はぐれ魔王純情派
デートって、何をすれば良いんだっけ?明日、夏空さんとのデート?なんだけど、久し振り過ぎて、デートの仕方が分かりません。
(大村か伊庭に聞く……墓穴を掘るってレベルじゃねえぞ)
どっちに聞いても社会的信用が崩壊してしまう。理想的な展開としては、夏空さんが俺に幻滅してくれたら良いんだけどな。
だからと言ってわざと失敗したり、強引に迫ったりするのはアウトだ。あくまで紳士に大人として向き合うべきだ。
(ここは……同じフロアに取引先があるから避けた方が無難だな。酒器のフェア?……高校生を連れて行く場所じゃないか)
さっきからカフェの近くにあるお勧めデートスポットを検索しては、諦めるの繰り返し。デートプランが全然決まりません。
……そもそも女子高生って、どこに連れて行けば喜んでくれるんだ?数ヶ月前までは女子高生どころか若者と話す機会すらなかったんだぞ。デートを成功させつつ、失望されるなんて無理難題である。
スマホで検索している最中、電話が掛かって来た。画面に表示されたのは大村大作の四文字。
「タダイマ、デンワニデルコトガデキマセン。ピーットイウハッシンオンガ……」
魔力で声を機械音に変える。頼む、これで諦めてくれ。
「どこの世界にワンコールで留守電に切り替わるスマホがあるんだよ。慈人、きちんと通話中になっているんだぞ」
焦って直ぐに電話に出たのが裏目に出るとは……待てよ、大村か。これはチャンスだ。
「大村、明日って何か用事があるか?」
いきなりデートの事を切り出したら、自滅ものだ。軽くジャブを打って、牽制してみる。
「デートの付き添いならしねえぞ。魔物やおっさんが相手なら手玉に取れる癖に、夏空には流されっぱなしじゃねえか」
流石は先生。もう情報は掴んでいたのね。
「安心しろ。法に触れる様な事は一切しねえよ。なんとか幻滅してくれたら、助かるんだけどな」
女性……特に若い女性に嫌われるのは慣れている。いや、女子高生に好かれているかっていう妄想がもう痛いんですけどね。
そこから俺の考えをきちんと大村に伝えた。
「魔王なのにモラルがしっかりし過ぎだろ。普通にしていたら、新しい恋を見つけて巣立っていくさ。年上を好きになる女子生徒は年に何人かいるけど、殆んど別れているぞ。考えてもみろ。同級生と付き合っていた奴等、何人が結婚した?」
見ている生徒の数が多いだけ、説得力が違う。学生時代に付き合っていた相手と結婚した奴か……二・三人もいない気がする。
「逆に成功させる方が難しいもんな。今の若い子って、何を喜ぶんだ?」
いや、デートの成功ってなんだ。若い頃なら三回目のデートで告白とかあったけど……年も魔力も上の相手からの告白って、脅迫と同じだよな。
「カフェで話して、水着を買いに行く。その後昼飯を食べて、お前の買い物に付き合ってもらえば良いだろ」
そうか。無理に相手に合わせるからボロが出てしまうんだ。
「そうなると酒器のフェアに行くか、文具を見に行くかだな」
なぜか無言になる大村先生。俺が見に行きたい買い物なんだけど。
「お前は馬鹿か。お前の服や靴を見に行くんだよ。文具のうんちくを聞いて喜ぶ高校生がいると思うか?」
いないです。しかも文具売り場は知り合いが多すぎる。
「服か。紳士服売り場には、若い子は来ないから安心だな。お前は生徒さんに誘われたりしないのか?」
大村はイケメンの部類に入る。教師というアドバンテージもあり、確実にモテると思う。
「共学だから、そうでもないぞ。竜崎は、やばい奴がいるみたいだけどな」
魔王様、知っている。モテる奴のそうでもないって、非モテから見たら異次元の世界なんだよね。
「そんな噂も入って来るのか。案外、教師の世界って狭いんだな」
部活とかで交流もあるだろうし、良くない噂程広まるのも早い。俺も気を付けよう。
「お前、林間合宿に誘われただろ?不思議に思って調べてみたら、竜崎のユニフォームガーディアンを担当している教師が、複数の生徒に手を出しているのが分かったんだよ」
そいつは元ユニフォームガーディアンだったらしく、異性の力を引き出す能力を持っているらしい……スマホゲームの主人公かよ。
「俺は生徒を守る為の河豚毒って訳ね……って事はそいつも林間合宿に参加するのか?」
きっとイケメンなんだろうな。クリスマスやバレンタインを一人で過ごしたりしないんだ。町で会ったら全部の指にさか剥けが出来る呪いを掛けてやる。
「その通りだ。向こうはユニフォームガーディアン限定の林間合宿だけどな。だからお前は夜間外出禁止だぞ」
なんだと?これは許し難い大問題だ。
「俺は仁漁に行ったら、地魚で一杯やるのが楽しみなんだぞ。二次会はスナックで、漁師のおっちゃんのカラオケをつまみに焼酎を飲むのがお約束なんだよ」
全員ベテランのホステスさんだから、俺の愚痴をきちんと聞いてくれるし、背中を叩いて励ましてくれる。
「ホテルにも居酒屋があるだろ」
ホテルの居酒屋だと?何も分かっていないな。
「もうホームページでチェック済だよ!なんだよ、あの時価中心のメニューは?」
ボールペン何箱分の利益になると思っているんだ!
「だったら持ち込みして部屋で飲めば良いだろ……慈人、辛いだろうけど夏空の止まり木になってやってくれ。お前から飛び立つ時まで見守ってやってもらえないか?……それと例の教師の写真を送っておく」
……前世では守れなかったんだ。そんな役割でも、きちんとこなしてやるさ。
PS、件の教師はモデルばりのイケメンでした。見た目だと魔王様は、完敗です。
◇
俺は彼女がいた事がある良い大人だ……今更デートに浮かれるって事はない。
でも約束の三十分前に着いてしまい、完全にワクワクおじさんとなっています。
だって、しょうがないじゃん。年の差だなんだ言って誤魔化しているけど、夏空さんはがちの美少女なんだもん。結構、楽しみなんです。
「慈人さん、お待たせしました。今日はよろしくお願いします」
やばい、夏空さんが可愛すぎる。水色のシャツにベージュのホットパンツ。絶対に俺が隣を歩いて良い子じゃない。俺が警察なら即職務質問すると思う。
「まだ時間前だから大丈夫ですよ。先に買い物に行きますか?」
昨日の大村との会話で決めた事がある。今回はデートじゃなく、接待。夏空さん中心で行動する。
それに開店して直ぐなら水着売り場も人が少ない筈。おじさんがいても目立たないと思う。
いざとなったら、休憩スペースで待っていれば良いんだし。
「良いんですか?……だったら、一緒に選んで下さいね」
選ぶか。多分、俺にファッションセンスは期待していないと思う。
「分かりました。では、行きましょう」
夏空さんが海で、どう過ごすか聞けばアドバイスできる筈。泳ぎがメインなら機能性、日焼け目的ならシルエットといった感じだ。
◇
なに、あれ。傍から見たら俺もあんな感じなの?
水着売り場に先客がいたんだけど。
「君ちゃん、私はどの水着が似合うと思う?」
「
「先生、次はぼくー」
先客は女子高生を侍らかしている件の高校教師でした。かなりにやけており、不快である。
(鑑定してみるか……まじ?)
そりゃ、俺を呼ぶよね。今は他人の振りをしよう。
「しーげとさん。これどうですか?」
いや、どうと言われても……夏空さんが着ていたのは、水色のビキニ。胸が大きいので、つい目が引き寄せられてしまう。
(鎮静、鎮静、鎮静―)
魔法で自分を落ち着かせて、なんとか平静を取り戻す。
「良いと思いますです……でも、他の男の人に見せたくないって言うか」
平静さ戻っていませんでした。嚙みまくりだし、自分でもきもい事を言ったって分かる。
「お顔真っ赤ですよ……だったら、もう少しおとなしめの水着にしますね」
大村君、止まり木崩壊しそうなんですけど。
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