魔王様はおごる
魔力は劇的に上がった。でも方相の情報は全く得られませんでした……個人情報保護法の壁が厚すぎる。
特にユニフォームガーディアン関連は、セキュリティーが厳しく過去の情報しか開示されていない。
(ラルムの関係者に聞くのは……やめた方が良いな)
場合によって俺は方相を殺す。物証を残さない自信はあるけど、あまりしつこく調べていたら疑われる可能性が高くなる。
「岩倉さん、お待たせしました。待合せ場所はこっちです……おーい」
今日は例のファミレスに行く日だ。俺は伊庭と一緒の待ち合わせ場所に向かっているんだけど……。
嘘だろ?なんで夏空さんが白樺さんと一緒にいるんだ?
「伊庭っち、岩倉さん久しぶりー。この子が、今日一緒にお店に行く夏空祭ちゃんでーす」
白樺さんは俺と目が合うと意味ありげに笑った。肝心の夏空さんは、どこか、ばつが悪そうにしている。
「凄げー、がちの美少女じゃん。どこで知り合ったんだ?」
伊庭がテンション高くまくし立てる。なんだろう、このいたたまれなさは。
「前にうちの植物園の来てくれたんだ。その時撮った花の写メをネットにあげてくれていたの。共通の
二人に共通している事……同じアーティストが好きとかだよね。
「俺の名前は伊庭英人、それでこっちにいるのが会社の先輩の岩倉慈人さん」
頼む、夏空さん初対面のふりして……めっちゃこっち見てるー。魔王様、ピンチです。
「岩倉さん、こんばんは。最近、
今度は伊庭が俺を見てるー。しかも完全にドン引きしている顔じゃん。
「納品や修理の依頼がありませんので」
言い訳じゃなく、俺個人の意思でラルムには行けないのだ。
「桜ちゃん寂しがってましたよ……あっ、もちろん、私も寂しいです」
桜が寂しがる?それは絶対ない。でも夏空さん、私を小声で言うのやめて下さい。リアル過ぎて誤解されます。
「いーわーくーらーさーん、なにしてるんですか?どう見ても高校生じゃあないですか?しかも桜ちゃんって子もいるなんて……」
伊庭、後半無言になっているぞ。なんか言って。
まずい、このままでは犯罪者の烙印を押されてしまう。
「桜とは実家が隣同士で、子供の頃から知っているんだよ。それで夏空さんは、桜の友達。第一、ラルムには俺のダチが勤めているんだぞ」
滅茶苦茶早口になってしまいました……いや、俺はまだ何もしてない。やましい事は何もないんだ。
「でもうちの植物園に来た時、凄く仲良そうだったよ……岩倉さんをいじめるのは、これ位にして。祭ちゃんが予約いれてくれたんだから感謝しなさい」
伊庭の顔から険しさが消えていく。
なんでも白樺さんが件のファミレスに行ってみたいと話をしたら、夏空さんが予約してくれたそうだ。
「あ、ありがとうございます。俺、どうしてもあそこの店で占って欲しくて……でも中々予約が取れなくて」
伊庭は、目にうっすらと涙を浮かべていた。うん、まじで方相をボコボコにしてやろう。
「友達のお父さんがお店を経営していたから、お願いしたんです。それに私も興味があったので」
流石はラルム、経営者の子供が普通にいるんだから。
◇
やっぱり人間の考える事は分からない。人気店だけあり、店の前には行列が出来ていた。
店は適度な薄暗さがあり、内装も凝っている。
来客がホラーな内装を携帯で撮りまくっているのが見える、近くに本物の幽霊いますよ。
(店が店だけに、寄って来るんだろうな)
「店に入る前にまじないを掛けておきますよ」
後から除霊するより、憑りつかれない様にした方が楽だ。
「えっ!?岩倉さんって視える系なの?」
白樺さんが茶化してくるけど、伊庭と夏空さんは顔を青くしている。
「言ってなかったけ?岩倉さん、除霊も出来るから不動産関係の顧客も多いんだぞ……てか、まじでいるんですか?」
俺の場合、除霊っていうより破霊なんだけどね。
「幽霊なんて、そこら中にいるぜ。だけど、ここは割合が多いんだよ。でも、安心しろ。質の悪い幽霊はは殆んどいない。まあ、念の為だ」
魔王のツレに憑りつく勇気がある幽霊がいたら、逆に褒めてやりたい。
(待てよ。意識不明の人は魂が抜けている時が多い。でも伊庭の近くで、若い女性の霊を視た事がないんだよな)
それなら伊庭の彼女の魂は、どこに行っているんだ?
