魔王様は部下が欲しい
サラリーマンにとってホウレンソウは重要だ。取引先が相手となれば尚更である……分かっているけど、入り辛い。
方相をぶっとばした次の日、理事長直々にお呼び出しが来たのです。
意を決して、ドアをノックする。
「遅くなって申し訳ございません。岩倉です」
時間ぴったりなのに、遅くなってと言ってしまう不思議さ。理事長に、急な来客とか来ていないかな。
「お待ちしていました。さあ、お入り下さい」
理事長は方相の店を監視していた。当然、夕べ俺が店に行った事も把握している筈。
理事長に、その気があれば俺を傷害罪で通報する事も可能なのだ。
「失礼いたします……まじか」
違う意味でやばさを感じています。いつもはお茶位しか出ないのに、高級そうなケーキがテーブルに置かれている。
手をつけないのは失礼にあたるし、手を付けたら同意したと捉えられてしまう。
まさに究極の二択である。
「昨日、方相徹の店に行かれましたね?何があったか教えて頂けますか?」
偉い人の満面の笑みって、どうしてこんなに圧力を感じるんだろう?
「会社の後輩が方相の店に行きまして、急遽訪ねる形になりました」
そこから俺は昨晩の事を、かいつまんで話した。流石に魔王モードで、大暴れしたとは言えない。
「そうでしたか……それは後輩さんと彼女さんには申し訳ない事をしましたね。お話を聞いていたら、もっと制裁を加えても、良かったのではと思いますが」
……どこまでを本音と捉えるべきか。前半の申し訳ないは社交辞令だと思う。そんな事を思う人間が、学生をユニフォームガーディアンにする訳がない。
制裁の方は本音というより希望だと思う。
「俺は警察でも神様でもなく、一介のサラリーマンですよ。誰かを罰する権限なんて持っていません。もし方相を殺したら、俺は殺人犯になりますし」
法で裁けぬ悪をなんて言えば聞こえは良いけど、法的にはただの犯罪者だ。そこまでするメリットはない。
「へえ、方相徹の反省に期待するというのですか?このままだと、罪を犯した者勝ちになるかと」
鼻で笑ってきそうな表情だ。
あんた教育者だろ!
「私にとって方相の反省何て一文の得にもなりませんよ。前に言いましたよね。大きな力には反作用が生じるって……方相は魔石を失い自衛する手段すらありません。俺が魔物なら放っておきませんよ」
その為に魔物を憑りつかせんたんだし。あいつ等は俺のアリバイ工作員であると同時に方相の死刑執行役でもあるのだ。
「期待通りの方で安心しました……未確認の情報なのですが、元ユニフォームガーディアンだった生徒達が非合法な組織を作っていると言う話がありまして」
そりゃそうだ。一部の生徒以外は卒業したら、即バイバイ状態だ。自分達の身を守る為には、自衛組織を作るしかない。
……組織が敵になるのか。特撮とかならヒーローが一人でもなんとかなるけど、現実は厳しい。
「もし俺が部下を雇いたいといったら、補助は出ますか?」
サキュバスの言っていた“内緒にしておく”ってセリフ。あれはフレイムか方相の仲間に向けての言葉だと思う。
これだけ魔族や魔物が来ているんだ。旧知の魔族がいてもおかしくない。
昔の部下は忠義に厚い奴が多かったけど、手弁当で人間の為に戦えとは言えません。
「上に交渉してみます。期待は裏切りませんよ」
そりゃ、そうだ。自分達の尻拭いをさせる様なもんだし……探知範囲を広げて使えそうな奴を探そう。
後、ケーキ凄く美味しかったです。後からネットで値段を調べたら、目を疑ったけど。
◇
伊庭の彼女が、無事意識を取り戻したそうだ。ただ寝ていた時間が長いので、リハビリが必要らしい。
「最近、伊庭が前以上に仕事を頑張っているよな」
社長も伊庭の頑張りが嬉しいらしく、上機嫌だ。
「なんでも彼女にプロポーズしてオッケーをもらったらしいですよ」
時期は彼女さんが退院して落ち着いてからだそうだ……魔王様、後輩に先を越されそうです。
「それは嬉しい知らせじゃないか……まあ、結婚が全てじゃないぞ」
あれ?もしかしなくても、
「祝儀を稼ぐ為にも、営業に行ってきます」
ラルムでトナーが切れる予感がする。これは急がなくては。
「昨夜、都内で突然男性が火に包まれるという事件が起きました。現場となった公園は火の気がない場所で……亡くなった男性の名前は方相徹さんと見られています」
テレビから流れてきたニュースに釘付けになる。方相の死にショックを受けた訳じゃない。
(火の気ない公園で焼死……フレイムの仕業だな)
恐らくフレイムは、サキュバスの居場所を方相に聞いたのだろう。でも、方相には魔物が憑いているから、
これは部下探しを急ぐ必要がありそうだ。
◇
いくら部下が欲しいと言っても、ゴブリン(こいつら)はノーセンキューだ。
弱さは良い。でも食費が掛かるし、言う事を聞かない。なによりうるさいくて臭いのだ。アパートで飼うのは無理な生き物である。
「桜、動きが遅いぞ」
秋月さんの檄が飛ぶ。今日は桜達とゴブリン退治に来ているのだ。使える魔物いるかなと思ったんだけど、ゴブリンしか出ない。贅沢言わないから、ワータイガーとかドラゴンニュート出てこないかな。
「これが精一杯だって」
桜のスピードは落ちていない。夏空さん達のスピードが上がっており、相対的に遅く見えているのだ。
「桜、ちょっとこっちに来い」
桜の腹部に手をかざし、魔石の状態を探る。
「しげちゃん、僕にデバフか何か掛かっているの?」
いつかは来るとは思っていたけど、こうも早く来たか。
「魔石が成長仕切っているな。分かりやすく言えば、レベルがカンストしているんだよ」
魔石は魔族と共に成長していく。あまり強くなれずに死んだ魔物の場合、成長限界も早いのだ。
「えっ……僕、これ以上強くなれないの」
桜がショックを受けている。まあ、事実上の引退宣告だし。
(仕方ない。乗り掛かった舟だ)
「そう、落ち込むな。俺に良いアイディアがある。後から家に来い」
桜達が強くなれば、強い魔物の所に行ける。何より切れるカードが増える。
これが最善の自衛策かもしれない。
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