魔王様とユニフォームガーディアン
桜達三人からは魔力を感じない。それどころか武器すら持っていなかった。おじさんなめられてるんでしょうか?
「それじゃ、先手を取らせてもらうぞ」
今回も少しだけ力を解放する。イメージ的にはベテラン冒険者レベルだ。
敵が武器を構えるまで、待つほど俺は甘くない。
足に力をこめて距離を縮めようとした瞬間……。
「しげちゃん、ちょっと待って。今変身するから!」
いや、魔物は待ってくれないぞ。あいつ等日本語通じないし。
「変身ってなんだよ?それならきちんと時間稼ぎをしておけ……こんな風になっ!」
三人に向かってファイヤーボールを放つ。もちろん狙いは外しているし、床に着く前に消しておいた。
「無詠唱でファイヤーボール?しげちゃん、魔法を人に向けて打っちゃ駄目なんだよ!」
桜が抗議してくるけど、スルーしておく。
「これは模擬戦なんだろ?そして俺は教える側。変身したいなら、まず隙を作れっ!」
俺の教え方は実戦形式である。魔族時代は部下を良く泣かしたなー。
「祭っ、何か作戦ない?」
はい、桜君減点です。
「敵に聞こえる様に作戦を立てる馬鹿がいるか!?何かしてくるって、警戒されるだろうが!」
もたもたしていたら、おじさん距離をつめて攻撃しちゃうぞ。
「おい岩倉。ちょっとだけ待ってやってくれないか?」
大村からストップがかかる。大村は雇用主の代理ともいえる。大人しく従おう。
「分かった。これが実戦だったら、もう何回も死んでいるぞ」
自分で言っていて分かる。これは部下に嫌われるおじさんのセリフだ。
「しかし、前世の記憶だけで、そんなに動けるのか?」
これは疑われているな。桜達の視線も痛いし。
「戦闘になったら、自然にスイッチが入ったんだよ」
これはある意味嘘じゃない。魔族の習性なのか、戦いになるとテンションが上がってしまうのだ。
「まあ、頼りになるのは分かったからな……三人共、変身出来るな!」
流石は先生、指示の出し方が上手い。
「「「はい、先生。異世界の聖なる神、ライフガーディアンの力を借りてユニフォームチェンジ!」」」
桜達が胸のペンダントを握ったかと思うと、光に包まれた……今日曜の朝じゃないよね。
ライフガーディアンなんて神様聞いた事ないんですけど。
そして変身?したら桜の制服はピンク色になり、手に片手剣を持っていた。
雪なんとかさんの制服は白くなり、杖を装備している。
夏空さんの制服は水色になり、手に持っているのは槍……得意な武器もフェスティと一緒なんだ。
(さて、どう動くかな?)
「敵が武器を装備する前に攻撃しろって言ったのは、しげちゃんなんだからね」
そう言うと、桜は一人で突っ込んできた。実力は駆け出し冒険者相当。
速さはそこそこなんだけど、剣を上段に抱えたまま走ってきている。剣を持ち慣れてないのか、ドタドタ走っていてバランスが悪い。
「せっかく三人いるんだかたら、連携を考えないでどうするんだ?」
苦笑いしながら桜に足払いをかける。勢いよく突っ込んできていたから、桜は、派手にすっ転んだ。
「ふんぎゃ?」
(昔桜が転んだ時、良くあやしたよな)
「桜っ、昔みたく“痛いの痛いの飛んで行けー”ってやってやろうか?」
あんまり泣くから本当にヒールを掛けた事もあったよな。
「もう直ぐにそうやって子供扱いするんだからっ!」
いや、前世も含めると俺三百歳を超えてるんですが……三百年も独身なんだよな。
「俺から見たらまだ子供だよ……そして前衛が勝手に飛び出すと……」
ダッシュで雪……髪の長い女の子に近づく。
「雪守さん、逃げて!」
桜の言葉で思い出した。この子の名前は雪守さんだ。
「前衛が飛び出すと、後衛を守る奴がいなくなるんだぞ……ほいっ!」
雪守さんの眼前で手を叩く。いわゆる猫だましってやつだ。
「きゃっ!」
雪守さんは悲鳴を上げるとへたり込んでしまった。種あかしは簡単で、猫だましをする時に魔力をこめたのだ……だって雪守さんお嬢様っぱいから、怪我させたくないし。
「しげちゃんー、こっちこっち。僕はまだやれるよ!」
桜が大袈裟に手を振って、まだ戦えるアピールをしてくる。
その位置は不自然な位に、夏空さんの真後ろ。
春里に雪守。そして夏空……秋はいないんだろうか?