「やっぱり岩倉さんを誘って良かったです。こういう店って、なんか不安になるじゃないですか……あいつの時も」
伊庭が小声であいつの時もと言った。彼女の意識不明になる時、何かあったんだろうか?
占いの結果次第では、色々聞いてみよう。
「俺は財布兼お守りな訳ね……ほい、これでオッケー」
ちなみに一体の霊が近づいてきたけど、俺と目が合ったら逃げて行きました。
「本当に暖かくなった……それもあるけど、伊庭っちと祭ちゃんを二人で行かせるのはアウトでしょ?それにねー、祭ちゃん」
夏空さんに、意味ありげに笑いかける白樺さん。まあ、確かに伊庭と二人はまずいか。
「し、白樺さん……じゅ、順番が来ましたよ。お店に入りましょう」
夏空さんと白樺さんは気が合うらしく、本当の姉妹みたくて微笑ましい。短い付き合いなのに、お互いを信頼しているのが分かる。
「岩倉さん、随分と仲が良いんですね。店に入る前から冷や汗が出ましたよ」
一方、魔王様は後輩から疑いの眼差しで見られています。
◇
テーマパーク系レストラン、名前を変えただけで、値段が上がる問題勃発。
ドラキュラのブラッドドリンクって、ただのトマトジュースじゃねえか。これで五百円って……ガチのヴァンパイアに料理作らせるぞ。
(でも飾り付けが凄いんだよな。アイディアと雰囲気を含めた値段って訳ね)
「それじゃ、好きな物を頼んで下さい。俺はオークのカツレツとビール、それに人面ポテトのフライをお願いします」
実際のオーク肉は硬い上に、雑食過ぎて臭くて食えません。
「私はブラッドソースのパスタと呪われた野菜サラダで……サラダは二人前でお願いします。岩倉さん、ちゃんとお野菜も食べましょうね」
夏空さん、
「俺はコカトリスの卵を使ったサンドイッチをもらいます」
伊庭が頼んだのは一番安いメニュー。こいつなりに気を使っているらしい。
「それじゃ足りないだろ。昼もカップ麺だったし……すいません、ミノタウロスのステーキとビール、それにフェニックスの野菜炒めを追加で」
「良い先輩じゃん。岩倉さん、伊庭っちはお金が必要なので、食事けちっているんですよ。だから、たまにでも良いんで、ご飯食べさせてあげて下さい。私はクラーケンと人魚のカルパッチョ、熟成ゾンビ肉ステーキ……それに黒魔法のチョコケーキをお願いします」
お金が必要……伊庭には悪いけど、財布をアナライズさせてもらった。
(こいつ彼女の治療費を払っているのか)
財布の中に病院の領収書が入っていた。食事代や個室費多岐に渡っている。入院費がないと所を見ると、親御さんが入院費を払って雑費とかを伊庭が払っているんだろう。
方相は俺の逆鱗に触れてしまった。完膚なきまでに叩き潰してやる。
それから他愛のない話をしながら、食事を楽しんだ。
占いは順番が来ると声が掛かるらしい。
「伊庭様。占いの順番が来ましたので、こちらへ」
伊庭が従業員に案内されて、奥の部屋へと消えていく。
◇
占いから戻ってきた伊庭は、どこかばつの悪そうな顔をしていた。
「白樺さん、夏空さんをお願いしますね。それじゃ、なにかあったら俺に連絡して下さい」
まだ八時だけど、夏空さんは白樺さんが送ってくれる事になった。結果、俺は伊庭と一緒に帰っています。
「岩倉さん、占い師に“同行している男性を頼りなさい”って言われたんです。迷惑じゃなければ話を聞いてもらえますか?」
そう言って頭を下げてきた伊庭の目は、少年の様に澄み切っていた。
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