魔王様はセクハラの疑いを掛けられる
大村に連れて来られたのは、体育用具室。ユニフォームガーディアンの指導をする為か、事務机が置いてある。
(随分古いのを使っているな。予算があるなら新しいのを買えば良いのに)
その場合は値段を考慮しちゃうぞ。事務机って中々出ないんだよな。
「それで話ってのは、なんだ?ほら、座れよ」
なんでだろう。同い年だし、俺は生徒じゃないけど
「ああ、この依頼受けても良いか確認したいんだ」
アプリを立ち上げ、ブリーダーの案件を指さす。
「ちょっと待て……この依頼は私有地だから、調査が進んでないんだよ」
いくら国がバックにいても私有地の調査は難しいか。
「そこに行く用事が出来たんだよ。今週の土曜日の夜十時にコピー機を引き取りに来いって言われたんだよ。きちんと違約金も払ってくれるらしい」
私有地で調査が進んでいないか。俺のアプリにそんな情報は載っていなかったぞ。大村のアプリはランクが違うんだろう。
「夜中の十時に来いってのか?客商売は大変だね」
俺から見れば先生の方が大変だと思うぞ。あの四人相手にしてるだけで、胃が痛いのに。
「お前の仕事よりましだよ……ところで下水道の隠しカメラはどうなった?」
この件は俺だから分かる不審な点があった。そして俺だから分かる予測も立っている。
「カメラは壊されて置いてあった盗品が無くなったそうだ。映像を復元したけど、残念ながらなにも映っていなかったらしい」
残念?これで大切な事が分かった。これでブリーダーの件も合点がいく。
「ゴブリン達にカメラを指示出来る奴がいるって証拠だ。いくらホブゴブリンが頭が良くてもカメラの撮影範囲なんて分からないからな。そのブリーダーってのは、商売が上手くいってなくて、支払いが何回も遅れているんだよ」
コピー用紙一冊を急いで持って来いで支払い遅れるんだぞ。文句をつければピットブルで脅すし。
「良くそんな所と付き合いをしてるな」
先生が生徒を選べない様に、
「付き合いの古い食肉業者からの紹介だったんだよ」
廃棄する肉を犬用の餌に安く仕入れていたらしい。つまり大量に肉を買っても不審に思われない。
「ちょっと待て。そのブリーダー商売が上手くいってないんだろ?どうやって違約金を払うつまりなんだ?」
魔王時代なら返答に困っていたと思う。でも、俺も今はリーマン生活十年を超えている。
「金払いの良いスポンサーが付いたんだろ。あそこで魔物の鳴き声がしても、犬の遠吠えだって誤魔化せる」
犬のブリーダーから、
「確認してみる。生徒は連れて行って大丈夫そうか?」
コボルトはゴブリンより数段強い。今のままでは危険だと思う。
「それを大丈夫にするのが、俺の役目だろ……ただし、一つだけ条件がある。俺が行う特訓を誰にも言わない事。もちろん理事長にも管理組織にもだ」
言い方は悪いけど、これは脅迫だ。生徒の命が大事なら、口をはさまないで黙っていろって事である。
「魔石がなくても強くなれるのか?」
やはり、ユニフォームガーディアンは魔石を取り込んで強くなっているんだ。
レベルは、取り込んだ量を数値しているんだと思う。
そしてこれで確信が持てた。ユニフォームガーディアンにはトローン王国の人間が関わっている。
「レベルなんて上げなくても強くなる方法はあるのさ」
大村は俺の前世を普通の人間だと思っている。そして組織から向こうの世界では強くなるには、レベルアップが主だと聞かされている筈。
◇
入り辛い。体育館では桜達が恋愛トークや流行り物の話で盛り上がっていた。なんか全くついていけず、なんて声を掛けて良いのか分からない。
「おーい、休憩終わりだぞ。これから戦闘訓練にはいるそうだ」
流石は
「戦闘訓練って組手でも、するんですか?」
秋月さん、大村には敬語なんですね。一応、俺も大村と同じ年なんですけど。
「そこは岩倉に任せる。鍵をかけてカーテンを閉めれば良いんだろ?」
旧校舎には結界がはってあるらしい。でも、念には念を入れたいのだ。今からやる事見られたら問題になるし。
(無詠唱でも使える魔法だけど、それっぽい呪文をでっち上げておくか)
「ああ、頼む。我命ず。影よ、動き出せ……
やばい。恥ずかしくて顔が赤くなる。とっさに考えた呪文が厨二過ぎた。
「影がコボルトみたくなった?数は一匹。俺と桜が前衛になる。祭と静香は牽制」
秋月さんが仲間に指示を飛ばしていく。何とか戦線に復帰して欲しい。
「一匹倒したら二匹に、二匹倒したら三匹にって数が増えていく。パーティー戦と個人戦の練習だ」
さて、どこまで戦えるかな。
◇
結果、九匹でゲームオーバー。全員ダウンして床にへたり込んでいる。
「しげちゃんのエッチ。あのコボルト僕達の胸を狙ってきたんだよ」
そんなマニアックな指示出さないよ。このまま放置しておいたら、世間体が崩壊してしまう。
「桜、コボルトはどっちの胸を狙ってきたんだ?」
出来れば、この質問で気付いて欲しい。この手の話題って、どこに地雷があるか分からないんだもん。
「どっちて僕は左が多かったかな……しげちゃん、セクハラだよっ」
そう言って自分の胸を押さえる桜。このままだと痴漢指導員の汚名を着せられてしまう。
「それじゃ次の質問だ。左胸の下には何がある?」
努めて無表情を維持。少しでも崩せば説得力が薄れてしまう。
「……心臓だね。しげちゃん、ごめんなさい」
冗談でも役得だから大丈夫って言ったら、地獄になるだろうな。ラッキースケベはおっさんがやったら、確実にセクハラなんだし。
「魔物は人間の急所を熟知している。命乞いをした後に、喉笛を搔き切られるなんてざらだ。決着がつくまで油断するなよ」
決まった。この難しい話題で、大人の威厳を保ったぞ。
「いや、岩倉さんはいやらしいよ。あいつ等の持っている武器も合わせると、数センチだけ俺等よりリーチが長い。距離を上手く取らないと、先手を取られる。本当にいやらしいよ」
そっちのいやらしいか。紛らわしい。俺は場を弁えているだけで、エッチなのは否定しません。
「あの質問なんですけど、なんでみんな同じ形をしていたんですか?」
未練がましいけど、夏空さんに嫌われないで安心している自分がいる。世間様にしられたら、ドン引きされるんだろうな。
「もちろんコボルトにも個体差はありますよ。でも区別をつける為に、毛色や体毛の長さを変えると際限がないんですよ」
ちなみに犬種も様々だ。こっちにコボルトが来ているって事は、ドーベルマンやセントバーナード型のコボルトがいてもおかしくない。
「岩倉さんには、前世の記憶があるとお伺いましたが本当ですか?今の魔法も前世で使われていたんですか?」
今の魔法は俺のオリジナルではない。
「記憶があると言っても、名前や国名は覚えていないんですよ。ただ戦いに参加していた様で、その知識だけは覚えているんです。多分転生させた方が、前世の個人情報を消したんでしょうね。前世に引きずられても仕方ありませんから」
なんだろう。特大のブーメランを投げられた感じがする。
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