魔王様は世話を焼かれる
桜達はお泊り道具を取りに一回帰っていった。おじさん的にはあまり出入りして欲しくないんだけど。
(この部屋なら問題ないだろ)
俺がやって来たのは、普段住んでいる部屋と一番離れている部屋。この階は全部俺が借りているので、どの部屋を使っても問題ない。
「大村、悪いけど、今日はここに泊まってくれ。布団は後から持ってくる」
電気は通っているけど、カーテンとか最低限の物しか置いていない。
「うちの生徒が迷惑をかけるな……今日ユニフォームガーディアンが二人辞めたんだ。あいつ等は、お前がフォローしてくれたんだろ?助かるよ」
桜は春里家の恩義があるし、あいつの存在に救われた事もある。フォローして当たり前だ。
夏空さんと秋月さんは前世の縁がある。雪守さんは実家が太い。俺なりに救う理由があるのだ。
「俺にも事情があるんだよ。それより竜崎女学院って、大丈夫なのか?桜達がドン引きしていたぞ」
どの人が竜崎女学院の生徒かなんて分からない。だから彼女達の状態は分からなかった。何より知らない女子高生をガン見するはアウトだと思う。
「あそこは竜崎財閥が運営しているだろ。だから色々と新しい戦闘訓練を取り入れているらしい……かなりヤバい噂も聞こえている」
なんでも竜崎女学院のユニフォームガーディアンは、財閥傘下の企業に勤めている人の子供が殆んどとの事。親の出世にも影響するし、才能があれば特待生扱いなになるそうだ。
「首輪付きって事か。それなら怪しい訓練にも参加するよな。話変わるけど、晩飯どうする。ピザでも頼むか?」
若い子達ならピザを喜ぶ筈。なんとなく、そんな気がする。
「焼きそばとかで充分だろ。お前はあいつ等に甘すぎるんだよ」
いや、桜以外はがちのお嬢様だぞ。焼きそばはまずいだろ……宅配ピザも同じか。
「桜を除けば、三人とも良いとこのお嬢様なんだろ?気を使うなって方が無理なんだよ」
秋月さんの家の会社なんて、お得意先の親会社なんだぞ。いつも嫌味を言ってきていた取引先の部長が、秋月さんと知り合いになったって分かった途端敬語を使ってきたのです。
「俺は麻痺しているけど、うちの保護者は社会的地位が高い人ばかりだもんな。でも、お前も元王様なんだろ?春里の態度にカチンとくる事はないのか?」
王様と言っても元だし、生まれは庶民だ。
「王ってのは、案外孤独な物なんだぜ。周囲には造り笑顔で媚びを売ってくる奴か、恐れて怯える奴しかいなかった。腹を割って話せる奴は一人もいなかったな。王の弱音や愚痴は国の弱点だし、部下への不満は処刑に繋がってしまう。俺の眉が少し動いただけで、僻地に飛ばされた奴もいたんだ」
縁者のいない俺は常に強者でいる必要があった。善政を敷いたつもりでいたけど、隙を見せると直ぐに付け入れられたし。
「婚約者を殺されているから、嫁も貰えなかったんだよな。でも遊び相手位いたんだろ?」
うん、歴史上の王様とか、物語の貴族なんかは派手に遊んでいるもんな……羨ましいったら、ありゃしない。
「俺は相手のマイナス感情が分かるんだよ。当然殺意を持った奴や、何かを企んでいる奴は直ぐに分かるのさ。俺が睨みを効かせていたから、国が治まっていたんだ。その王様が女に寝首を書かれて国が崩壊しましたんなんて笑い話にもならないっての」
魔王様転生するまで、清い身体だったんだぞ。
「随分と不自由な王様だな」
庶民に転生した、今の方が快適なんだから皮肉である。
「人間を本気で憎んでいたし、記憶が戻った時は戸惑ったよ。育ててもらった両親への恩があったから、暴れなかったけど人を信じられなくなっていた。一回、不良に呼び出された事があったろ。睨んだだけで泣かれて、こっちが悪者みたいになったんだよ。そんな俺を救ってくれたのが、桜なんだ。あいつは怯えるどころか、無邪気に懐いてくれた。今の俺は魔王じゃなく、ただのサラリーマンだ。敬われる必要なんてないのさ」
当時の俺は猜疑心の塊だった。あれ位無邪気に接してくれたから、人を信じられる様になったんだと思う。
◇
協議の結果、焼き肉をする事にしました。付き合いで買ったホットプレートがようやく日の目を見る事に……一人だと洗うのが面倒で、中々使わないんだよね。
「岩倉さん、ちゃんと野菜も食べて下さい」
夏空さんは、そう言うと俺の皿に野菜を乗せてきた。さっきからちゃんとじゃが芋を食べているんですけど。
「しげちゃん、源たれチャーハン作ろ……祭、しげちゃん人参嫌いなんだよー」
桜、この流れでチクるか?
