魔王様は巻き込まれる

上級国民って凄いな。会社に戻ったら、もう校外指導員の話が決まっていたのだ。

 大口の契約に社長は上機嫌。絶対に断れない空気です。

(しかし、魔王の俺が魔物を倒すお手伝いをするのか……なんとも皮肉な話だな)

 いや、その前に女子高生とコミュニケーションをとれるのか?流行りの歌手なんて一人も知らないぞ。


「岩倉さん、金もらってJkと話せるなんて天国じゃないですか。俺と代わって下さいよ」

 伊庭がうらやましそうに話し掛けてきた。こいつはまだ二十三歳でラルムの生徒とも歳が近い。そして中々のイケメンだから、そんな事が言えるんだ。


「おいおい、何を期待してるんだ?俺は仕事にいくんだよ。それにあそこは上級国民のお子さんばかりだから、下手な噂一つで大ダメージをくらうんだぞ」

俺の歳で可能性を考える事自体が、犯罪だと思う。

あの後聞いたんだけど、雪守さんは大会社のお嬢様でした……怪我をさせなく本当に良かったと思います。


「あー……岩倉さん、ラルムに行く前は鏡を見て下さいね。身だしなみ大切ですから……嫌われるのだけは、マジで勘弁して下さい」

 それは身だしなみを忘れるなって意味でしょうか?それとも現実を直視しろって事かな?


「心配しなくても、俺の隣にはラルムの先生がずっとついてるさ」

 むしろそれが校外指導員を受ける条件だ。三人共ラルムではトップクラスの美少女らしい。

あの三人が納得しても、男子生徒から逆恨みされかねない。ましてや彼氏がいたら……そうか、夏空フェスティさんにも彼氏がいてもおかしくないんだよな。

彼氏がいなくても、夏空さんを好きな男の子はいる筈。前世の婚約者って理由だけで、その子を押しのけて仲良くなるのは駄目だと思う。


「岩倉さん、きっと良い事がありますって。そうだ!今度合コン計画しますよ」

 まずい事を言ったと思ったのか、伊庭が慌ててフォローしてきた。合コンしてもお前の評判落とすだけだぞ。


「期待しないで待ってるよ……ちょっと待って」

 スマホが鳴ったので、ディスプレイを確認する。そこに表示されたのは、大村の二文字……たまには色気のある誘いが欲しいです。


 まさかその日のうちに呼び出されるとは。校外指導員として前回の戦いに関する意見を聞きたいとの事。

待ち合わせ場所に行くと、大村と桜がいた。少しほっとした様な、寂しい様な複雑な気持ちである。


「それで桜達は三人でゴブリンに戦いを挑んだと……しかし、見事に誘いこまれたな」

 三人に足りていないのは経験。実戦経験はゴブリンと数回戦っただけらしい。


「なんで、そんな事分かるの?」

 桜は駄目出しに不満らしく、ぶーたれている……あの時俺がいなかったら、死んでいたかもしれないんだぞ。


「大村、頼んでおいた地図持ってきているか?……こっちが俺の進んできた道、そんでこっち側が桜達の進んできた道。丁度Vの字みたくなっているだろ?二つの道が交わる所にホブゴブリンがいた訳だ。地図や周囲を見て何か気付かないか?」

 ビールケースが積んでおり、身を隠すに丁度いい。夜になったら、ビールケースやゴミ箱の上に登りゴブリンに指示を出していたんだろう。


「しげちゃんの使った道も、僕達が使った道も一緒じゃん。ちゃんと説明してよー」

 今まで桜達はゴブリンと、一対一でしか戦った事がない。気付かなくても仕方ないか。


「ここは奥に行く程道が狭くなっている。ホブゴブリンと戦えるのは、一人だけになるんだ。しかも、ここは雑居ビルが立ち並んでいる。その隙間にゴブリンを潜ませておいて、後ろから襲う算段なんだよ」

 そうするとパーティーを分断されるし、袋叩きにあってしまう。ましてやこの狭い通路じゃ、剣や槍は自由に振るえない。


「ホブゴブリンをおびきださせば良いじゃん」

 ……囮は誰がやるんだよ。あの制服じゃ一瞬でボロボロになって、十八禁扱いになるぞ。


「ホブゴブリンだけじゃなくゴブリン種ってのは、物凄く臆病なんだよ。少しでも怪しいと思ったら、とっとと逃げちまうんだ」

 勝手に戦線離脱されて、何回困った事か。でも食糧を現地調達で済ませられるから便利なんだよな。


「逃げるって、どこにだ?ここは袋小路だぞ」

 桜だけだと話が進まないと思ったのか、大村も参戦してきた。確かに地図では行き止まりになっている。


「そこを良く見てみろ。僅かに隙間があるだろ?人は通れないけど、ゴブリンなら余裕だ。そして、ここの裏は川になっている。そこから下水道に逃げ込む寸法なのさ……まだ、この地域に住んでいるゴブリン種は全滅していないぞ」

