魔王様は嫉妬される?

最近やたらと体調が良い。夜遅くまで起きていても、次の朝すっきり起きれる。長距離運転やクレーム対応も苦にならない。

 何より……。

(敵意のある奴はなし……魔力が戻ってきているな)

 植物園の土に触れた所為なのか、以前より魔力が戻ってきていた。お陰で少ない魔力で敵意を持った奴を感知出来る様になっている……まあ、日曜のスーパーに敵意を持った奴がいても困るんだけどね。

 殆んどの人間が俺に対して無関心なんだし。

 今日はユニフォームガーディアン関連の仕事もなく、完全なるオフ。午前中に買い出しを済ませ、昼飯はお気に入りの蕎麦屋でビールを飲みながらまったりする予定だ。


「雨かよ……天気予報見なかったもんな」

 エコバックを持ちながら、スーパーを出たら、雨粒が頭に上に落ちてきた。車で来たから、当然傘は持っていない。

  雨に耐えながら、なんとか車内へ。

(もう梅雨になったんだな……つゆ?やらかした!めんつゆを買い忘れた)

 今日はめんつゆが特売だったら、この店に来たのに。

ご飯のお供選びに夢中になって買い忘れるとは……一人暮らしのベテランらしからぬ、失態を犯してしまった。

この特売を見逃す訳にはいかない。覚悟を決めてもう一度店に戻る。

(無事に買えた……これは敵意!?)

 殺意とまでいなかないも、俺に憎しみの感情を向けている奴が店内にいる。植物園の関係者か……それともあのサキュバスのペットにされた人だろうか?


「岩倉さん、岩倉さんですよね。その節はお世話になりました。ラルムの川路素直です」

 敵意の出所を探っていたら、一人の少年が丁寧に挨拶をしてきた。眼鏡をかけた真面目そうな少年である。


「おはようございます。元気になったみたいで、安心しましたよ」

 ダニの件は俺の応急処置で事なきを得たって事にしてある。

それよりも問題は……川路君と一緒にいる少年が、俺の事を滅茶苦茶睨んできています。敵意の出所は、確実にこの子だ。

爽やかなスポーツマンといった感じの少年で、容姿も整っている。

でも見た事がない子だから、当然恨まれる筋合いはない。夏空さんか秋月さんのファンなのだろうか?


「はい、もう痛みもないです。太郎さんからもお礼を伝えて欲しいって頼まれていたので」

 太郎……同じ猿森出身の浦切太郎君の事か。太郎君は元気に働いているらしい。


「私は橋渡しをしただけですよ。後は浦切さんの頑張りです」

 伊庭の話だと猿森村はかなりヤバい事になっているらしい……それとスポーツ少年からまだ睨まれているんですが。


「ちょっと良いですか?貴方は春里の何なんですか?良い年して、女子高生と一緒にいるなんてヤバいですよ」

 スポーツ少年が不快感を露わにして絡んできた。多分この子は桜の事が好きなんだと思う。完璧な誤解なんだけど、正論過ぎておじさんにはクリティカルヒットです。


「簡単に言えば、保護者代わりですよ。私の実家と春里さんの家が隣同士なので彼女の親御さんから頼まれているんです。それと学校には仕事で来ているので誤解しないで下さいね」

 良いな、青春だなー。こんな風に恋愛に一直線になれるなんて羨ましい。

 恋も青春も遠い過去となりました。


「それじゃ、貴方は春里に関心がないって言うんですか?あんなに一緒にいるのに」

 おい、なんて危険な質問を投げかけるんだ。おっさんが女子高生に興味があるなんて言ったら、大問題なんだぞ。


「あのな、俺はあいつが赤ん坊の時から知っているんだよ。親戚の子供みたいなもんさ。信じられないなら、大村先生にでも聞いてみろ……それじゃ川路君、失礼します」

川路君に分かれを告げて、めんつゆも無事購入。揚げたて天ぷらが俺を待っている。


「お休みの邪魔をしてすいませんでした……勇気君、岩倉さん行っちゃうよ」

 川路君って、凄く礼儀正しいよな。話していて気持ちが良くなる。


「あ…あの変な事言ってすませんでした」

 川路君に促されて勇気君が謝ってきた。これは気持ち良く酔えるぞ。


 なんで蕎麦屋のつまみって、こんなに美味いんだろ。


「すいません、とりわさと小柱のかき揚げをお願いします」

瓶ビールを傾け手酌でコップに注ぐ。

(幸せだ。今日は、ゆっくり飲むぞ)

