魔王様はお値段が気になる

ただいま午前十一時。おじさん頑張った。これなら一回家に戻っても、余裕がある。


「それじゃ、お疲れさん。夏空さん、幼馴染みさんの所へ早く行ってあげて下さい。桜も付いていってやれ」

 完璧だ。これなら気の利く大人の男性にイメージを保ちつつ、自然に別行動が取れる。つまり帰りに送らなくても済むのだ。


「岩倉さん、ありがとうございました。後日改めてお礼をさせて頂きます」

 夏空さんは、そう言うと深々と頭を下げた。彼女がご両親に大切育てられている事が分かる。

(フェスティは、今幸せに暮らしている。それが分かっただけでも、十分だ)

 後は、その幸せを守るのが俺の務めだ。


「しげちゃん、今日はありがとね。それじゃ、また今度。バイバイ」

 桜はそう言うと、笑いながら俺に手を振ってきた。この笑顔を守るのも、俺の務めだ。


「おう、ゆっくり休めよ。それじゃ、俺も帰るぞ」

 餃子をつまみにビールを飲んで、しめにラーメン。その後はゆっくり昼寝。これで明日への鋭気が養える。


「おい、どこへ行くんだ?社会人は報連相ほうれんそうが義務だろ。さあ、行くぞ」

 しかし、そうは問屋おおむらが卸さず。しっかり肩をホールドされました。


「報告って、書類でも上げろって言うのか?それならメールに書式を添付して送ってくれ」

 俺は明日も仕事なんだぞ……書類に魔物を倒した数を書く欄とかあったら、どうしよう。全然覚えてない。


「ユニフォームガーディアンの育成指針の話し合いに、今日の探索結果の報告。今後の対策。理事長が店で待っている。さあ、行くぞ」

 今俺は出向扱いになっている。所属はユニフォームガーディアンの組織になるけど、出向先の上司は理事長だ。

(一日単位での出向だもんな。ゴブリンを倒したから終わりって訳にはいかないか)

 さよならまったりとしたお休み。来週には絶対会いに行くからね。


 胃が痛い。ホブゴブリンと戦った時の、数倍は痛んでいる。

(ベンツにフェラーリ……どこに停めろって言うんだよ)

 大村に案内されたのは、都内某所にある高級中華レストラン。駐車場には高級車がいっぱいで、近くを走るだけで緊張してしまう。

 店内に入ってさらに緊張。目に入る物全てが高級に見えてしまいます。

 案内されたのは店の中でも、一番高そうな部屋。


「岩倉さん、お疲れ様でした。どうぞ、お掛け下さい」

 部屋にいたのは正装した一式理事長。対する俺は合羽から着替えたとは言え正装とは程遠い服装……ナチュラルにマウントを取られています。


「お招きありがとうございます。なにぶん初めての事ですので、報告に不手際がございましたら、都度指摘をしてお願いします」

 あえて椅子に座らず、話し掛ける。だって大村もまだ座っていないし。


「理事長、ユニフォームガーディアンの夏空、春里ともに怪我なく、探索を終えました。詳しい話は岩倉様から聞いてもらえますか?」

 岩倉様?付き合い長いけど、初めて言われたぞ。


「まずお二人共、座って下さい……岩倉さん、下水道の中には、どんな魔物がどれ位いましたか?」

 俺が座ったのを確認すると、理事長が尋ねてきた。どんな魔物か……ゴブリン以外も確認されているって事か。


「ゴブリンが数十匹、おおよそですが七十匹はいたかと。それとホブゴブリンが一匹……ユニフォームガーディアンはジェネラルゴブリンと呼んでおりました」

 ジェネラルゴブリンと言った瞬間、二人の顔色が変わった。いや、あれ魔力が溜まったホブゴブリンだから。


「ジェネラルゴブリン、討伐ランクC級の魔物が下水に……そのジェネラルゴブリンはどうされたのですか?」

 ホブゴブリンがC?つまりAやBに相当する魔物も確認さていると……Bはコボルトやオーク。Aはスケルトンやドリアードあたりだろうか?