「岩倉さん、人参は栄養あるんですよ」
そう言いながら取り皿に人参を乗せる夏空さん。噛まずに飲み込めば、なんとかなる。
「それで明日は何を取りに行くんだ?……このチャーハン美味いな」
面白いもので、四人共好きな物がバラバラだった。桜と秋月さんは肉とご飯がメイン。雪守さんは野菜を中心に食べて、肉は鶏肉しか食べていない……やはり、スーパーの牛肉は口に合わなかったのか。
夏空さんはバランス良く食べて、俺の皿にもバランス良く乗っけてくれる。有難いんですが、おじさん勘違いしちゃいそうです……後、子供相手に人参嫌いって言い辛いんです。
「龍崎植物園で見つかった新種の蘭を知っていますか?解呪には、蘭に溜まる朝露が必要なんです」
もちろん、そのままでは使えないけど、調合の仕方は俺が覚えている。
「でも、あそこにはドリアードがいるんですよね……人参、減ってないですよ」
夏空さん、チェック厳しくないですか?大村も野菜食べてないのに……ビールを飲みながらなら、酔いに任せて食えるんですけどね。
「ええ、植物園の木に擬態していました。あいつ等、木の種類に合わせて擬態するから気付きにくいんですよ」
でも植物園を管理しているのは、プロなんだよな。
(そういえば、蘭を管理しているのは“派遣されてきた人達だ”って杉待さんが言ってたよな)
そうなると、魔族と繋がっている企業である可能性が高い。今は手駒が少なすぎる。組織と対立するのは、時期尚早だ。知らない振りしておこう。
「さて、そろそろ俺達は部屋に戻る。明日は早いんだから、夜更かしするなよ」
流石は先生、仕切りが上手い。
「先生分かりました。明日に備えて早く寝ますね……
桜も大村には敬語なんだな。
でもわざわざ心霊スポットに行ってどうするんだ?幽霊なんて、そこら中にいるのに。人間の考える事は分からん。
「みやこって誰なんだ?」
「
動画配信か。最近流行っているもんな。
「変な物が、写っていたら教えろ。冷蔵庫にスイーツが入っているから、適当に食べて良いぞ。それじゃ、おやすみ」
桜達はスイーツで女子会を開く筈。
俺達は、これから大人の時間だ。亜空間に冷蔵スペースを作って、酒や刺身を入れておいたのだ。今度は保温スペースも作る予定。若い娘は、おじさん達の事は忘れて恋愛トークで盛り上がって下さい。
(学校のイケメンの事とかで盛り上がるんだろうな……懐かしいねー)
おじさん達は、これから愚痴をつまみに酒盛りなのです。
◇
「晴君、本当にあれで良かったの?岩倉さん、怒ってないかな」
きっかけは、祭が“岩倉さん、避けられている感じがするの”と皆に相談した事だった。
「大丈夫だって。岩倉さん、嫌がってなかったし。岩倉さんみたいなタイプは、親切心で押していくと無下に出来ないんだぜ」
俺は恋愛に詳しいぞっていう感じで話す晴であったが、彼氏がいた事は一度もない。ネットや友人の恋バナで知識を増やした耳年増タイプである。
そんな彼女がなぜ的確なアドバイスが出来たかというと、
ただしフェーアは少年時代のジャントしか知らないので、どうしても保護者目線になってしまう。
その結果隣に座って世話を焼くという形になってしまったのだ。
「でも私は年下なんだし、生意気だって思われなかったかな?男の人は、可愛く甘えた方が喜ぶって聞いたけど……」
幼馴染みからアドバイスをもらっても、祭は不安であった。なにしろ相手は一回り以上年上で、規格外の強さを持った男性である。
生意気だと思われないか不安になってしまうのだ。
「僕もあれで良いと思うよ。しげちゃんって変に猜疑心が強いの。だから甘えたタイプには、絶対に心を許さないんだ。あの時も“岩倉さんの為に作ったんですー”とか猫撫で声を迫っていたら“仕事の電話がきました”って逃げていた思うな。でも生活指導の先生みたく“貴方の事を思っての苦言なんですよ”って来られると邪険に出来ないんだよ」
この中で一番岩倉慈人の事を知っている桜も晴に賛同する。
「でも、桜良いのか?このままじゃ、岩倉さんを盗られちゃうぞ」
晴が桜に問い掛ける。
晴が、桜の秘めた思いに気付いたとかではない。最近『身近な異性を盗られそうになってから、自分の気持ちに気付く』というネット小説にはまっているだけなのなにである。
もしかして桜にも通じるのではと、挑発してみたのだ。
「?なんで、しげちゃんを盗られて焦るの?しげちゃんは、ただのご近所さんだよ」
当然、挑発は不発に終わる。なにしろ桜は慈人を恋愛対象として見ていない。もっと正確に言えば、対象外過ぎて考えた事すらなかったのだ。
「盗られるって、別に私は岩倉さんが好きとかじゃないんだよ」
祭もまた年齢だけでみると慈人は恋愛対象外である。ただ妙に気なるだけなのだ。年上だから頼りになるし、近くにいると安心する。それでいて、なにか放っておけない所がある。
その大半は前世や魔石に起因するのだが、彼女はその事は知らない。
「祭―、俺達好きなんて言ってないぞ。さあ、冗談はこれ位にしてデザート食べようぜ」
祭をからかいながら、冷蔵庫へと向かう晴。
「しげちゃん、色々買ったなー。プリンもーらい」
「私はヨーグルトにします」
三人の話題は慈人からデザートに移行。ただ祭だけが一人顔を赤くしていた。
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