魔王様は弱体化を自覚する
出来るだけ、討ち漏らしないのようコボルトを倒していく。
「これだけ倒せば、もう諦めるだろ……この魔力は」
久し振りに感じるどぎつい魔力。そして様々な物が混じり合った不自然な匂い。
このブリーダーの評価は最悪らしい。かなり無理な繁殖をしているって噂があった。
(俺も平和ボケしちまったな。ここにはあいつを創り出す材料が揃っているじゃねえか)
このままだと桜達も危ない。まずはコボルトの群れを引き離さないと……。
「岩倉さん、どうしました?さっきまでの勢いがなくなりましたよ。か弱い脆弱な人間の癖に俺様に逆らうのはいけないんだよ」
男の目が紅く染まる。強い魔力を感じないから楽観視していた。
「眷属化か……誰に幾ら積まれたんだ?」
コボルトとブリーダーの男はなんとかなる。問題はこっちに向かってきているやつだ。
「言うと思うか?どっちにしろ、お前達は餌になる運命だ。俺の新しい商売道具の餌になれ」
良く考えたら当たり前だ。コボルトの餌はドッグフードや生肉で間に合う。
わざわざ
「どの魔族に唆されたか知らないけど、相手が悪かったな……ビネガーミスト」
酢の蓋を開けて、魔力で霧状に変化させる。コボルト達がひるんでいる隙に、台車を押してダッシュ。
「お前達、そいつを逃がすな……なにをしている。餌抜きにするぞ」
でもコボルト達は動かない。いや、動けないんだ。
「犬が酢を苦手なのはお前も知っているだろ。特にそいつ等は異世界生まれで刺激臭に慣れていない。嗅いだ事のない匂いで体が固まっているんだよ」
この隙に俺は台車を押しながらさらにダッシュ。
「しげちゃん、見て。コボルト倒せたよ……何があったの?」
桜が俺の顔を見て驚いている。そりゃそうだ。今まで余裕を見せてたんもんね。
「大村はいるか?車に台車を積んで逃げろ……来たか」
地響きをあげながら、それは近づいてきた。
「あれは、なんだ?犬だよな……でか過ぎだろ。それに背中やわき腹から、犬の首が生えている」
大村が呆然とするのも当たり前だ。あれは日本どころか地球……異世界にもいない生物なんだから。
「ベースはギガントドッグっていう異世界の魔物だ。そいつにピットブルやシェパード……それにドーベルマンに土佐犬もいるな。とにかく様々犬を合成させた
醜悪で悪趣味な魔物だ。そしてジェネラルゴブリンなんか比較にならない位強い。
「みんな人間を憎んでいる。恨みのこもった目で私達を見ている」
夏空さんが信じられないって感じで呟く。その事に関してはキを責められない。
俺も大事な
「あいつ等を救うには
全力を出せば勝てる。でも今の俺の体は人間の物だ。魔王の力に耐えられないだろう。
それでも子供達を不安にさせる訳にはいかない。不安をかき消し、背中に自信をみなぎらせる。
(一か八かの勝負に、背中で語るなんて恰好付け過ぎだろ)
似合っていないのは分かるが、これが精いっぱいの見栄だ。
「みんな行くぞ……岩倉、待っているからな」
「無駄だ、無駄だ。ここでコボルトやキマイラを増やして、私が王となるのだ」
経験者として言わせてもらう。王様稼業って、そんなに楽じゃないよ。
「さて、久し振りに本気を出すか」
中級魔族レベルまで力を上げる。
息苦しい位に動悸が早くなった。力に耐えきれず体の節々が悲鳴をあげる。
コボルトを逃がしたら、確実に人を襲う。そしてギガントドッグをここで倒さないと、桜達の命が危ない。
(数十匹いるコボルトを一気に倒す魔法か……触媒がないから、限定されるな)
まずはコボルトが逃げたらまずいので、結界を貼る。
「お前も誰かと契約したのか?」
やはり、魔族が絡んでいるのか?それにしては魔力が弱い……本契約ではなく、詐欺られているんだと思う。
「少なくとも、お前の契約者より上の存在だぜ……アースジャベリン」
今、触媒代わりなる物は土しかない。土を魔力で固め、槍状に変える。
その槍でコボルトを貫く……範囲魔法を使った所為か、魔力がごっそりと減る。
魔王様、悲しい位弱体化しています。
「コボルトなら、また繁殖すればいい……いけ、キマイラ」
背中から生えているピットブルが悲しそうな目でブリーダーを見る。首輪から察するに、あいつの愛犬だと思う。
「明日は電話番だから、速攻で片付けさせてもらうぞ……来い、魔王剣」
早く片付けないと、俺の体がもたないし。
亜空間から昔使っていた剣を引っ張り出す。腕が千切れそうな位に重いし、魔力で手が焼けていくのが分かる。
「魔王剣?お前の頭は餓鬼の頃から成長していないんじゃないのか?」
魔王ジャントが使っていたから魔王剣なんだよ。役職名だっての。
「お前に恨みはない。そしてこれは王としての責務と、せめてもの謝罪だ……次はましな飼い主に出会えよ」
キマイラの体を切り裂き、直ぐに魔王剣(改名検討中)をしまう。
「嘘だろ……キマイラを倒しやがった……まさか俺も殺すつもりか?」
人間なんて飽きる位殺してきた。でも日本で殺人罪を犯す愚は避けたい……それに……。
「それは俺よりお前を恨んでいる奴等に任せるよ……頑張ってワンコ達から逃げるんだな」
俺の結界はまだ生きているから逃げられる範囲は決まっているけど。
(キマイラの魔石は……こりゃまた悪趣味な術式を刻んでいるな)
こんな物を見せたら、魔族のイメージがさらにダウンしてしまう。亜空間にしまっておこう。
「お前達、俺を忘れたのか?飼い主様だぞ」
背後から聞こえる悲鳴を無視しながら、道路を歩く。
「大村、迎えに来てくれ。それと上に“ブリーダーが犬に襲われているから、警察に電話して下さい”って伝えてもらえるか?」
多分、うまくもみ消してくれる筈。
(キマイラより強い魔物が出た時の事を考えておかないとな)
上級魔族レベルまで力を上げたら、体がもたないと思う。
俺の魔石はこれ以上強化出来ないし、どうしよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます