魔王様は決意する

事の発端は一週間前との事。


「その人が道を歩いていたら、突然ゴブリンに襲われてネックレスを取られちゃったの。凄く大切にしていた物だから、その人落ち込んじゃって……」

 魔王様からしたら、突っ込みどころがありまくりなんですが。ゴブリンがなんでペンダントを欲しがるんだ?確かに光物は好きだけど、あいつ等臆病だから弱った人間しか襲わないんだぞ。

その人か……夏空さんの幼馴染みは、男なのだろうか?

 吹っ切ったつもりでいたけど、やっぱり気になる。


「根本的な事から確認したいんだけど、要はそのペンダントを取り返せば良いんだろ?全滅させる必要はあるのか?」

 ゴブリンを全滅させるのは、かなりの重労働だ。なによりあいつ等が好き好んで日本いせかいに来るとは思えない。黒幕が分からないうちは派手な動きは避けたい。

 我ながら良い提案だと思ったんだけど、何故か変な空気になった。


「しげちゃん、ゴブリンを倒さなきゃペンダントを探せないでしょ。あいつ等、グギャグギャしか言わないんだし」

 ……根本的な事を忘れていた。ゴブリンと会話出来るの俺だけなんだよな。


「どっちにしろ、闇雲に探すより場所を絞った方が良いな。そいつがペンダントを奪われたのは、どの辺なんだ?」

 地図を広げて、桜を促す……まじかー、まさかと思ったけど、そうきたか……いや、疑うのは良くない。俺は無関係なんだし。


「他に必要な情報ないの?会って話を聞いた方が良いんじゃないの?」

 俺が高校生と円滑なコミュニケーションを取れると思うか?

若いの子のテンションについてくのは無理だ。多分、体力も違い過ぎるんだと思う。


「霊能者じゃないんだから、顔を見ても何も分からないって。だからペンダントの情報だけで十分だよ」

 お互いに愉快な存在じゃないと思うし、人の良いおじさんを演じる自信がありません。


「……幽霊を消滅させた人間が言う台詞か。それなら、どんな理由をつけてペンダントを返すんだ?」

 おい、まさか俺が直接返す想定なのか?


「桜か夏空さんが、偶然拾ったで良いだろ。ゴブリンの事は見間違いかとかで、お茶を濁した方が良いと思うぞ」

 人の口に戸は立てられない。東京にゴブリンが出たなんて話あっという間に広がってしまうぞ。そうなると、俺の正体がバレる危険性がある。

(一人でペンダントを探す。ついでに誰がゴブリンを日本に召喚したのか、調べないとな)


「それじゃ、しげちゃん働き損じゃん。お礼位言われても罰は当たらないと思うよ」

 お礼か……そういやユニフォームガーディアンって、金とかもらっているんだろうか?


「俺は会社から金もらっているんだよ。損はしないっての……大村、下水道に潜る許可取れるか?まずは俺が下見をしてくる」

 三人を連れて行くより、一人で探した方が楽だし安全だ。偶然見つけたって言えば文句は言われないだろ。


「確認をとってみる……春里、そろそろ帰る時間だぞ」

 俺一人で潜ると聞いて安心したのか、二人の表情が僅かに緩む……今がチャンスだ。


「それならタクシーを呼ぶよ……そういや、魔物って何しに日本に来ているんだ?」

 ゴブリン種だけじゃ、嫌がらせしか出来ないぞ。


「妖精の話だと日本征服を企んでいるって話だ。征服された地域はないけど、盗難被害は多いんだぜ。酒や食い物、漫画なんかを盗む奴もいるし、額は少ないけど被害は多いんだぞ」

 食糧は分かるけど、漫画って……あっちの世界で漫画欲しがるのは一人だけだ。

俺を殺した勇者の剣崎勇也……漢字は予想です。まさか勇者が犯人?

(それだったら自分が直接日本に来るか、配下を寄越すよな)

 まだ情報が少なすぎる。結論を出すのは、早計だ。


 上級国民凄い。下水道に潜る許可が二日で降りた。

条件は一つ、功績をユニフォームガーディアンに譲る事。なんでも来季の予算に関係するらしい。

早めに潜りたいって言ったのは俺だ。でも出来れば、日曜日は避けて欲しかったな。

ユニフォームガーディアン関係で書類の処理が溜まって、昨日休日出勤したんだぞ。次の休みが遠いです。


「俺一人で潜るって言った筈だぞ」

 やる気あるのは偉いけどさ、お前等がいたら本気出せないじゃん。

 家を出ようとしたら、桜と夏空さんが待っていたのだ。


「僕は強くなりたいの。その為には少しでも多く経験を積まないと……危なくなったらしげちゃんが守ってくれるんでしょ」

 いや、助けるけどさ……なんで、そんなに強くなりたいんだ?


「今回は私の幼馴染みが原因なので……少しでもはる君の役に立ちたいんです」

 そして必死に懇願してくる夏空さん。健気過ぎて魔王様のハートは、崩壊寸前です。

(前世ではフェスティを守ってやる事が出来なかった……やっと巡り合えたんだんだ。今度こそ後悔しない様に守らなきゃ)

 今の俺には戦う力がある。二人には傷一つ付けさせない。恋人になれなくても、幸せになる手助けは出来る筈。


「条件が一つある。今回はユニフォームガーディアンに変身しない事。さて時間がもったいないから、必要な物を買いに行くぞ……大村か、少し遅れるぞ……お前のとこの生徒が押し掛けてきたんだよ」

 今回も良い人で終わる予感がビンビンする。魔王から人間に転生しても独身続行かもしれない。


 俺の車は地方営業にも使えるライトバン。俺達の仕事には車は不可欠。でも、社用車は、人数分ない。

 結果、遠出には自分の車を使う事になる……元カノと付き合っている時に、家族が増えるかもって買ったんだよね。

 そして俺が二人を連れて来たのは働く人の味方ジョブマン。ここでは作業着とかを取り扱っている。昔は男性客が主流だったけど、今はジョブマン女子って言葉もあるそうだ。


「着いたぞ。ここで合羽と長靴を買う。ゴム手袋も忘れるなよ」

 そして俺は大村宛の領収書を忘れない。

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