「夏空さんでしたっけ?残念ですね。慎重になりすぎてバレバレですよ」
突いてきた槍を掴んで、優しく床に座らせる。
「ひどいっ!えこひいきだ。しげちゃんは可愛い子だからって、ひいきするの」
桜が頬を膨らませながらぶーたれている……なんて危険な事を言うんだ。
「二人とも初対面だからだよ……桜、膝とか擦りむいてないか?痛いの痛いの飛んで行けしてやるぞ」
今のセリフは否定しても、肯定しても大変なんだぞ。肯定すればセクハラ疑惑。否定すれば容姿をけなした事にとられかねない。
魔王様は世間体が大事なんです。
「またそうやって子供扱い……もしかして、しげちゃんの“痛いの痛いの飛んで行け”って回復魔法だったの?」
よし、
「怪しまれない位のヒールだけどな……桜、いつから剣を使っているんだ?」
俺の記憶が正しければ、桜が剣道を習いに行った事はない筈。
「ラルムに入ってからだよ。でもまだレベル3だから弱いんだよね」
ラルムに入ってからって事は一ヶ月か。それにしては上達が早い。
(レベルってなんだよ?ゲームじゃないんだぞ)
魔物だけじゃなく、ユニフォームガーディアンの事も調べないと駄目だな。
「ど、どうだ。岩倉は合格か?」
大村が桜の言葉を遮る様に割り込んできた。どうやら
「合格もなにも、全く歯がたちませんでした。お人柄も信頼出来る様ですし……岩倉様、試す様な真似をして申し訳ございません。改めてご指導お願い致します。祭さんも、よろしいですか?」
雪守さんは、そう言うと深々と頭を下てきた。折り目正しい挨拶で、お嬢様だと確信。
保身の為、距離をしっかりと保ちます。
「ふぇ?わ、私は大丈夫だよ。お願いしましゅ」
なぜか顔を赤らめながら、噛みまくる夏空さん。戦ってみて確信した。この子はフェスティとなんらかの関りがある。
勘違いしない為……そして世間体の為、この子とも距離をしっかりと保ちます。
たとえ転生体だとしても、夏空さんはフェスティじゃないのだから。
◇
岩倉が帰った後、大村は一式理事長と話し合いをしていた。
「前世の記憶ですか……大村先生はどう思いますか?」
一式は岩倉の事を信用していなかった。しかし、手放すには惜しい人材でなのだ。
歴代ユニフォームガーディアンと関わってきた一式から見ても規格外な存在である。
「彼とは長い付き合いで、人柄は私が保証しますよ……あいつは高一の時に記憶が戻ったって言ってたんです。それで思い出した事があるんです」
大村は数週間前から、友人である岩倉の事を思い出していた。そして大村が岩倉にゴブリンの事を聞いたのは、戦い方に困ったからではない。
「それは何ですか?」
大村に岩倉を引き入れる様指示したのは、他ならぬ一式であった。いくら政府がバックにいるとはいえ、ラルムに通っている生徒の親の大半は上級国民である。万が一の事があれば、学園の存在自体が危うくなる。
多少危険な橋を渡っても、生徒の安全は確保したい。
しかし、手に入れた
「あいつが高一の時、二個上の先輩に呼び出しをくらったんです。その先輩は札付きの悪で、先生も手を焼いていました」
当然大村は“先生に相談しろ”と言った。しかし岩倉は“あの手の餓鬼は痛い目に合わないと分からないんだよ”と取り合わなかったのだ。
「その生徒が行方不明になったとか言うんじゃないですよね?」
「いえ、一日で真面目な性格になったんです。先日母校の恩師に聞いてみたら“詳しくは話してくれなかったけど、とんでもなく怖い目あったみたいなんだ。なんでも親御さんに泣きながら電話をしてきたらしい”そう言ってました」
岩倉はただ睨んだだけである。ただし魔王時代全盛期の殺気を放ちながら、先輩を睨んだのだ。
「高一の時、人が変わったのは確かと……春告鳥先生の言っていた“ユニフォームガーディアンを助けるのは、大村先生の古い友人です”それは彼の事みたいですね」
春告鳥美代はかつてユニフォームガーディアンであった。学生でなくなり戦う力は失ったが、予言を行う力は残ったのだ。
「岩倉は春里達三人に、殆んど触れずに勝ちました。後から聞いたら、セクハラを気にしていた様です。どう考えても我が校や他校のユニフォームガーディアンより数段……いえ、比べ物にならない実力を持っています」
大村のセリフを魔族が聞いていたら激怒しただろう。我らの王を人間の小娘共と比べるなと。
「岩倉さんの事は、秘密にしてまだ隠しておいた方が良いですね……何か要望とか言っていませんでしたか?」
一式はすでに政府の担当官と話し合い、岩倉をラルムに組み入れる事を決めていた。あれだけの戦力を手放す訳にはいかないのだ。
「受ける条件として“常に第三者を常駐させる事”と言ってました。上の方は何と言っていますか?」
「もう少し実績をみたいそうです。戦力より指導能力や戦略能力を知りたいとの事でした……大村先生、お願い出来ますか?」
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