魔王様は規格外
ゴブリンの群れは、同じ場所から微動だにしない。その距離的は二百メートルといったところ。
「流石にゴブリンも、怖くなったんですかね?」
夏空さん、もってなんでしょうか?おじさん、ゴブリンしか倒してないんですが。
「ゴブリンの動きに乱れはありませんでした。恐怖に駆られたのなら、我先に逃げ出しています。さて、二人に問題です。ゴブリンの群れが、あの位置まで下がった理由はなんでしょう?」
フレンドリー口調は、桜まで怯えさせてしまったので敬語に戻す。フレンドリーおじさんって、意外とハードル高いんだな。
「しげちゃんの攻撃が届かない距離?」
桜君、残念。これ位の距離なら魔法で殲滅出来ます……壁とかを傷付けたら弁償しないといけないから、やらないけどね。
(ユニフォームガーディアン関係の保険とかないか大村に聞いておこう)
「人は通れないけど、ゴブリンなら通れそうな下水道があります」
夏空さん、正解。多分、建物と本道を繋ぐ水路だと思う。
「君達が相手にしているの、魔物だ。人間では無理な場所でも、伏兵を潜ませておく事が出来る……よっと……俺達がここを通り過ぎた後、背後から襲わせる算段だったのさ」
退却した時に数体が横穴に潜んだのだろう。恐らく敵が侵入してきた時、潜んでおく指示していたんだ。
(頭はただのホブゴブリンじゃねえな。拷問してでも、情報を吐かせるか)
どっちにしろ、早くペンダントを取り返してゆっくり昼寝をするんだ。
「それなら、なんでスルーして先に行くの?今、僕達戦えないんだよ」
桜はユニフォームガーディアンの力に頼り過ぎな気がする。素でも戦えるまで強くしてやろう。
「結界を貼ったから心配ない。生き物だけを弾く特別な結界だぞ。背後にも張ってあるから安心しろ」
二人共、まだ戦いの経験が浅い。今背後から襲われる恐怖を覚えてしまうと、一端の兵士になる前に心が折れてしまう。
「生き物だけ通さない結界?普通のじゃ駄目なの?」
……桜、ここがどこだか分かって言ってるのか?
「ここは地下だ。空気の流れを塞げば酸素不足の危険がある。何より下水の流れをせき止めれば、汚水が逆流しかねないんだろ」
敵を倒したからって結界を解除したら、大量の汚水が襲ってくるんだぞ。
「色々とご配慮ありがとうございます……ねえ、しげちゃん。魔石拾わないの?」
いりません。俺にとってゴブリンの魔石は一円玉みたいな……一円が落ちていたら、拾うか。
俺にとってゴブリンの魔石は絶対に行かない店のクーポン券みたいなものだ。
「それじゃ僕達がもらっても良いの?」
桜達も魔石を使うのか。そうなるとユニフォームガーディアンは、向こうの術式で作られた事になる。
(人間に魔石を埋める外法。あれが作られたから、フェスティは殺されたんだ)
魔族は体の中に、魔石を持った状態で産まれてくる。それが魔力の根源になるのだ。そして相手を倒した時に魔石から魔力を吸収する事で更に強くなれる。
昔は人間の世界では、触媒に使われる位だったと言う。しかし、ある魔術師が人間の体内に魔石を埋め込む方法を発見したのだ。
そこから人間の魔石狩りが多発。フェスティが住む村も襲われ、壊滅した……魔石を奪いたいという、身勝手な理由でフェスティは殺されたのだ。
「後からな……こら、そのまま吸収したら危ないだろ。終わったら、ちゃんと浄化してやるよ」
魔石はゴブリンの体内にあったから、汚染が酷い。それに浄化しないと、恨みや憎しみも一緒に取り込む事になる。
「はーい……本当に細かいんだから。細かい男はモテないんだぞー」
酷い。休出して、この扱いかよ。おじさんに対する優しさが足りないぞ。
「モテなくて結構ですー……さあ、行くぞ」
槍を構えなして、ゴブリンの群れに向かっていく。
ある程度距離が縮まった頃、ゴブリンの群れが二つに割れた。
「ほう、面白い人間がいるものですね」
現れたのは鎧を着たホブゴブリン。俺の治世なら不敬罪で、投獄してるぞ。
「岩倉さん、気を付けて下さい。
