魔王様は気付く
ぐっすり寝ていたら、突然布団が揺れた。
(揺れがちょっと強いな。徐々に強さが上がっていく様に、調整しておこう)
こんな時、スマホは便利。記録に残しておけば、改善点が直ぐに分かる。
魔法の創造はトライ&エラー。何回も繰り返して、ベストな物を魔石に刻む。そうすると次から、無詠唱で使えるのだ。
でも、使用頻度の少ない物や、毎回微調整が必要な物は刻まない。アースジャベリンは後者。土の質に合わせて、毎回魔力を変えているのだ。
「大村……よし、ぐっすり寝てるな」
揺すっても動く気配なし。今回はドロドロした展開になりそうだから、そのまま放置。
玄関のドアを開けると、魔物の足音が闇夜に響いていた。
ゴブリン種が殆んどだけど、人間とオークの足音も、混じっている。
オークは一体、人間は七人。
「次朗と薺ちゃんは家に入っていなさい。二人を見たら、また太郎が興奮してしまう」
今の声は下衆さんか。どうやら俺が思っていたより、むかつく展開になりそうだ。
下衆家と浦切家の両親が、熟睡している雪守さんを担架に乗せて運んでいるのだ。
「おや、下衆さんと浦切さんじゃないですか?こんな夜中に雪守さんを連れて、どこへ行くんですか?」
俺の声を聞いた六人は笑える位、ひきつった顔をしていた。
「い、岩倉さん……あの具合が悪そうなので、病院の連れて行こうかなと……」
ああ、こいつ等は向こうで俺と戦っていた人間とそっくりだ。平気で嘘をつき、人をおとしいれる。
「言い訳は良い。雪守さんを薺さんの身代わりにするんだろ?俺達に睡眠薬を飲ませて、寝ている隙に雪守さんを連れ出す。はっ、随分と下劣な策だな」
良く考えれば、今回の依頼はあまりにもお膳立てが出来過ぎていた。恐らくこいつらは雪守さんがユニフォームガーディアンにいるのを知って依頼してきたんだろう。
防音加工や睡眠薬、手筈が整ってから、オークに連絡を入れたと……。
「う、うるさい。元はと言えばあいつ等が悪いんだ……ユニフォームガーディアンがいない状況で、魔物の機嫌を損ねても良いのか?オークだぞ。オーク」
なんで
「オークね。猿森に出るのは、ホブゴブリンだって聞いたけど話が違いますね」
こいつらは出没する魔物がオークだって知っていて、
生贄が三人に増えるだけだ。
自分達には害が及ばないし、責められる事もないだろう。
でもオークって言ったら駄目だろ。墓穴を掘るってレベルじゃないぞ。
「……この足音は、みんなあれを持て。死人に口なしとは良く言ったものだ」
そう言うと下衆さんはニヤリと笑った。情報お漏らしに加えて、三下悪役の死亡フラグまで立てている。
山の方から足音を轟かせながら、魔物達が迫ってくるのが見えた。
「しげちゃん、静香さんがいないの!」
「岩倉、この足音はなんだ?」
足音を聞いて、桜と大村が飛び出てきた。そりゃ、あれだけでかい足音を響かせたら起きちゃうよね。
「簡単に言うと、俺達は罠にはめれたのさ。こいつ等は、雪守さんを薺さんの身代わりにしようって魂胆らしい……ホブゴブリンだけじゃなく、オークもいる。二人共下がってろ」
これだけの騒ぎの中、雪守さんはまだ眠っている……それならなんで二人は起きたんだ?
「マジか……下衆さん、生徒を返してもらいますよ」
流石は剣道の有段者。大村はあっさり雪守さんを奪還した。これで好き勝手出来る。
「近づいてきたな。ゴブリンが五十、それを率いるホブゴブリンが三。そしてオークと……俺のテリトリーにすんなり入ってくれて助かるよ……ストーンバレット」
村中に張り巡らせた探知魔法を使えば、どんな魔物が何匹いるか確認するのは簡単。
そして道端に落ちておる石で魔物だけを狙って攻撃する事も出来る。
村中で範囲魔法とか使ったら、損害賠償がとんでもない額になってしまう。それに村民を誤射したら、刑務所行きである。
「罠を仕掛けやがったな。殺されたくなかったら、早く女と食い物を寄越せ」
オークさん激おこです。
現れたのはオークとホブゴブリン三匹。多分ゴブリンを盾にしたんだと思う。
「オークが日本語を喋った?……静香さんは渡さないんだから」
桜が二人を守る様に立ちはだかる。
(日本語が上手いな。そして人間の女を要求……そういう事か)
俺の知っているオークは同種族の異性にしか興味を示さない……いや、殆んどの魔族や魔物がそうだんだけどね。性癖の広さは日本人が圧倒的なんだぞ。
俺の予想が当たっていたら、胸糞展開になる。
「異世界に来て強請か?……そこの猪、ぼたん鍋にされたくなかったら、とっとと元の世界に帰りやがれ」
雪守さんを強奪される訳にはいかない。魔力を初級魔族レベルまで上げる。
「人間、このお方が誰か知らないのか?かつて魔王ジャントも恐れたという盗賊団血濡れた牙の団員ななんだぞ」
おい、ホブゴブリン。知り合いの前で旧名を出すんじゃない。でも桜達はノーリアクション。どうやら日本語を話せるのはオークだけらしい。
(血濡れた牙か。久し振りに聞いたな……あいつ等、全員牢屋にぶち込んだ筈なんだけど)
「なら共謀罪でお前等も牢屋にぶち込んでやるよ……ジンジャーミスト」
亜空間からジンジャーパウダーを取り出し、魔力で霧状に変化。オーク達を覆う……俺の予想が当たっていたら、オークだけに効果が薄い筈。
「ショウガの粉で何をするつもりだ?コショウなら、くしゃみが出たかもしれんが」
やっぱり……このオークは日本の知識を持っているんだ。
「俺の前で盗賊団を名乗って、無事に帰れると思うなよ」
拳に魔力と殺気をまとわせて、オークのみぞおちを殴る。
「痛いっ、やめてよ……勘弁して下さい。俺はただの使い走りなんです」
一瞬、オークの声が少年の物に変わった。このオークは他の魔物より、痛みに慣れていない。その所為で記憶が乱れ始めているんだ
「盗賊の命乞いを信じる馬鹿がいるかよ」
構わずもう一発殴る。俺は魔族の王だ。犯罪者や人間を殴って痛む良心なんて持っていない。
(下衆家、浦切家ともノーリアクションか。本当に下種な裏切り者だな)
「カエシテ……ボクノカラダトジンセイヲ……」
オークが泣いていた。その目には怨みと悲しみを湛えている。
「岩倉君、もう許してやってくれないか?この子は、私の教え子なんだ」
見覚えのある人がオークを庇うようして立っている。オークを守ろうとしたのは、家族でも幼馴染みでもない。
俺とオークの前に割って入ったのは、吉田先生だけだった。
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