やけ酒魔王とテスト

頭が痛い……昨日はやけ酒をしたから、二日酔いだ。

 それにしても酷い。酷すぎる。やっと再会出来たと思ったら、年が離れているなんて。

 フェスティの記憶が残っていれば、まだワンチャンあったけど、昨日の反応を見る限りそれはないと思う。

『前世で俺と君は恋人同士だったんだ』……知らないおじさんに、こんな事言われたら確実に警察呼ばれるよね。

 師匠は再会出来るとは言ったけど、恋人に戻れるとは言っていない。

 このままふて寝をしたいけど、スマホのアラームが出社時刻を告げた。


状態回復リフレッシュっっと……諦めて前に進むとするか」

 もう会う事もない……おじさんが女子高生に付きまとっていたら、警察沙汰になるし。

(愛を知れか……家族愛なら知れたんだけどな)

 今の両親には、凄く大切に育っててもらった。前世では親の愛を知らなかったけど、今は感謝しかない。

親孝行をしたら、向こうに戻る方法を探そうかな。そしたら、あの子と会わなくて済むし。


 昔、先輩に教えてもらった。失恋を癒すには仕事が一番だと。夢中で仕事をしていたら、気付いたら失恋の傷も言えると思う。


「岩倉、聖ラルムから電話だぞ。新しいコピー機をお願いしたいそうだ。絶対に話をまとめて来いよ」

 なんてタイミングなんだ。行きたくないけど、新規リースは見逃せない。

(会わなきゃ、心も揺れ動かない。それにあの子がフェスティの転生体だと決まった訳じゃないし)

 魔王様、全然吹っ切れていませぬ。前世も合わせると三百年位生きている。

 でも恋愛面は全く成長していません……魔王時代も独身だったんです。


 今回も力を封じての営業です。フェスティの気配とか感じたら、涙が出ると思う。


「岩倉さんですね。お待ちしていました。実は貴方に頼みたい事があるんです」

 駐車場に着くと、主任と見た事がない中年男性が待っていた。身なりの良い恰好をしており、一目で上級国民だと分かる。


「岩倉さん、こちらの方は当法人で理事長をなされている一式いっしき理事です」

 り、理事長?ラルムの理事長って言ったら、がちの上級国民じゃないか。マナー違反一つで、俺の首が飛んでしまうぞ。


「籠守主任、それでは岩倉さんを旧校舎にご案内して下さい」

 旧校舎?なんで、そんな所にコピー機を置く必要があるんだ?

(確か旧校舎は今使われていない筈。そして一般生徒は立ち入り禁止になっている筈だけど)

 そんな所で、誰がコピーをとるんだろう?


「と、とりあえず設置場所を確認させてもらいますね」

 搬入口あるかな?その前に旧校舎って今は使っていない筈。電源生きてるのか?

 旧校舎はお嬢様学校だった時に使われていたらしく、かなり趣のある物だった。

 でも正面玄関は封鎖されていて、ここにコピー機を置く意味があるのだろうか?


「職員玄関から入って下さい……岩倉さん、貴方昨日駅前にいましたよね」

 職員玄関のドアに手を掛けた瞬間、籠守主任が声をかけてきた……職員室でトリオに行く話をしていた。これは誤魔化せない。


「ええ、大村先生に誘われまして……彼とは高校のクラスメイトだったので、たまに飲んでいるですよ」

 野郎だけの寂しい飲み会でやましい事はなにもない。昨日は途中で帰られたけど。


「昨日私共は駅前でドローンを飛ばしていたんですよ。そうしたら、面白い映像が撮れましてね……岩倉さん、貴方にはこれからある試験を受けてもらいます。もし合格したら、コピー機だけでなく、当法人で扱う全ての事務用品を文武事務機さんにお願いしようと思っております」

 ドローンを飛ばしていたって事は、ゴブリンをぶっ飛ばしている所を見ていたと……でも、俺は元といえ魔王だ。正義の為に戦う気はない。

 しかし、だ。ラルムは小中高が揃った巨大学園法人。その事務用品の取引権は喉から手が出る程欲しい。

 方針が変わりました。正義の為には戦いませんが、営業成績の為なら頑張ります。


「お任せ下さい。絶対、期待に応えますよ」

 流れ的に魔法や戦闘に関する試験だと思う。魔王的には楽勝です。

元魔王しょうたいだってばれない程度の成績で、試験を突破……それが理想の展開だな)

 営業成績も大事だけど、なんでゴブリンが日本にいるのか知っておく必要がある。


 ドアを開けると、同時に魔力を少しだけ開放する。感覚的には前世の駆け出し冒険者レベル。

さあ、どんな魔物でもかかってこい。

 うちの国では俺に戦いを挑めば、死刑と同じと言われたいたんだぞ。

 ……勇んで進んでみるが、魔物のまの字も出てこない。

(使ってないわりには、掃除が行き届いているな)

部活か何かで使われているのか、旧校舎には生活感が残っていた。


「この部屋に入って下さいか……」

 一年A組と書かれたドアを開けると、机が一つだけ残されている。

(学生机か懐かしいな……あれはなんだ?)

 机の上に触って下さいと言わんばかりに、透明な球が置いてあった。

 魔王知っている。これは魔力とかを測る装置だ。魔力を感じないのは、敵?に見つからない為に科学の力を使っているんだと思う。

 強い魔力を持った者が触れると、特別な反応を示して周囲が驚くんだ。

 それで“俺、何かしましたか?”って天然ぶるのが様式美なのである。

(他の人間は騙せても、魔王様はその手に引っ掛からないぞ)

 魔物と戦うとしても、アドバイザー的な立場が良い。

 魔王時代の知り合いに会いたくないし、なにより仕事に支障が出る。

 一般人レベルまで魔力を弱めて、球に触れようとした瞬間……。


「岩倉さん、合格です。そこから移動して応接室へお越し下さい」

 まだ、球に触ってないぞ。まじで、俺なんかやっちゃいましたか?

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