「倒しましたよ。ゴブリン数体はわざと逃がしましたが……下水にゴブリンが集めたアクセサリーや漫画がありました。後日、それが無くなっていれば、他にもホブゴブリンがいてコミュニティを作っている可能性があります」

 確実にあるんだけどね。俺としてはゴブリンに指示を出している奴が誰なのか気になる。


「それならペンダントは回収出来たんですね。理事長、秋月の復帰も視野に入れてはどうでしょうか?」

 復帰?って事は秋月さんもユニフォームガーディアン?これで四季が揃った……まさっか苗字でチーム組ませたんじゃないだろうな。


「それは追々考えましょう。岩倉さん、なんでもお好きな物を頼んで下さい」

 選んで下さいと言われても理事長あんたより高いもの頼めないだろ。お願いですから、先に決めて下さい。

(まじっ!チャーハンやラーメンで、こんなに高いの?ビールもえげつねえ値段だな)

 いくつか目星をつけたけど、理事長はまだ迷っている様だ。ここは時間稼ぎも兼ねて、提案をしてみよう。


「そうだ。下水道にダミーの監視カメラを設置する事は出来ますか?」

 有力候補は一番安いノーマルチャーハン、もしくは次点のラーメンだ。


「ダミー?映せなきゃ意味がないだろ?……理事長、すいません」

 いいね、大村君。君が素の反応してくれたから、少しリラックス出来たよ。


「それで良いんだよ。壊されないパターンで映っているのは、ゴブリンだけだからな……問題はカメラが壊された場合さ。そいつはカメラを認知する知識を持っている事になる」

 そして人間と繋がっている可能性も出てくるのだ。


「分かりました。他に何かありますか?」

 あれ、理事長先生まだ注文しないの?ご馳走になる立場としては、高い物は頼めない……話を引き延ばすか。


「ユニフォームガーディアンの武器を模した物を作ってもらえませんか?重さや長さを出来るだけ再現して下さい。それを使って訓練します」

三人とも戦い以前に武器に慣れていない。長さや重さを体に叩きこんでもらうのだ。


「……私はフカヒレの姿煮をもらいます。君達は何にしますか?」

 高過ぎて、参考にならねえよ……理事長先生より高い物は、社会のルール的にアウト。かと言ってあまり値段が違い過ぎる物も、心象を悪くしてまう。

 しかし書いてあるメニューの大半は聞いた事もない料理ばかりだ。でも、せっかくだから、食べた事のない物を頼むのもありだ。


「それじゃ、炒飯を頂きます。前から本格的な炒飯を食べてみたかったんですよ」

 結果、値段のプレッシャーに負けました。だって俺が普段の食べている炒飯の何倍もするんだもん。これ以上高い物は俺の胃が受け付けません。


「岩倉さん、遠慮は必ずしも美徳ではありませんよ……私共には貴方の力が必要なんです」

 こういう言葉を鵜吞みにしてはいけない。理事長は俺の力を警戒している。だから何とか懐柔して首輪をつけておきたいんだろう。


「それでしたら、ユニフォームガーディアンと、現時点で判明している魔物の情報を教えてもらえませんか?最低限の情報を教えてもらえないと、心を開けませんので」

 俺は魔王だぞ。人間風情に首輪を付けられると思うなよ。きちんと商品を買ってくれるなら、首輪を付けなくても尻尾をふってやる。

 前世の功績や威厳じゃ、飯は食えないんです。

 

「忘れてました。ユニフォームガーディアン専用のアプリがあるので、そちらで確認して下さい……すいません。ランチの鳳凰コースを三人前。鳳凰コースにも炒飯が付きますよ」

 俺が言わなかったら、絶対教えなかっただろ……あと、鳳凰コース一諭吉さん以上するんですけど、良いんでしょうか?


「どうして、私をこんなに買ってくれるんですか?」

 ホブゴブリンを倒しただけ……魔王軍だと、評価対象にならないぞ。


「それだけ厳しいんですよ。今年に入って五人のユニフォームガーディアンが入院しました。魔物の存在を公式に発表していないので、自衛隊や警察は発砲できません」

 魔物の相手に発砲許可を待っていたら、大惨事になる。それに自衛隊が町中に集合していたら、市民の不安を煽るだけだ。


「分かりました。出来るだけ、協力させて頂きます。今後も討伐等は大村先生に報告すれば良いんですか?」

 相手が魔族であっても、魔王様おれの平穏な生活を乱すなら許さない。


「アプリに魔物の目撃情報が載っておりますので、討伐出来そうな物があったら、大村先生に報告して下さい」

 ちなみの条件はユニフォームガーディアンを連れて行く事……前世の事は隠しておきたいので好都合だ。桜には悪いけど、隠れ蓑になってもらおう。

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