運命の糸は残酷

 今後の活動について大村と話し合う事になった。


「それで俺はなにを教えれば良いんだ?」

 俺は魔族を戦いで統一した男だ。対魔物戦や魔族戦の経験は、それなりにある……対人戦の経験はもっとあるけどね。日本の法律に照らし合わせたら、即死刑レベルだと思う。


「その前にお前どこで魔物との戦い方を覚えたんだ?」

 友人おおむらが疑惑の目で俺を見ている。質問に質問で返すのは、マナー違反なんだぞ……まあ、当然疑うよな。

 中学からの付き合いだけど、こいつの前で戦いのたの字も出した事がない。

(この間の事を考えると……あった、あそこに隠しカメラがある)

 この間はドローンを飛ばして戦いを撮影していた。そして学校側からしたら、俺は正体不明のおっさんである。


「俺には前世の記憶があるんだよ。それも魔物がいた世界のな……記憶が戻ったのは、高校の時だ」

 こういう時は、真っ赤な嘘をつくと後から取り繕う羽目になる。あえて真実を混ぜた方が話は上手く転がる。俺に前世の記憶があるのは事実だ。それが人間としての記憶とは言ってないし。


「前世の記憶か……なんで今まで黙っていたんだ?話してくれていたら、生徒を危険な目に合わせずに済んだのに」

 いや、そんな事言われても……。


「逆に聞くけど、俺に前世の記憶あるって言ったら信じたか?こっちにゴブリンがいるって知ったのは、この前が初めてだったんだし」

 中学生ならともかく、俺はもう三十歳だぞ。記憶が戻った時は、誤魔化すのに必死だったよな。


「絶対に鼻で笑う……だから高校の時、モンスターとか調べていたのか」

 ……ふとある疑問がわいた。こいつは何時から俺に目をつけていたんだ。


「まあな。向こうの世界との共通点を探していたんだよ……今度は俺から質問だ。いつから俺に目をつけていた?」

 前世の俺を知っているなら、ともかくいきなりボブゴブリンの倒し方を聞くのは不自然過ぎる。


「理事長からも聞いたろ?うちの高校は多くのユニフォームガーディアンを輩出している。その中には教職に就く人もいるんだ。俺の同僚である春告鳥うぐいす先生も、その一人だ。彼女は戦う力を失ったけど、占いの力は残っているのさ」

 なんでも、その春告鳥先生が俺を仲間にすれば良い結果が出ると言ったらしい。


「春告鳥先生。どっかで聞いた事ある名前……あっ、お前が好……」

 大村が好みだって話していた先生だって言おうとしたら、がち睨みされた。そうね、隠しカメラ付いているんだもんね。

 教職は案外出会いがないらしい。もちろん生徒には手を出せないが、卒業生でもアウト。その上部活の指導やなんやらでプライベートの時間が削られ、デートもままならないいそうだ。


「話を戻すぞ。お前には俺が担当している三人に、魔物との戦い方を教えてやって欲しい。ちなみに今討伐を任されているのは、駅前に巣くっているゴブリンだ。でも巣が分からないんだよ」

 駅前にゴブリンが住み着いているのか……そういや、後輩が駅前からネズミやゴキブリが減ったって言ってたよな。


「駅前の地図はあるか?下水道も載っている詳細なやつ。あいつ等は臆病なんだ。人目につく所には巣は作らないんだ」

 ついでに言うと超雑食。ネズミやゴキブリはあいつ等の好物だ。それが目に見えて減っているって事は、かなり繁殖していると思う。


「今、準備する……あの三人は生き残れそうか?」

 勝てそうかじゃなく“生き残れそか”か……もう亡くなった生徒さんもいるんだろうか?


「まだ敵の規模が分からないんだぞ。何より生徒の実力を見ていないのに、答えられる訳ないだろ」

 こういう時、生徒との信頼が大切だと言う奴がいる。

 でもさ、無理に親しくなる必要あるのか?若い娘からした慣れ慣れしくしてくるおっさんなんて、嫌悪感しかわかないだろ。

 あくまでビジネスライクに接する。それが一番安全だ。


「そうだよな。練習場に行くか」

 ユニフォームガーディアンって、どんな戦い方をするんだろうか?


今からサングラス買いに行っても良いでしょうか?

(これ見たらセクハラ扱いされないか?)

 連れて来れたのは、どう見ても体育館。

 そして、なぜかユニフォームガーディアンの三人は制服を着ていた。紺色のクラシックな制服で三人とも美少女だから絵になる。

 でも不合格です。魔王様的指導を入れます。


「今日から指導員として働かせてもらう岩倉慈人です。不慣れな点もあると思いますが、よろしくお願いします。それぞれの能力を見たいので、動きやすい服装に着替えてきてもらえますか?」

 事務口調で挨拶を行う。今の挨拶キモくなかったよな。俺にとっては女子高生の好感度より世間体の方が大事なんだ。


「これが僕達の戦闘服だよ……ははーん、しげちゃん、パンチラとか想像してた?残念、ちゃんとスパッツを履いています」

 桜はそう言うと、制服のスカートをつまみ上げた。ここに春人さんがいたら失神するぞ。


「スカートをまくるなっ!どこで誰が見いているか、分からないんだぞ……ゴブリンの爪や歯って雑菌が凄いんだよ。かすり傷一つで、大変な事になるんだぞ」

 わざと後ろを向いて桜が視界に入らない様にする。男のチラ見は、女性にとってガン見扱いらしい。


「私達は制服を着ていないと力を使えないんです」

フェスティ……夏空さんの話によると、最初に力を授けてくれた妖精がみんな制服を着ているので、これが日本人の戦闘服だって勘違いしたとの事。そして制服を着ている間だけ戦える様に術式を編んだらしい……制服限定って、どんな術式だよ。


わたくしも聞きたい事がございます。岩倉様は成人男性、力は使えない筈。指導の前に力を見せて頂けますか?」

 髪の長い女の子は不信感があるらしい。この子の名前なんだったっけ?

(確か雪がついていたよな……参ったな。若い子ってみんな同じに見えるんだよな)

それは向こうも同じで、この子からしたら俺はただのおじさん。いきなり顧問の友人っておっさんが来たら、疑いたくもなるわな。


「良いですけど、どうすれば信じてもらえますか?組手、実戦、演武なんでもしますよ」

 ただ気を付けなくちゃいけない事がある。俺が本気を出せばこの体育館が壊れてしまう……今は使っていないとはいえ体育館の損害賠償って、いくらになるんだろ?


「私達三人と模擬戦をしてもらえませんか?それで勝てたら、信じます」

 それって三対一じゃん。そんなにおっさんが嫌なの?

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