魔王様は証拠を見つける

 普段はうるさい位賑やかな伊庭だけど、帰り道はやけに静かだった。


「……伊庭、ちょっと酔い覚ましに付き合え」

 人気のない場所なら伊庭も話しやすいだろう。なによりトラブルにまきこまれても、騒動にならない。


 五分位歩いた頃だろうか。伊庭は夜空を見上げたと思ったら、寂しそうに笑った。


「あいつとは幼馴染みだったんです。同い年なのに、お姉さんぶって……いつもお節介を焼いてきました」

 伊庭は重い口を開くと、ぽつりぽつりと語りだした。少年の様に澄んだ瞳で、在りし日に想いを馳せている。


「そっか。何をするにしても情報が必要だ。ゆっくり言いたい事を話せ」

 やっぱりついて来ている。狙いは何なんだろうか?


「あいつジュエリーデザイナーを目指していたんです。あの店のアクセサリーに惚れ込んで……短大を出て、直ぐに就職したんです。いつか俺達の結婚指輪もデザインするからねって言ってて……でも二年前突然倒れて……それっきり目を覚ましてくれないんです」

 伊庭は夜空を見上げながら涙がこぼれない様に耐えていた……ユニフォームガーディアンと対立しても構わない。魔王様は完全に堪忍袋の緒がブチ切れています。

 店の前で倒れているのを店長さんが見つけてくれたそうだ。当初は事件性も疑われたそうだけど、怪しい点もなく直ぐに捜査が終わったらしい。


「倒れる前に彼女さんは何か言ってなかったか?例えば隣の店……フィギュアショップの店長の事とか」

 伊庭の表情で確信した。やはり犯人は方相だ。方相のジョブはドールマスター……そうなると、ついてきているは誰の差し金なんだ?


「なんで分かったんですか?隣の店の店長がしつこく話し掛けてくるって言ってました」

 流石にその程度では、警察も動いてくれなかったらしい。


「……話は変わるけど、お前幽霊は平気か?怖いんなら目をつぶってろ」

 今の魔王様の後をついてくるとは良い度胸だ。憑いてきたって方が正確かもしれない。


「何を言っているんですか?血を流した男……透けているって、あの人幽霊なんですか?」

 サラリーマン幽霊の見て、伊庭が驚き顔を青くしている。まあ、憑いてきた男の方が青いんだけどね。


「店からずっとついてきた。数は四体……さて、取引だ。誰に命令されたか教えてくれるんなら、成仏させてやる。俺と伊庭になにかしようって言うのなら、覚悟はいいな?」

 幽霊はにやりと笑うと、ゆっくり近づいてきた。その態度から、こっちの話を理解しているのが分かった。

(自分が幽霊になっている事を分かっていやがる……悪霊だし問題ないな)

 なにより時間がもったいない。


「い、岩倉さん、なに言ってるんですか?数珠も十字架も持ってないですよね?どうやって成仏させるんですか?……てか、数が増えている?」

 残りの幽霊も姿を現した。逃げられたら面倒なので、結界の閉じ込めておく。

 向こうではアンデッドは、メジャーな存在だ。それに前世でネクロマンサーと戦った事もある。

 俺は無言で拳を構えると、幽霊に向かって殴りかかった。


「そんな効かな……うぎゃーっ!」

 お約束のセリフを言えずに消滅するサラリーマンの幽霊。


「俺は仏教徒でもないし、キリスト教徒でもない。数珠や十字架を持っていても、無意味なんだよ……俺の忠告を聞かなかったんだ。輪廻の輪から外れてもらうぞ」

 俺の力は異世界の物だし、俺は魔王だ。お経を唱えて成仏なんで無理なのだ。

 ゆかりのある人物を呼んで、あの世に連れていってもらう事は出来るけど、拒否されたのなら消滅させるしかない。


「聞いてない。あんな化け物がいるなんて」

「報告に行かなくては……出られない?」

「言う事を聞けば好きに動いて良いって話だったのに……覗きをしても危険がないって」

 幽霊達から細いパスが出ており、店の方向に向かっている……占い師がネクロマンサーだったのか?

 ドールマスターにネクロマンサー……どっちも闇落ちしやすいジョブである。あの占い師も元ユニフォームガーディアンの可能性がある。

(とりあえずアナライズっと……そういう事ね)

 占い師の情報は分からなかったけど、幽霊の目的は分かった。どうやら占い師の好みの女性が来ると、憑りつかせて関係を迫っていたらしい。

 一人なら本人に、恋人がいたら相手に憑かせていたようだ。


「伊庭、念の為に今日はうちに泊まれ」

 幽霊と繋がっていたパス同士を結んで、証拠隠滅完了。


「あ、ありがたいんですけど……岩倉さんって何者なんですか?」

 流石に元魔王とは言えない。


「ちょっと不思議な力を持っている会社の先輩だよ……明日、例のフィギュアショップに行って来る。全部、俺に任せておけ」

 可愛い後輩の為に、魔王様が一肌脱いでやろう。なにより向こうの世界の力を悪事に利用されていたら、見逃せないのだ。


 これは調査だ……でもテンションが上がってしまう。


「これ、遊〇王に出ていた魔術師?こっちにはトラクエの勇者にモンスター?ナ〇トのジライヤ先生……カード、使えますか?」

 これは調査だ。だから、相手に信用してもらう必要がある。


「大丈夫ですよ。包んでいる間、他の子達も見て行って下さい。私のオリジナルもありますので」

 眼鏡を掛けた人の良さそうな店員が対応してくれた。名札には、店長方相と書かれている。

(なにか証拠は……あった)

 先日追い払ったサキュバスそっくりなフィギュアが置いてあったのだ。

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