第34話 魔制剣
「こんばんわー。トルキンいるかー」
鍛冶屋に着いたのは夕暮れだった。
俺が鍛冶屋で鍛冶屋の主人の名前を呼ぶと、奥から背が小さく長い髭を蓄えた人物が現れた。
彼の種族はドワーフで、もともと王都で鍛冶師をしていたらしいが、ドワーフ差別が激しくこっちに移って来たそうだ。ギュンターとは王都に在住していた時からの知り合いで、数少ない客の一人だったという。
「おお、やっと来たか。ギュンターのやつには今日の朝には出来たと伝えていたんだがな……」
俺たちは朝からクエストを受けていたから来れるわけがないが、ギュンターはそれを伝えていなかったようだな。
「それで、トルキン。完成した剣は?」
「これじゃい」
そういってトルキンは鞘に入っているロングソードを手渡してくる。
俺は抜いて剣身の輝きを確認する。
「んー、そこそこだな」
「そこそこ……とな。これでも端正こめて作った傑作なのじゃが……お主は一体どんな剣と比較しているんじゃ……」
俺はこの町に来てから様々な剣を見てきた。剣だけじゃない。槍やナイフ、斧なども見たが、残念ながら光剣ライトセイバーを超える衝撃はなかった。
この剣の輝きはアバディンの店にあるどの剣よりも綺麗だが、俺の胸には響かない……が、この剣の価値は美しさではなく、もっと別のところにある。
「特に何の代り映えのない剣に見えますねー」
ルーナはそんな感想を口にする。
見た目はただのロングソードだからな。無理もない。
「フィンゼル様。この剣は魔制剣ですよね? どんな力があるんですか?」
度々思うが、マリアは男心をくすぐるのが上手いと思う。
そんな興味津々です! みたいな顔をされると懇切丁寧に説明してあげたくなる。
「よし! 今からこの剣の能力を見せてやるよ」
俺が剣を振りかぶり使おうとすると―――
「おい! 危ないからやるなら外でやってくれよ!」
振りぬく寸前で俺は動きを止める。確かにここではいささか危険か……。
俺は考え直し、外に出てお披露目会をすることにする。
マリアとルーナが見守るなか、俺は剣を構える。
「おりゃ!」
そして俺は目の前の気に向かって剣を思いっきり振った。
すると剣は10メートルほど剣身を伸ばし、前の木にズゴン!と音をたて命中した。
おお!伸びた!
今度は剣に剣身を戻すように念じると、伸ばし切ったメジャーが勢いよく戻るようにギュルギュル言って剣身に戻っていき、バチンと元の形状に戻った。
あぶねっ! 下手したら戻すときに自分の指を落としかねないな。しかし……
命中した木には、20センチほどの切込みが入っており、中々の切れ味というのが分かる。
成功だ。
「トルキン良くやってくれた。これは素晴らしい物だ」
右手をトルキンに差し出すと「あ、ああ」と言いながら握手に答えてくれる。
そして俺は女子二人の反応を見る為、ドヤ顔をしながら振り返ると、マリアとルーナはぽかんとした顔をして、俺を見ていた。
「ご主人様。終わり……ですか?なんだか地味ですね……」
ルーナはこの剣の凄さを分かっていないらしいな。
「あ……えっと。す、素晴らしいと思います!」
マリアからも分からないから、とりあえず褒めとけ! と、そんな投げやりな感情が伝わる。
しょうがない。説明してやるか。
「いいか二人とも、まず魔制剣とはなんだ?」
「魔制剣とは魔石を材料にし、魔法を組み込むことでその剣事態に魔法を発生させることが出来る様にする、正式名所、魔法制御剣のことですよね?」
マリアが間髪入れずに答える。
「そうだ。では次に魔制剣の希少性を考えてみよう。どうだ? 魔制剣は希少か?」
「いえ、28天剣ほどの物ならばいざ知らず、魔制剣その物は多少値が張りますが、この町でも手に入ります」
これも間髪入れずにマリアが答える。
「そう! 魔制剣はこの世界に溢れていて、28天剣以外は正直重要ではない。しかし! 伸びる剣だったらどうだろうか? 火を噴く魔制剣、風を起こす魔制剣、氷漬けにする魔制剣はこの世にごまんとあるし、そんなものは魔制剣でなくても魔法で出来る。しかし、剣身が伸びて相手を切る魔剣は、この世界に今ここにしかない!」
俺はこの伸びる剣、
「でも、遠くの敵を切ることなら風魔法でも出来ますよ?」
そうルーナは疑問を口にするが、やはり分かっていないな。
「違う。違うぞ。間違っている。魔法にはできないが、この剣ならできることがあるだろ?」
「魔法ではできなくて、その剣にならできること……。それは一体……?」
本当に分からないのだろう。マリアは俺の言葉を、固唾をのんで待っている。
「いいか、魔法にはできなくて、この剣に出来ること、それは……。」
「「それは……?」」
マリアとルーナの声が重なり、あたりに緊張が走る。
「敵の意表を突けることだ」
俺がそう口にしたとたん、あたりは静寂に包まれた。
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