの世界の神族もしくはそれに近い存在が関わっている事になる。


「時期が来たら教えるわよ。私は貴方を介さないと、こっちの世界に関われないの。貴方は私の自慢の弟子なんだから、頼んだわよ。それとご飯作っておいたから、落ち着いたら食べなさい」

 テーブルを見ると焼き魚定食が二人分置いてあった。だから落ち着いたら食べなさいのか。


「お任せ下さい。なにか日本の物で興味がある物はございますか?」

 神に定期的に供物を捧げるのは、当然の事である。ましてや神具を借りている状態なら猶更だ。

ちなみに神族は感謝・信仰されて当然っていう性質なので、見返りを求めていけない。ましてや師匠は神族から供物を捧げられる元締め的存在。がちで何を捧げよう。


「それなら供物箱を作っておいたから、ここに書いてある物を捧げなさい」

 これは異世界で買えないよね。リストに書かれていたのは都内でも人気のスイーツ。お洒落な店ばかりで、おっさん一人だと行き辛い所ばかりだ。


 チャイムが鳴ったので、玄関に向かう。いつもなら勝手に入って来る桜が入り口で固まっていた。


「どうした?上がらないのか?」

 いまさら遠慮するようなキャラでもないと思うが。


「わ、分かっているけど、なんか空気がおごそか過ぎて……」

 まあ、さっきまで本物の神様がいたからな。普通の人間なら空気だけで気絶していてもおかしくない。


「さっきまで師匠がいたからな。女神クレエ様に感謝しながら上がれば大丈夫だよ」

 師匠は桜に対して悪い感情を持っていないと思うから、神罰はくだらない筈。


「しげちゃんの師匠って神様だよね。本当に神様っているんだ……まあ、元魔王もいるもんね」

 さて、どうしよう。言葉を間違えればセクハラ魔王に認定されてしまう。あっさりいけば平気な筈。


「よし、桜。腹を出せ。ませ……」

 魔石という前にクッションが飛んできた。


「このスケベ魔王!部屋に呼んで、いきなりお腹を見せろなんて最低」

 あっさり過ぎたか。桜の腹なんて見てもなんとも思わないんだけど……それはそれで荒れるか。


「言い方があれだったな。今からお前の魔石を外す。そしてお前に質問だ。まず一つ目今ある魔石を改良する。俺が手を加えれば限界量を増やす事出来る。でも新しいスキルを覚える事は出来ない。二つ目は新しく契約し直す。この場合は、準備が少し面倒になる。さあ、どっちにする?」

 前者だと魔石に魔力を流せば、それで終わりだ。後者になると、最低でも三日は必要になる。


「契約って誰と?僕、魔族や魔物に知り合いいないよ。それに契約には代償が必要なんだよね。怖い魔族だと、命を取られたりたするんじゃないの?」

 こいつの目は節穴か?


「目の前に優しくて頼りになる魔王様がいるだろうがっ!命なんてもらっても困るんだよ」

 泣きわめく魂なんて気が滅入るだけだ。それを見ながら酒を飲むって魔族もいたけど、あれは特殊性癖の持ち主なんだぞ。


「分かっているって。それでしげちゃんの条件はなに?……まさかエッチなのじゃないよね?」

 そう言って顔を赤らめる桜……エロ漫画じゃあるまいし、そんな条件出す訳ないだろ。


「そんな事をしたら春人さんに合わせる顔がないっての……俺が出す条件は一つだけだ。仕事でも結婚でも良い。幸せになって後悔のない人生をおくれ。そしていつかあくせく働いている魔王に幸せを自慢しに来い」

 多分、俺は元の世界に戻る事になると思う。そうしたら、絶対に桜より長生きする。


「後悔しない人生か……それで準備ってなにするの?」

 これには桜の協力が必要だ。万能な魔王様でも無理です。


「金をやるから、戦いやすい服を買って来い。それを戦闘服に変える」

 魔王様は若い子の流行りが分からないから、ジャージを選ぶと思う。


「……それだけ?お小遣いもらってショッピングなんてご褒美じゃん」

 桜はユニフォームガーディアンで支給された金で、学費や生活費を賄っている。ちなみにユニフォームガーディアンになる条件は実家こうじょうへの援助。しばらく新しい服を買っていないらしい。

 この間春人さんと電話したら“親として情けない”って泣いていた。

 結婚出来るだけで、凄いと魔王様は思います。


「契約自体は簡単だからな。さあ、どっちにする?」

 俺が言う前に桜はお腹を出していた。師匠にもらった手袋をはめて魔石を抜き取る。

(わずかだけど神気がある?素手で触っていたら、ばれていたな)

 やっぱり、知らない神様の気だ。ライフガーディアンって何の神様なんだろ?


「我が名はジャント、かつて魔族すべし王なり。春野桜、汝を契約者として認める」

 自分の魔石を取りだし、その一部を桜に埋め込む。


「ち、力が溢れてくる……剣術スキルの上限が百万?単位がおかしくない?」

  それでも抑えた方なんだぞ。オンオフも自在だし、変身しなくてもある程度戦える仕様にしました。


「それと変身用のペンダントを貸してくれ。魔石の中に何か入っているな……土器の欠片?なんで、こんな物を触媒にしているんだ?」

 まじでライフガーディアンって何者なんだ?


「美味しそうなご飯!しげちゃんが作ってくれたの?」

 契約したから、食べさせても平気だと思う。創造神の作った料理を普通の人間が食べたら、下手すりゃ死んでしまう。だから師匠は落ち着いてから食べろって言ったのだ。


「師匠が作ってくれたんだよ。だから、ずっと適温なのさ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る