子供は生意気な位が丁度いい

 流石は見学ツアーと謳っているだけある。事務所の脇を通りに抜け、階段を使って地下へ移動。途中途中で説明もしてくれた。

(全員が全員、魔物の事を知っている訳じゃないもんな)

 人の口に戸は立てられない。噂だけなら否定も出来るけど、動画配信者が“魔物を撮りに来た”とかやりだしたらパニックになってしまう。

 魔物サイドとしては、その方が都合が良いんだよな。でも、こっちに来ている魔族は必死に隠れている。

 十分位進んだ頃、先頭集団にいた男性が突然後ろを振り向いた。お高いスーツを着ており、お偉いさんだと一発で分かる。


「それでは掃討戦を始めます。ここからはパーティー単位で行動して下さい」

 なんでもこの先が分岐点になっており、ユニフォームガーディアンは割り振られた通路を進んで行くらしい。


「それじゃ、全員集合。俺達の担当区域は、左折してから三番目に出てくる通路だ……岩倉、お前からも一言頼む」

 大村の一言で桜達の視線が俺に集中する。


「えー、無理深追いは絶対にしないで下さい。それとパーティーの隊形を崩さない事。怪我を負ったり、無理だと思ったら私の所に来て下さい」

 掃討戦って軽々しく言うけど『窮鼠猫を嚙む』って言葉を知らないんだろうか?

 追い詰められたゴブリンにベテラン冒険者が殺されたケースは少なくないんだぞ。


「おいおい、あいつ、おっさんの癖にでかい口きいているぜ」

 後ろから笑い声が聞こえたので、振り向いて見ると数人の男子生徒がいた。


「女子の前だから恰好をつけているのだろう。我等、神聖土貴の生徒とは相容れない俗物だ」

 真面目そうな少年が呟く様に話す……うん、そういうキャラ演じたい時期ってあるよね。可愛くて頭を撫でてやりたくなる。


「ふーん、貴方はそれが格好良いと思っているんですか……岩倉さんと違って、お子様なんですね」

 でも夏空さんは違ったらしく、なぜかお怒りなご様子。まあ、知人を馬鹿にされたら、誰でも怒るよね。


「我等は討伐に来たのだ。くだらん馴れ合いや恋愛ごっこは控えて欲しいと言っているだけだ……さあ、行くぞ」

 少年は怒っている夏空さんを無視して、隣の通路へと向かっていく。

 自分のクールキャラに酔っているのが丸わかりで、おじさんは余計なアドバイスをしたくなる。


「それじゃ俺達も行くぞ。……おっと、俗物なおっさんから忠告だ。ワーラットが出たら遠距離攻撃で倒せ。あいつ等細菌まみれだから、近接戦は避けた方が良いぞ」

 奥の方からゴブリン以外の気配もしている。ジャイアントスラッグ・ワーラット・ジャンボローチ……下水と相性の良い魔物をかき集めたって感じだ。

(ダニの件もそうだけど。掃討戦がバレている可能性があるな)

 これだけ多くのユニフォームガーディアンが集まっているなら、寄生させる良い機会だ。


「ネズミが怖くてユニフォームガーディアンが出来ると思うか?何より土貴の生徒には、神の加護がある」

 土貴の少年は、そう言うと冷笑を浮かべた……何年かしたら、そのキャラは黒歴史になるんだぞ。


「ペストも知らないのか?お前は加護で無事でも、仲間や家族へ媒介しちまうんだよ」

 ちなみに魔王様は感染の危険がある魔物がでたら、速攻で消毒する予定です。


「なに、あいつ?すかして格好つけて……しげちゃん、なんで助言なんかしたの?」

 桜は納得がいかないって感じで詰め寄ってきた。後十年もすれば分かると思うんだけど。


「子供に生意気な態度をとられたからって、怒る訳ないだろ。お前も小学生に生意気な口をきかれても怒らないだろ。それと一緒さ」

 若い奴が生意気なのは、どの世界でも一緒である。一々目くじらをたてていたら、酒が不味くなってしまう。

 ぞれよりもアドバイスを送って自己満足に浸れれば、気持ち良く酔えるのだ。


「それよりでかいネズミがいるって、本当なのか?」

 秋月さんの顔色が悪い……虫も駄目だけど、ネズミも苦手なのか……ジャンボローチと遭遇したら気絶しそうだ。


「ええ、素手で触るのは危険なので魔法で攻撃するのがお勧めです。今の秋月さんなら魔法を使えると思うので」

 フェーアさんは、ダークエルフだけあり攻撃魔法も使えた。正式に契約したので、初級魔法なら使える筈。


「……一応習ったけど、上手く当てれなくて」

 フェーアさんはダークエルフだから、魔法は使えて当然な人だから教え方が分からないんだな。


「小学校のドッチボールを思い出せば良いんですよ。魔法はイメージが大切なんです。脳内で魔法を球に置き換えて魔法を放ってみて下さい」

 当たり前だけど、日本では魔法を使える人間はいない。つまり指導方法も確立していないのだ……俺も苦手だったけど、師匠のスパルタ指導のお陰で上達しました。


「流石は岩倉さん。なんとなくイメージ出来たぜ」

 秋月さんはコツを掴んだようだ……でも一番の問題は、馬鹿でかいゴキブリやナメクジと遭遇して平静でいられるかなんだけどね。


 ◇

 女の子が不思議な力を手に入れて、強大な魔物と戦う。創作の世界では昔から良くある話だ。

(落ち着いて見ると、違和感が凄いよな)