 そしてこの場所はしばらく使わないと思う。


 どうして、こうなった。先生おおむらがいるから良いけど、通報されたらお巡りさんが来ちゃうんだぞ。


「ここが、しげちゃんの住んでいるアパート?こんな凄い所住んでお金大丈夫?」

 高校生に家賃を心配される魔王様。確かにここは駅近で、間取も広いから家賃はお高めだ。


「春里さん、もう夜なので廊下は静かにしましょう。他の住民の方にご迷惑ですよ」

 大村先生、俺には迷惑が掛かって良いんですか?


「心配しなくても、この階は俺しか住んでないよ。格安でフロアごと借りている」

 かなりお得な家賃です。しっかりからくりはあるけどね。


「……まさか事故物件?出たりしないよな」

 何かを想像して、顔を青くする大村。大丈夫、今は出ないから。


「今は出ないから安心しろ。このアパートの別階に俺の取引先が入っているんだよ。そこも幽霊で困っていてな。俺が物理的に排除したんだ。そうしたら不動産屋にアパート全部の浄化を頼まれたのさ。お陰でワンフロアを格安で貸してもらっているんだ」

 その代わり違う霊や泥棒が入ってこない様、結界を貼っている。たまに他の物件も浄化しているから、不動産屋的にはありがたいらしい。


「物理的って、お化けって殴れるのんだ……浄化と成仏って違うの?」

 拳に魔力をこめれば存在を、霊を消す事が出来ます。


「俺はこっちの世界の神様や仏様とコンタクトが取れないからな。退去に応じなきゃ、浄化魔法で抹消するしかないんだよ……ここが俺の部屋だ」

 ちゃんと相手の素性を調べて、身内を呼んだり悩み事を解決して、駄目なら浄化しているんだぞ。


「お邪魔します……しげちゃん、物がなにもないよ。シンプル過ぎる」

 いや家賃は安くてしてもらっているけど、家具が分相応な物しか使ってないから。それに普段使わない物や貴重品は収納魔法でしまってある。実印や通帳は、亜空間にあるのです。


「それじゃ飯食いながら、今後の話をするぞ……桜、寮に電話しなくても良いのか?」

 ああゆう所って、門限厳しいイメージがある。外出先に知り合いのおじさんの家とか書いてないよな。


「ユニフォームガーディアンの活動時には、門限がないから平気だよ。しげちゃん、お腹すいたー。源たれチャーハン作って」

 桜はソファーに寝ころびながらリクエストをしてきた。ここはお前の家じゃないんだ……桜は実家を離れお嬢様、お坊ちゃまに囲まれて生活をしている。それだけでもストレスが溜まるのに、魔物と命がけの戦いをしてきた。

ある意味ここが東京唯一気を抜ける場所なのかもしれない。


「岩倉、ゴブリンは全滅させれそうか?」

 まったりタイムに突入するのが怖かったのが大村がカットインしてきた。


「ユニフォームガーディアンの三人でか?……無理だな。下水はあいつ等の根城になっていると思うぞ。城攻めには三倍の戦力が必要だって言うんだぜ。逃げ場所は沢山あるし、奇襲も受けやすい。しかも敵の数も不明。死にに行くようなもんだぞ」

 大村達は、たかがゴブリンとか馬鹿にしているかもしれないが、弱い者でも数は脅威である。

 なにより窮鼠猫を嚙むじゃないけど、死ぬ覚悟をしたゴブリンは危険だ。


「でも、それじゃ困るの。しげちゃん、お願い」

 桜が何かを言いよどむ。いや、ゴブリンって手を出さない限り無害な魔物だぞ。むしろ害虫駆除に役立つ筈。


「お願いって、なにか被害が出ているのか?」

 ユニフォームガーディアンという警戒対象がいるから派手な動きはしない筈。やっても食い物を奪う位だと思う。

(……問題は、それ以上の被害が出ていた場合だ)

 その場合は、誰かがゴブリンに命令している可能性がある。

「祭ちゃんの友達が、お母さんの形見のペンダントをゴブリンに取られたの」

 予想以上に重いのがきました。確かにあいつゴブリン光り物好きだけど……空気読めよ。魔族の立場が悪くなるだろうが!

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