運命の再開は残酷?

 狐につままれた気分でドアを開けると、桜が立っていた。


「しげちゃん、凄いよ。歴代最高記録だって」

 桜は興奮してまくし立てるけど、なんの事か分からない。


「いや、なにが凄いんだ?」

 まだ魔力測定機に触れてもいないのに。


「詳しい話は理事長先生がしてくれるよ。こっち、こっち」

 桜は慣れた足取りで旧校舎を進んでいく。不測の事態過ぎて、頭が追いつきません。


「その前になんでお前が旧校舎ここにいるんだ?」

 一般生徒は立ち入り制限されている筈なんだけど。


「だって僕はユニフォームガーディアンだもん」

 ユニフォームガーディアンか……ゴブリンも、そんな事を言ってたよな。

 直訳すれば制服の守護者……おじさんは無条件で警戒対象にされそうな名前です。


「桜、答えになってないぞ」

 俺が問いただそうとすると、桜は突然足を止めた。


「それも含めて理事長先生から聞いて……春里です、岩倉様をお連れしました」

 優等生モードに変身した桜が、応接室と書かれた部屋を指さしていた。


 ◇

 まずい。絶対にまずい。ここは俺の地雷原だ。

 なんでもドアノブが魔力測定装置になっていたらしい。そして俺の魔力は、抑えていても歴代最高との事。そりゃそうだ。俺は元魔王だし。


「今から十七年前の事です。日本に突然正体不明の生き物が現れたのです」

 初見じゃ、ゴブリンって分からないか。俺は前から知っていたから分かったんだし。

 コンタクトを取ろうとしたが、どんな手段をとってもゴブリンは襲いかかってきたとの事……ゴブリンにとって人間は天敵でしかない。遺伝子レベルで脅威と刷り込まれているのだ。

(知らない世界に来て、突然人間と遭遇……ゴブリンの奴等パニックになったんだな)


「そんな話は初めて聞きました。本当ならもっと騒ぎになっていると思いますが」

 ゴブリンの魔力は微小だ。十七年前はまだ実家にいたから、都内に現れたゴブリンの魔力を察知するのは不可能だ。


「襲われて怪我をする方もいましたが、内容が内容だけに政府でも緘口令を敷いていたんですよ。倒しても死体は消えて、変な石しか残りませんでしたし」

 石……魔石の事か。ゴブリンの魔石って小さいんだよな。路上で倒したら、探すのも一苦労だったと思う。

 気になったのは、ゴブリンの死体が消えたって事だ……他にも腑に落ちない事がいくつかある。


「魔物と学校に何の関係があるんでしょうか?」

 魔王様的には警察や自衛隊の方が、難敵になると思うのですが。


「魔物が襲うのは、十代の少年少女が主だったんですよ。謎の生物の対応に困っている時、一人の生徒が不思議な力に目覚めたのです。なんでも妖精が力を授けてくれたとの事でした」

 妖精は、謎の生物と同じ世界から来たそうで、謎の生物はゴブリンという魔物だと教えてくれたそうだ……おかしい、妖精族は人間より魔族と仲が良いんだけど。あそこの族長は飲み仲間だったんだぞ。