 ユニフォームガーディアン、制服を着て戦う年若き戦士達。その力は俺が生まれた世界からもたらされた物らしい。


「浮かない顔をしてどうしたんだ?生徒達は順調に魔物を倒している。そんな顔していたら、士気が下がるぞ」

 確かに桜達は順調に討伐数を増やしている。ジャイアントスラッグも、なんとか倒せていた。

 大村はユニフォームガーディアンの顧問として、桜達を見ている。だから今の戦果は嬉しいんだと思う。

 でも俺は魔王として……そして戦いの先達として、あいつ等の事を見ている。だから、色々と違和感を覚えるのだ。


「随分と古い術式が使われているな。基になっているのは、古代魔法だぞ」

 使われていたのは何千年も前だと思う。俺も師匠の書庫で一回見た位だ……だから解読不能な部分が多すぎる。

(まさか神族が関わっている?いや、そんなの師匠が許す訳ないし)

 かなり難しい術式で、俺がいた時代では使い勝手が悪くて廃れていた。なんで、あんなカビが生えたような術式にしたんだ?


「お前もユニフォームガーディアンに変身させる事が出来るのか」

 確かに難しい術式だ。でも俺は腐っても元魔王様なんだぞ。


「条件次第だ。まず俺と契約する事。そして変身後のデザイン画があればなんとかなる。サイズは調整機能をつければ、なんとかなるしな」

 まあ、既存の制服をベースにするのが、コスパ的に良いと思う……問題は個人用の武器を、どこで手に入れるかだ。

 既存の武器ならともかく、オリジナルの武器はハードルが高い。ドワーフの鍛冶師でもいないと無理だ。


「それでも出来るのかよ……ちょっと、待て。緊急連絡メールが届いた。規定討伐数、到達!?」

 メールを見た大村が驚きの声をあげる。なにしろ桜達はまだ戦っているのだ。つまり下水道には予想以上の魔物が潜んでいたって事になる。

(情報が漏れていた。もしくは内通者がいるか……この気配は?)


「増援が来るぞ。俺が出るから、桜達を撤退させろ」

 規定数に達した途端、魔物の気配が濃くなった。召喚系のトラップでも仕込んでいたんだと思う。


「マジか。奥から魔物がゾロゾロ出て来やがった。全員、後退しろ。後は岩倉に任せるんだ」

 奥から出てきたのはワーラットの集団。ジャンボローチも見える。久し振りに見るとビジュアル的にきつい。


「他の通路にも増援が出ている危険性がある。桜達は、他のユニフォームガーディアンの撤退を手助けしろ。それじゃ、一気に片付けるぞ……バキュームボール」

 ネズミやゴキブリは繁殖力がえげつない。だから真空魔法で吸引して、一匹も取り逃さない様にするのだ……死体が消える仕様で良かった。ばらばらになったネズミやゴキブリは、グロすぎる。


「……あの集団を一回の魔法で……僕達の苦労が馬鹿らしくなってくるよ」

 桜が肩を落としているけど、お前とは戦闘歴が違うんだよ。


「俺も後から行く。先に行ってろ」

 亜空間から剣を取り出し、構える……流石に桜達に見せられないよな。


「こちらにもいましたか……この世界の人間の血は美味しいから嬉しいですね」

 現れたのは、マントを羽織った紳士。その顔は不自然な程、青白い。

 背後にはワーラットがおり、土貴の生徒を担いでいる。


「ヴァンパイアの兄ちゃん、根暗の真祖ブラッドは元気か」

 土貴の子は血を吸われている様で、顔から血の気が引いている。まだ生きているけど、放っておくとヴァンパイアの操り人形と化してしまう。

(まだ解呪は間に合うな。でも、ヴァンパイアって中々死なないんだよな)

 今回の勝利条件

 土貴の子達を助ける(ヴァンパイアとの戦いが長引くと、ワーラットが連れ去る危険性あり。そして遅くなると、リビングデッドとなります)

 ヴァンパイアを倒す(アンデッドだから中々死なない。でもユニフォームガーディアンの増援が来る前に倒さないと、俺の正体がばれてしまいます)

 壁や床に傷つけるのは禁止(魔王剣は石壁位ならバターみたく斬ります)

 そしてブラッドは魔王軍夜間警備四天王の一人。俺の忠臣でもある(魔王に復帰したら、人間関係気まずくなる危険性あり)

 ゲームのミッションじゃないんだぞ。条件クリアしても、プレゼントもないし。


「未だに前魔王への忠誠を忘れない一族の面汚しの事ですか。前魔王ジャントは兵士以外の民から血を吸う事を禁じました。でもフォンセ様は違います。この世界でなら、いくらでも吸血して良いとおっしゃいました」

 お前等が無差別に血を吸ったから、魔族のイメージ悪くなったんだぞ。全力で潰してやる。

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