魔王様は備える

ブラッドを裏切っているなら、遠慮なくぶちのめせる。

(そうは言っても残された時間は少ないんだよな)

 あまり時間を掛けると、土貴の子達がアンデッド化してしまう。この子達はまだ、子供だ。生意気だからって見捨てる訳にはいかない。

(ムカつくのは、この子達より力を授けている奴だ)

 十代の子供達が突然力を手に入れたら、自分は選ばれた存在だと思い込んでしまう。


「子供に勝って調子にのるとは、ヴァンパイアの質も堕ちたもんだな」

 まだヴァンパイアになって日が浅いのかもしれない。


「挑発にはのりませんよ。良い事を教えて上げます。私はこの世界のヴァンパイアとは違うんですよ」

 うん、知っている。こいつ等に十字架やニンニクは効かない。多分、土貴の子達はこっちの世界のヴァンパイアと同じと考えたんだろう。


「ブラッドの名前を知っている時点で、そこは分かっているって……痛い思いしたくなきゃ、素直に答えろ。その子達をドリアードの餌にする気か?」

 ヴァンパイアが違う様に、こっちの世界のドリアードと向こうの世界のドリアードは似て非なる存在だ。


「……もしかして貴方は、元ユニフォームガーディアンですか?その割に魔石が綺麗ですね」

 ユニフォームガーディアンの指導をしている人は、前任者が多いそうだ。だから俺が前任者と思ったのか。

(否定はしないと……しかし、こいつ随分とこっちの事情に詳しいな)

 やはり、内通者がいる危険性が高い。ユニフォームガーディアンの関係者だからと言って信用するのは危険だ。


「子供達を返せ。じゃないと、痛いだけじゃ済まないぞ」

 若者に対する優しさだったのに、ヴァンパイアは俺の忠告を鼻で笑った。


「それはありがとうございます。私は痛みも感じさせずに、貴方を殺してあげますよ。こっちの世界では、ジャントの作ったくだらない法律にも縛られる事はない。フォンセ様は、なんで法を変えないんだろうな」

 くだらないか。若い魔族からみたら、そう思うんだろうな。各部族に配慮して作った苦心の作なのに。

 まあ、魔王セイテン審判ジャッジメントが有効だったから、俺の作った法律がまだ活きているのは、予想が出来ていた。あの魔法はあくまで犯罪者を取り締まる為の物。法が改正されいたり、冤罪だったりしたら逆に俺がダメージを受けてしまう。


「そんなもん俺の国を乗っ取ったからに決まっているだろうが。好き勝手に動いたら、俺の部下が黙っている訳ないだろ」

それにあいつの婿は人間だ。そして婿のお陰で王座についている。人間に配慮するしかないのだ。

(さて、どうやって倒すかな……あれを使ってみるか)

 亜空間からギガントドッグの魔石を取り出し、ヴァンパイア達目掛けて放り投げる。


「バキュームボール……軽め」

 狙いはギガントドッグの魔石。真空の渦がヴァンパイアとワーラットを吸い寄せられていく。


「なんだ、この魔石は?お前達、離れなさい」

 ヴァンパイアはワーラットに怒鳴っているけど、それは無理です。


「それには融合の術式が刻んであるんだよ。お前とワーラットは一心同体になったのさ。それと無理に引き離さない方が良いぞ」

 キマイラを作る為に、ギガントドッグの魔石には融合の術式が刻まれていた。これであいつ等の動きは制限される。

 この隙に土貴の子達を保護する。解呪をして、念の為に眠らせておく。元になっている魔力ブラッドが分かっているので、解呪もしやすい。


「そいつ等を返せ。それはドリアードの餌に使うんだよ」

 ヴァンパイアが剣を構えながら、迫ってくる。そして剣の刀身は血で汚れていた。

 どうやらヴァンパイアはワーラットを殺して、強引に引き剝がしたらしい……折角、ヒント上げたのにもったいない。


「あーあ、俺は止めたんだぞ。元王としての責務だ。遺言位聞いてやる」

 もう、ヴァンパイアは長く生きられない。俺の正体に気付いていたら、生きれたのに。


「こんな傷、血を吸えば……ま、魔力が抜けていく」

 ヴァンパイアは何が起こったか分からずに、呆然としている。


「ブラッドの眷属になる時に、こう言われなかったか?“私と王に逆らえば、契約を解除します”って……これはせめてもの情けだ」

 亜空間から魔王剣を取り出し、ヴァンパイアに向かって振り下ろす。


「まさか魔王さ……」

 そう言ってヴァンパイアは息絶えた。真祖でないヴァンパイアがアンデッド状態を保つには、ブラッドとの契約が必須である。自らそれを破棄したんだから、自業自得だ。

 土貴の子達を担ぎながら、地上を目指す。


「しげちゃん、良かった……無事だったんだ

 地上に着くと、桜が泣きながら抱きついてきた。

 桜達は他のユニフォームガーディアンと合流して、無事に地上まで戻って来れたらしい。

激しい戦闘を繰り返した様で、身体中傷だらけである。桜達はまだ良い方で深手を負っている子もいた。

 


「逃げ遅れた生徒はいないのか?」

 地上にいるのは、ざっと数えても二十人弱。半数近くがまだ下水道に残っている事になる。


「二年と三年は順調に魔物を倒せている……経験の差、それが上の見解だ」

 大村が深いため息を漏らしながら、答えてくれた。経験の差ね、魔王としては作戦の甘さが原因だと思うんだけど。


 結局、二年と三年で下水の魔物を殲滅させたらしい。その為か桜達一年は、目に見えて落ち込んでいる。

(ヴァンパイアが倒され、ゴブリンが全滅した。今がチャンスだ)

 魔物サイドは混乱して、蘭の警備が手薄になっている筈。

 その為には一回帰って寝よう。朝露を手に入れる為には、四時には起きなきゃいけない。


「俺は明日用事があるんで、先に帰るぞ。桜達も飯食ってゆっくり休め」

 魔王様はエネルギーを溜める為、お気に入りのソースかつ丼を食べに行きます。キャベツがついているから、栄養バランスも問題なし。ついでに明日必要な物を買っておこう。

(スポイトに密閉容器。木酢液も買っておくか)

 ついでに一週間分の食糧を買って、ビールを飲みながら撮りためておいた番組を見るんだ。

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