再開は無情

不思議な物で大人になると、友達が減る。俺も学生時代は、それなりに友達がいた。放課後は毎日の様に遊んでいたし、長期の休みはスケジュールがびっちり。チャリンコがあれば、どこまでも行ける気がした。

しかし、進学や就職で住む所が変わると激減してしまう。

そして仕事や結婚でライフスタイルが変り、気付けば気軽に会える友達が殆んどいなくなってしまうのだ。

 そして友人と遊ぶイコール飲み会になってしまう。まあ、この年になるとチャリで探検はしないよね。


「俺も生で……焼き鳥は塩で良いよな」

 しかし、この気の置けない友人との飲み会が貴重なのだ。いくら仲が良くても、会社の人とは一線を置いてしまう。面倒臭いしがらみがなく、馬鹿話が出来るのは嬉しい。


「良いよ……それで今日はどうしたんだ?いきなり飲みたいなんて」

 高校教師って、かなり激務らしい。聖ラルムは保護者の監視の目が厳しいらしく、平日に飲んでいるだけで苦情が来るらしい。


「お前、高校の時モンスターや転生の事調べていた事があったろ?」

俺が前世の事を思い出したのは、高校一年生の時だった。この世界と前にいた世界に何か共通点があるか、調べていたのだ……もう一度、フェスティに会いたかったし。


「そんな事もあったな。ゲームか何かで興味を持ったんだと思うぞ。それがどうしたんだ?」

 いくら気の置けない友人だからと言って前世まおうの事を話す訳にはいかない。言っても信じてもらえないだろうし。


「ゴブリンの上位種……ホブゴブリンって、どうやって討伐させれば良いんだ?」

 大村はジョッキを一気に煽ると真剣な目で、そう言った。聞き間違いじゃない。

確かにホブゴブリンと言ったのだ。

(ゲームの話じゃないよな……生徒に創作のアドバイスでも、求められたのか?)

 魔王的には殴れば簡単でしょだ。でも大村先生が求めているのは、そんな事ではないと思う。


「生徒さんから、ラノベかなんかの相談をされたのか?でも、質問が曖昧過ぎるぞ。どんな奴が戦う設定なんだ?」

 確かに俺は魔物に詳しい。ゴブリンもホブゴブリンも良く知っている……部下にもいたし。

 問題はどんな奴がホブゴブリンと戦うかだ。


「そ、そうなんだよ。ほら、俺歴史を教えていて、郷土史研究会の顧問をしているだろ。それで神話とかにも詳しいと思ったみたいなんだ」

 ……わざわざ倒し方を聞くって事は、チートじゃなくリアルな設定なんだろう。

 良いだろう。魔王様がきちんとアドバイスしてやるぞ。


「先生も大変だな。それで、どんなキャラが戦うんだ?……すいません、生おかわり。それと皮を塩でお願いします」

 メニューに目を落としながら、大村の返事を待つ。


「……えっと女子高生三人のパーティーで、一ヶ月くらい前に戦う力を手に入れた……っていう設定だ。ゴブリンは何体か倒した事がある。創作とかじゃなく、本当に命懸けの戦いだと思って答えてくれ。頼む」

 大村はそう言うと、俺に頭を下げてた。命懸けの戦いか……。


「まだ早いな。ホブゴブリンと戦うのは無理だ。ホブゴブリンが、ちょっと強いゴブリンだと思っていたら、確実に死ぬぞ」

ゴブリンを兵士として雇用するのは難しい。

 まず作戦を中々理解してくれない。それに強い魔物に怯えるから、連携が取り辛い。

 それを解消してくれるのが、ホブゴブリン。他隊との折衝に作戦の説明。

彼等が手配出来ない時は、ゴブリンを雇わない方が良い。

 それゆえホブゴブリンは重宝がられ、重要視される。俺の軍でも、ホブゴブリン一匹に対して、最低二十匹のゴブリンをつけていた。

 一人で十匹のゴブリンを相手できる。これがホブゴブリンに挑戦する最低限の条件だ。


「嘘だろ……ちょっと待ってくれ……ああ、俺だ……今、どこにいる?……慈人、悪い。先に帰るぞ」

 大村はそう言うと諭吉さんをテーブルに置いて店を出て行った。

 自分で誘っておいて……ゴチになります。


 部屋で一人で飲むのも、居酒屋で一人で飲むのも慣れている。しかし、今日は騒ぐぞって、テンションで来たから肩すかし状態になり、飲み放題終了前におあいそ。注文していた焼き鳥はお持ち帰りにしました。

店を出ると五月の暖かな風が身体を包む。ふと空を見上げると、いくつもの灯りがともっていた。

(本当にフェスティは日本にいるのかな)