 ゆっくりとした時間が流れていく。たまには前世の事を忘れてのんびりしよう。

 このゆったりとした空間を壊さない為にスマホはマナーモードにしてある。


『次のニュースです。東京湾で謎の巨大生物の目撃が相次いでいます』

 なんでも巨大なタコが目撃されているらしい……もしクラーケンならたこ焼きにするからな。


「ごちそうさまでした」

 蕎麦屋を出ると雨もあがっており、心地よい風が吹いていた。火照った身体を風が包み、良い酔い覚ましになる。


 後、数日で実さんが退院するとの事。なので放課後大村達を乗せてお見舞いに行く事になった。


「い、岩倉さんで合ってますよね。今日は車を出して頂いてすいません」

 春告鳥先生はまだ俺が怖いらしい。普段は大村が助手席に乗るんだけど、ちゃっかり春告鳥先生の隣をキープ。


「静香、一緒に座ろうぜ。祭は助手席だぜ」

 秋月さんが雪守さんを誘い、後部座席へ。夏空さん、大村と変わっても良いんですよ。


「失礼します。岩倉さん、桜ちゃんがいないと寂しいんじゃないですか?」

 夏空さんが笑いながら話し掛けてきた。そんな風に思われていたんだろうか?


「桜は部活でしたっけ?元気なのが分かっていれば、それで十分です」

 そろそろ部活に専念しないとまずいだろうし。


「岩倉さん、素直が“岩倉さんが怒ってないか聞いてきて”言ってたんですけど、何かあったんですか?」

 川路君は何もしてないのに。勇気君の行動も俺から見たら可愛い嫉妬だ。


「この間、スーパーで川路君と会ったんですよ。その時に……」

 俺はスーパーでの一件をみんなに伝えた。

 そしてなぜか皆が溜息をついた。


「そいつ、大久保勇気っていって桜と同じバスケ部なんだよ。しかし、勇気も岩倉さんに嫉妬するかね」

 まあ、普通はそう考えないけど思春期の男の子って、好きな子の身内にも嫉妬するんだぞ。


「最後はちゃんと謝ってくれたし、感じの良い子でしたよ。何も不安思う事ないんですけどね」

 綺麗な形で別れたと思うんだけど。


「岩倉さんは気付いてないとかもしれませんが、営業スマイルの時って凄い壁を感じるんですよ」

 夏空さんが不満気に愚痴を零す。そりゃ、そうだ。俺はあくまで仕事でラルムに来ているのだ。きちんと線はひいている。


「それがビジネスマナーですよ。でも大久保君に不快な思いをさせたって事は、俺もまだまだですね」

 営業は取引先の職員に必要以上に好かれる必要はない。全員に嫌われない位が一番なのだ。


 他の人を玄関で降ろし、俺は一旦駐車場へ。


「あっ、文武事務機の営業さん。その節はご迷惑をお掛けしました」

 話し掛けてきたのは、タイムレコーダーでひと悶着あったアクセサリーショップの店長さん。


「お久しぶりです。その後、タイムレコーダーの調子はどうですか?」

 自信を持って言える。今の俺は満面の造り笑顔だと。


「お陰様で、なにも問題起きていません。それとあのアクセサリー凄い好評なんですよ。ラルムの子が“素敵なネックレスもらちゃった”ってブログに載せてくれたんです。そうしたら、、凄く話題になったんですよ」

 ネックレスって事は、夏空さんか。そんな気を使わなくても良いのに。


「そうなんですか。それは知りませんでした」

 ブログに載せるって事は、嫌でもなかったんだと思う……いや、しつこい男への牽制って事も考えられる。


「ブログ見てないんですか?」

 ブログを書いている事、自体今知りました。


「知り合いとはいえ、おじさんが女子高生のSNSをチェックしていたら引かれますよ……そう言えば、今日はお見舞いか何かですか」

 フォロバされないと、絶対きまずいし。


「お店で働いていた子が、この病院に入院しているんです。突然意識不明になりまして……」

 店長さんの視線の先にある病室をアナライズしてみたら、嫌な気配が漂っていた

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