 その妖精が他の生徒にも力を与え、対魔物組織ユニフォームガーディアンが出来たとの事。

 学校を卒業すると殆んどの者が力を失ってしまう為、組織に属しているのは十代の少年少女が主。だから制服ユニフォームを着た守護者ガーディアンらしい。


「はあ、妖精ですか……それで私は何をすれば良いんでしょうか?」

 妖精なんているんですかって態度を貫く。あいつ等は口が軽いから、顔を合わせるわけにはいかないのだ。


「最近、魔物の目撃件数が増えているんです。ユニフォームガーディアンの素質を持った生徒を判別する方法は見つかりましたが、実戦経験の少ない子も多くて……岩倉さん、

 ユニフォームガーディアンの校外指導員になってもらえませんか?」

 名目上は大村が担当する郷土史研究会の校外指導員になるそうだ。

 つまり校外指導員になれば、大口契約をしてくれると……俺は元とはいえ魔王だ。それなりのプライドもある。


「よろしくお願い致します。でもいくつか条件を出しても、よろしいでしょうか?」

 俺のプライドは、あくまでそれなりだ。それに元魔王だけど、今はサラリーマン。

 入ってこない税収より、ボーナス査定の方が大事なんです。



「ええ、最大限考慮します。生徒を傷付けなければ、何をしても構いせんよ。そう、傷つけなければ……」

 言外に傷を付けなければ、なにをしても良いって言いたげだ。

 そして俺は独身でもてないおじさんだ。でも、女子高生を差し出せなんて事は言わない。

 だって、魔王様おれへのマイナス感情分かるんだもん。ダイレクトに“おっさんキモイ”とか“こいつ勘違いしているじゃん”や“良いカモ”とかが流れてくるんだぞ。

 指導員になっても壁を作って距離を取らせてもらいます。

 そして魔王知っている。日本の偉い人が、はっきり言わない時は後から責任を負いたくないからだ。理事長の言葉を真に受けて女子高生を口説いたら、セクハラ扱いされるに決まっている。そして梯子を外されて、俺だけ悪者にされるんだ。


「まず一つ目。ご察しの通り、俺は魔物と戦う術を持っています。でも、その事は公表しないでもらえますか」

 俺はゴブリンどころかドラゴンも余裕で倒せる。そんな事がばれたら絶対に警戒される。警戒ならまだ良い。もっと面倒なことになる。


「分かりました。貴方の事を調べさせてもらいましたが、信頼に足る人物だと分かりましたので……あれだけの力をお持ちなら、もっと自由気ままに生きられると思うのですが、貴方は慎ましい生活を送れておられる」

 ユニフォームガーディアンになった生徒の中には、力を犯罪行為に使った者もいたらしい。

 まあ、突然力を手に入れたら倫理観がぶっ壊れる奴もいるよね。でも気ままに振るった力は、いずれ自分に返ってくる。

 なにより俺が下手な事したら、師匠に怒られるのだ。いくら魔王でも神様には勝てません。


「作用反作用でしたっけ。力は自分に跳ね返ってきます。当然、力が大きければ、大きい程、跳ね返ってくる力も強くなる……そしてこれが一番大事な条件です……指導員として働いた時間を代休扱いにしてもらえるよう、社長に交渉してもらえませんか?」

 俺は会社の為に、指導員をするんだ。でも、怖くて社長には言えません。


「それなら大丈夫ですよ。指導員をして頂く時間は、学校への出向扱いになるよう手配しますので……私達の組織には政府の人間もいるんですよ」

 まあ、異世界から謎の生物が来たってなれば国も絡んでくるよね。


「それで、私は誰を指導すれば良いんですか?」

 多分、男子生徒だと思うから、ビシビシしごいちゃうぞ。


「大村先生の担当している歴史研究会への出向となります。そして担当してもらうのは、この子達です」

 今から辞退出来ないかな。でも、そうしたらコピー機レンタルが終了になるかも……。


「しげちゃん、よろしくね。みんな、この人の名前は岩倉慈人。見た目の通り人畜無害なおじさんだよ」

 入ってきたのは桜と、あの夜一緒にいた二人の少女……。


わたくし雪守ゆきもり静香しずかです。岩倉様、御指導よろしくお願いいたします」

 雪守さんは大和撫子って感じの美少女。艶やかな黒髪が、物凄く似合っている。

 たたずまいを見ただけで、育ちの良さが分かる。

 住んでいる世界が違いすぎて、接し方が分かりません。この子とは大村か桜を通しててコミュニケーションをとろう。


「私は夏空なつぞらまつりです。岩倉さん、これからよろしくお願いしますね」

 声を聴いただけで、切ない位胸が締め付けれた。夏空さんは元気系の美少女。ポニーテールが良く似合っている。

 そしてフェスティと瓜二つの少女。見た目だけでなく、声や魔力もフェスティと似ている。

(似ているっていうか、殆んど同一人物だよな)

 多分、彼女はフェスティの転生体だ。俺との違いは前世の記憶が残っていない事。

 年が近ければ運命の再会になっていたかもしれない。

 彼女とも第三者を通してコミュニケーションをとろう。それがお互いの為だ。

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