 師匠は本物の神様だから、嘘は言わない。でも、この広い世界からフェスティの転生体を探すのは至難の技だ。

……もう諦めた方が良いのかもな。フェスティは俺の婚約者だった。本当に大切な愛おしい女性だった。でも、ある日魔族狩りにあい人間に殺されたのだ。

転生して三十年、前世も入れると三百年を超える。もう前に進むべきなのかも知れない。

(夜風に当たりながら散歩でもするか)

 足の向くまま、ブラブラと歩く。


「っとすいません……って、ゴブリン?おい、俺の焼き鳥返しやがれ!」

 路地裏に入った時である。何かが足にぶつかった。

 そこにいたのは、まごう事なきゴブリン。しかも俺の焼き鳥をパクッていやがる。

 魔王様の晩酌のお供を盗むなんて、世が世なら大罪だぞ。


「オマエ、マリョクナイ。ヨワイ、バーカ」

 聞きました?奥様。ゴブリンがまおうを馬鹿にしたんですよ。嫌ですわねー……よし、しばく!


「魔力だー?好きなだけ見せてやるよ!」

 魔力を解放しながら、ゴブリンに近付く。


「ナンダ、オマエ?ユニフォームガーディアンジャナイノニ、コノマリョクハ?」

 ユニフォームガーディアン?なんだ、そりゃ?俺は魔王だ……元だけど。


「うるせー!早く焼き鳥返せ」

 ダッシュで近づこうとした瞬間、ゴブリンが踵を返し逃げ出した。狭い路地裏では、体の小さいゴブリンの方が早く動ける。


「コッチ、コッチ、ココマデオーイデ……カカッタナ、ココニハオレノナカマガ……ウソダロ?オ、オヤブーン」

 数匹のゴブリンとホブゴブリンの気配がする。一匹ずつ倒していたら、焼き鳥が冷めてしまう。

(一匹ずつ相手していたら、焼き鳥が冷めちまう……一気に片付けるか)

 魔力に触れた相手を弾き飛ばす性質を付与。そして全身にまとわせる。俺はゴブリンの群れに突っ込んでいった。

 ホブゴブリンは焦っていた。部下を引き連れ、異世界にやって来て数か月。飯はそこら中にあるし、厄介な冒険者はいない。

 彼らにとってここは、まさに別天地である。

 何度かユニフォームガーディアンとか言う連中に襲われたが、地下水道に逃げることで生き延びていた。


(嘘だろ?猿人が部下をなぎ倒しながら、こっちに向かって来る)

 ホブゴブリンが驚くのも無理はない。一人の猿人がラッセル車の様な勢いで部下を蹴散らしながら、自分の方に向かってくるのだ。


「オヤブンー、タスケテー」

 部下が助けを求めているが、ホブゴブリンは微動だに出来ずいた。

彼は部下のゴブリンを斥候と食料確保の為、周囲に放っている。自分は奥に潜み、敵の強弱を見極めるのだ。弱い敵なら部下と共に集団戦を仕掛ける。強い敵なら地下水道に逃げ込む。

 簡単に数を増やせるゴブリンならではの、戦法である。


「逃げるぞ!」

 しかし、既に殆んど部下が倒されてしまっている。今迫って来ている猿人に勝つ自信もない。

 もし、魔族がこの話を聞いたなら、誰もホブゴブリンを責めなかったであろう。むしろ運が悪かったねと慰めてくれる魔族が大半だと思う。

 彼が相手にしているのは、一代で魔族を統一した魔王ジャントなのだから。


「もう逃げられないぞ……焼き鳥返せ」

 不運なホブゴブリンの最期の記憶は、目にもとまらぬ素早い拳であった。


 酔いと怒りのコンボでゴブリンを倒したけど……なんで、こいつ等が日本にいるんだ?

(ホブゴブリンまでいたし……しかも、こいつ等俺の世界にいたゴブリンだよな)

このままバックレたら、問題になるよな。都内で謎の生物の死体が見つかったって。


「それじゃみんな行くよ。私達なら絶対にホブゴブリンを倒せる」

 どうやって証拠隠滅をはかろうか考えていたら、人の声が聞こえてきた。まずい。どうしよう。“変な生き物に襲われたんです。助けてください”とかいって誤魔化そうにも全滅させちゃったし。


「でも祭さん、斥候のゴブリンが一匹も出て来ませんわよ……大村先生、どうしますか?」

 ……大村先生?いや、知り合いに見つかったら絶対にまずいぞ。

(転移魔法は……家にマーカー置いてなかった)

 こうなれば大村の記憶を消すしかないか。


「フェスティ!?」

 現われたのは大村と桜、和風美少女……そしてフェスティそっくりな少女の四人だった。

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