ジェネラルゴブリン?なに、それ……どう見てもただのホブゴブリンなんですが。
「いや、あれただのホブゴブリンですよ。規模的にも中隊長程度ですし……やっぱり制限付きか。おい、ペンダントを返せ。そうしたら、見逃してやる」
ホブゴブリンを
「どのペンダントの事か分かりませんが、奪ったからには、もうこちらの物です。さあ、包み込んで撫で切りにしてしまいなさい」
なんとも魔物らしい倫理感だな。そして私の物じゃなく、こちらの物か……予想的中だな。
「それじゃ奪い返すまでだ……槍の利点は、そのリーチ。でも懐に入られたら、不利になります。突きの速さより引きの速さを重視して下さい。突くだけで十分牽制になりますので」
ゴブリン達めがけて突きを放つ。よくゲームで槍を使った連続攻撃があるけど、あれ疲れるだけだと思うんだけど。
「貴方、本当に人間ですか……この世界にも、こんな化け物がいるなんて……私が相手になりましょう」
中隊長ホブゴブリンが剣を構えながら、前に出てきた。それを見たゴブリン達は一斉に後退り。中間管理職って、こんな時大変だよね。
「槍は突くだけじゃありません。薙ぐ事も斬る事も出来ますよ。石突きで殴れば、脳震盪を狙えます」
本日、二回目の脳震盪。今回こそちゃんと狙ってやる。
「しげちゃん、一撃一撃がオーバーキルだから。石突きで殴ったら、ジェネラルゴブリンの頭が粉々になってるよ。僕も祭ちゃんも女の子なんだよ。出来る訳ないでしょ!」
おかしい、ラノベや漫画だとこれだけ大活躍すれば“素敵!抱いてっ”ってなるのに、俺非難されまくりなんですが……現実は厳しいです。
ボスを倒したけど、まだ終わりじゃない。
ダッシュして一匹のゴブリンを捕まえる。それだけで涙目になるなんて、酷い。俺はどっちかっていうと魔物側なんだけど。
「良いか?よーく聞け。そのホブゴブリンは集めていた品物を自分の物にしようとしていた。だから、お前達は力を合わせて戦った。でも、多くの仲間が倒された。それを今から報告に行くんだ……そして、偶然たまたまペンダントを置いてある場所を通ってしまう。分かったな?分かったら行ってよし」
ゴブリンが頷いてるのを確認して、解き放つ。倒れこんだゴブリンを抱え起こす仲間ゴブリン。
「なんて言っていたのか分からないけど、しげちゃんの方が悪者っぽいよね」
桜が乾いた笑いを浮かべる。おじさんは傷つきました。お昼のラーメンはチャーシューマシマシにします。
例のゴブリンが動きを止めたところを確認すると、ぼろきれで何かを隠していた、
「ここだな……例のペンダントはありますか?」
しかし、良く集めたよな。漫画にアクセサリー、袋菓子まである。勇者が集めさせた……でも、あいつは魔物の敵だ。結論を出すのはまだ早い。
「ありました……良かった」
ペンダントを見つけた夏空さんが嬉し涙を零す……どうやらフェスティは日本で幸せになった様だ。
(俺も前に進まないとな……まだ午前中だ。飯食って、帰って洗濯だな)
まだ進む道は見えてないので、地味な生活継続なんけどね。
「それじゃ戻るか。二人は先に戻って下さい。俺は結界を解除してから戻るので……夏空さん、早く彼氏さんにペンダントを届けてあげて下さい」
脳内で失恋ソングを掛けながら、話し掛ける。そして自信を持って言えます……今の俺は渋いと。
「うわっ、しげちゃん親父くさっ。それってセクハラだよ」
俺の精いっぱいの強がりだぞ。ラーメンにビールもつけてやる。
「あの晴君は女の子です。名前は
顔を真っ赤にして否定する夏空さん。ホッとしたけど、俺にはチャンスが巡ってきた訳ではないので、スタンスは変えないでおこう。
……でも、そうなると違う問題が出てくるんだよな。
マンホールから出て、秋月さんが襲われたって場所に目線を移す。
(あの辺って風俗街でエロい店しかないんだよな……)
間違っても普通の女子高生が近づく所ではない。邪推はやめて様子観察に留めておこう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます