第35話 沼地にて

 俺は早朝の暗い時間から一人でクエストを受け沼地に来ていた。

 本当は一人で来るべきではないが、この沼地は瘴気発するエリアから遠く危険なモンスターは少ない。

 それに昨日のマリアとルーナの伸縮自在の剣マスバントソードに対する評価が著しくなく、誰かと行動する気分ではなかった。


 確かに伸縮自在の剣は地味だし、離れた敵を攻撃するなら他の魔制剣だったり、魔法が使えるなら魔法の方がいい。


 しかし、剣が伸びたら相手は絶対驚くし、初見殺しにはなるはずだ。それに何より、その希少性に疑いようはない。経験豊富なギュンターや他の騎士に見せてもこんな剣は初めて見たと言ってくれた。トルキンもこんな特殊な剣を打ったのはワシが初めてだろうと言っていたし、伸びる魔制剣は少なくとも王国にはこの1本しかないだろう。


 魔制剣を1本作って貰うのに白金貨2枚必要だ。魔石の値段は、倒した魔物の強さによって出てくる大きさや質が違ってくる。大体の相場は、GランクからEランクの小さい魔石は銅貨2、3枚程度、CDランクは銀貨2、3枚、Bランク金貨1枚、Aランク以上となると、質のいい物は白金貨ぐらいになったりする。凄くムラある為、いちいち冒険者ギルドで売る前に鑑定をしないといけないが、大体そんな感じだ。


 俺たちが持って行く魔石はCランクの物が多いため、大体1個当たりの平均は銀貨2、3枚程度。コツコツ頑張って貯めた金で作った物の評価が著しくないと、存外気分が落ち込むものだ。そういえば前世の父も考えたプロジェクトが上司に評価されないと嘆いていたな。父もこんな気分だっただろうか。


 いや、諦めてはいけない。絶対にこの剣が活躍する時が来る。その時はマリアとルーナにドヤ顔して見返してやるのだ。


 俺がクエストに出かける時の服装はギュンターが着ているヘストロアの黒の軍服にポーションなどが入ったショルダーバックが基本だ。


 この軍服はただの布ではない。魔石を液体状にし、それを生地にしみこませ、魔法を施した、れっきとした魔制具である。そこら辺の鎧より衝撃に強く、魔法耐性もある一級品だ。これが製造できるのは、偏にヘストロアが誇る魔法技術だからだそうだ。胸にある黒い薔薇のマークもお洒落であり、ファッションセンスも感じられる。この黒薔薇のマークは、ヘストロアの家紋で、ヘストロアの貴族が着用する物に入っている。ちなみに、騎士が着用するものには、黒薔薇の代わりに、騎士の階級を示すバッジが付けられる。


 俺はショルダーバックに入っていたメモ帳を片手に、次はどんな魔制剣を作って貰おうかとアイディアを書き留めながら、ターゲットである沼地の骨鮫スワンプボーンシャークを探していると、3体のスケルトンに出くわした。


「グゴゴ……」


 スケルトンのくせに朝からご苦労なことだな

 スケルトンはG級のモンスターだ。俺からすれば雑魚も同然。

これはちょうどいいかもしれない。


 俺は今まで炎魔法の火力に頼って来た。それは俺に宿る魔力属性の60パーセントが炎魔法であり、カトレアとの魔法実践演習でも炎魔法中心に訓練してきたからだ。 

 しかし、まだ風や闇、土も俺の中にあるのだ。そろそろこれらも活用して戦闘の幅を広げていきたい。


 俺は書庫でスケルトンを召喚した時と同じように剣を持った骸骨をイメージし、闇の魔力属性を手に集め、それを放出する。


 書庫の時と同じように甲高い効果音と黒い霧が出現し、その中から一体のスケルトンが出てくる。


 よし。まずは成功だ。

 俺はそれをあと二回繰り返し、3体のスケルトンを揃えた。これで数も互角。


「やれ」


 俺は召喚したスケルトンに敵のスケルトンを倒すように指示を出す。

 召喚したスケルトンが勢いよく走り出すと敵のスケルトン3体を一網打尽にした。

 俺のスケルトン達は強いな……1体もやられなかった。何か理由があるのか?


 召喚したスケルトンを消すのももったいないので、そのまま連れていくことにする。


 俺は地図を広げると今の位置を確認する。

 今いる場所はまだ沼地の入口だ。沼地の骨鮫スワンプボーンシャークはもうちょっと奥に入った、深い沼にいると情報が入っている。

 もう少し歩くか。


 そう思ったところでまたスケルトンが沼の中から姿を現した。

 しかも今回は数が多い。20体はいる。その中にはゴツイ鎧からマントを靡かせ、さらに大剣も装備している個体もいた。


 スケルトンって意外と朝方なのかな?

 スケルトンの意外な生態はさて置き、俺はさらに7体のスケルトンを召喚し突撃させる。

 しかし、先ほどは圧勝した俺のスケルトン達は、鎧のスケルトンの一振り粉砕されてしまう。

 あのヤバそうなスケルトンは将軍ジェネラルか?

 スケルトンには戦士ウォーリア魔法使いウィザード弓使いアーチャー将軍ジェネラルキングなどの種類があるが、将軍ジェネラルは特に仲間のスケルトンの統率と戦闘力が優れている、Bランクの魔物で、キングの次に上位だ。

 

「グガオオオオ!」


 そのスケルトン・ジェネラルが雄叫びを上げると、沼の中からさらに多くのスケルトンが出現し、軽く見積もっても100以上は見て取れた。

 スケルトン・ジェネラルに魔物を召喚する能力はないはずなので、もともとこの辺りにいたスケルトン達が、将軍ジェネラルの存在に引かれてきたのだろう。


 沼地の、それも入口付近にこんな危険な魔物が住みついているとは……。

 だがこれは俺のスケルトン達がどれだけやれるかテストをする絶好の好機だ。


「その挑戦、受けて立とう」


 俺は150ほどのスケルトンを召喚し、応戦する。

 

「いけ! 叩き潰せ!」


 俺はスケルトンに突撃命令を出した。

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