魔王様はねだる

 ただ今土曜日の夜八時四十分。いつもなら良い感じに酔っている時間だ。

(さて、何人来るかな)

 今回の依頼は自由参加にした。まあ、俺一人でも余裕でこなせる案件だし、何より時間が遅い。若い女の子を連れ回して良い時間ではない。

 それと補導されたら元も子もないので、学校近くのスーパーを待ち合わせ場所しました。

 

「お疲れさん。相変わらず来るのが早いな」

 最初にやって来たのは大村だ。スーツを着ており、仕事帰りにそのまま来たって事が分かる。


「待ち合わせ時間の三十分前に来ていないと、落ち着かないんだよ」

 時間ぎりぎりに来て、なにかあったらどうするんだ?……ちなみに待ち合わせ時間は九時半です。

 それとスーパーに長時間駐車するのは申し訳ないので、お茶を買わせてもらいました。


「相変わらずだな。俺は飯を買って来るけど、ついでに買って来るものはあるか?」

 これはありがたい。実は欲しい物があるんだ。

さっき店に入ったけど、慣れないスーパーってどこに何があるか分からないんだよね。待ち合わせの事を考えると、ゆっくり買い物出来ないし。


「お酢を買ってきてくれ。でかいやつで頼む」

 家にはまだ酢のストックはある。でも、念には念を入れておきたいのだ。

(おっ、桜から連絡がきた……車を停めている場所を教えろか)

 場所だけ教えれば、直ぐに分かる筈。だって車体にでっかく文武事務機って書いてあるし。


「お邪魔しまーす……あっ、しげちゃんが作業着を着ている。なんか働いているって感じ。別人みたいだよ」

 来たのは桜、夏空さん、雪守さんの三人。やっぱり、秋月さんは来ないか。

 桜、学校に来ている時も仕事なんですけど。


「お邪魔します。岩倉さん、晴君から伝言を預かってきました“参加出来なくて悪い。俺に出来る事があったら、何でも言ってくれ”です。晴君から、男の人に伝言を頼まれたのは初めてなんですよ」

 夏空さんは、そう言うと嬉しそうにほほ笑んだ。出来る事は何でもか……秋月さん、おじさんにそんな事を言ったら危険ですよ。

 

「それなら今度“気が向いたら料理でも作って下さい”って言っておいて下さい」

 自炊はしているけど、手料理に飢えているんです。待てよ、俺っ娘の手料理……物凄く貴重な感じがする。


「それなら、今度しげちゃんの家でタコパしようよ」

 それはおまえが食べたいだけなのでは……でも人数いた方が警戒されないし、誤解もされないか。


わたくしたこ焼き焼いた事がないから楽しみです」

 話題は俺へのお礼からたこ焼きパーティーに移行……話題の主役から、場の提供者になっています。

 今なら秋月さんが戦えない理由を聞けるんじゃないか?


「秋月さんが戦えない理由って何なんですか?」

 やばい。この話題は地雷だったのか?和やかな空気が一変して、重苦しい空気になった。


「晴君の妹実みのりちゃんって言うんですけど……魔族に呪われているんです」

 おい、魔族の癖に魔王様の面子を潰す気か?俺が呪った訳じゃないのに、罪悪感が凄いぞ。


「詳しく聞かせてもらえますか?」

 情報が揃えば解呪が出来る。なによりどんな魔族やつが日本に来ているのか確認しておきたい。


「去年までは実ちゃんも元気な普通の女の子だったんです。でもある日突然倒れて……どこの病院で調べても原因が分からなくて……」

 当時ラルムの中等部に通っていた秋月さんは、高等部に占いが得意な先生がいると聞いて、藁にもすがる思いで相談したそうだ。


「それってもしかして春告鳥先生ですか?」

 春告鳥先生は元ユニフォームガーディアンで占いの力だけ残っていると聞いた。

 


「流石は営業職、良く知ってるね。僕達……晴も最近知ったんだけど、実ちゃんもユニフォームガーディアンだったんだ」

 ユニフォームガーディンには緘口令がしかれており、例え身内であっても伝える事は出来ない事になっている。

 実さんの姉である晴さんが知らなくても、不思議ではない。

そして半年前、姉の晴さんもユニフォームガーディアンになったとの事。妹を治せるかもと二つ返事で受けたらしい。


「実ちゃんを指揮していたのが、他ならぬ春告鳥先生だったんです」

 秋月さんが事実を知ったのは三か月前。ユニフォームガーディアンになってからだそうだ。


「実ちゃんが入院している病院で偶然顔を合わせて、その時話を聞いたそうなんです。実ちゃんが倒れたのは、戦闘中に魔族に呪いを掛けられたのが原因だって。話をしている最中に、またその魔族が偶然現れて今度は晴君に呪いを掛けたんです」

 偶然じゃない。そいつは、その場に居合わせた人間にある術式を掛けたていんだ。

 患者みのりさんの近くで、自分の事を第三者に話したら分かる術式を……。


「晴さんに掛けられた呪いは『魔石を取り込むと、実さんの呪いが進行する』という物だそうです」

 今までの話から推測すると、そいつは下級魔族だと思う。問題はそいつが実さんに固執する理由だ。

 中学生の女の子に呪いを掛けるなんて、魔族の風上にもおけない。

(たかが下級魔族が良い度胸をしているじゃねえか。魔王様が本当の呪いって物を教えてやる)

 先に言っておく。俺の呪いはどぎついぞ。人間になって得た知識で、パワーアップしてるし。


「そいつの種族、それと実さんのジョブは分かりますか?」

 竜族でもデーモン族でも何でも来いだ。神族や上級魔族以外なら、今も余裕で勝てる。


「実ちゃんのジョブは神官。特に浄化魔法が得意だったと聞きます。魔族の種族は分かりません。でも、蝙蝠みたいな翼の生えた女性で……ろ、露出の高い服を着ていたそうです」

 露出の高い服と言って顔を赤らめる夏空さん。高校生では口にしたくないエロい恰好をしていたんだと思う。

(蝙蝠みたいな翼。露出の高い服。浄化魔法を嫌う……サキュバスで確定だな)

 また面倒なのが日本に来たな。

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