第21話 4人の子供たち
カトレアが去って、入れ替わるように、母のフリーダがバルコニーに入ってきた。
「フィン。そろそろあの人がやってきますよ。一緒にお出迎えしましょうか」
「はい。お母様」
俺はフリーダに続いてバルコニーを出る。
「フィンゼル様。私は、これから準備のお手伝いがありますので、ここで失礼させていただきます」
「ああ。分かった」
マリアと別れの挨拶をする。
しかし、自分の結婚した相手をあの人呼ばわりとか、本当に仲が悪いんだろうなぁ。
そう思いながらフリーダと一緒に玄関ホールに向かった。
玄関ホールに着くと入口の右側に執事、左側にメイドがずらりと整列している。
そこに違和感を覚えた。この城にこんな使用人達いたか?
ベルフィア城にはもう7年生活しているが、見たこともない使用人が結構いる。
というか、整列している使用人全員見たことがなかった。
違和感はまだ続く。この使用人たちはこちらに気付いているはずなのに、一向に挨拶をしてこなかった。
いつもであれば、『フィンゼル様!おはようございます!本日も素敵ですね!』とか『フィンゼル様!こんにちは!今日もカッコイイですね!』と挨拶してくれるのだが、俺たちが貴族だと知らないはずがないよな?
俺が不思議に思っていると、フリーダに声を掛けられた。
「フィンゼル。これから会う相手を良く見ておくのですよ。あなたが倒さなければならない相手です」
家督争いのことだろうな。俺としては、母親は違うが、血は繋がっている兄弟だ。あまり争いはしたくないところだが……。
そんなことを思っていると、玄関ホールの扉が開かれた。
「おかえりなさいませ。旦那様」
整列している一番偉そうな執事が代表して挨拶をする。他の使用人はその声に合わせて一斉に頭を下げる。
負け戦からの帰還だから、あまり派手にできないのかな?
「ああ、広間の準備はできているか?」
扉から長い髪を束ね高貴そうな赤い服に身を包んだ、ザ・貴族といった感じの男が現れ、そのあとを続くように、一人の女性と4人の子供、あと幾人かの騎士っぽい人たちが入ってきた。
あの先頭にいるのが俺の父親か。目の色は俺と同じで青。しかしその他の顔のパーツは俺と似ているとは思わなかった。やはり俺の顔はフリーダ似のようだ。
「はい。広間ではお食事の準備が出来ております。すぐに移動されますか」
「ああ。それとギュンターを呼べ。奴に聞きたい事がある」
「畏まりました」
話終えると、広間に向かうため、オリバーはこちらに向かってくる。
「あなた、お帰りなさい。この子が手紙に書いた生まれた子。フィンゼルです」
フリーダがまだ歩いているオリバーに俺を紹介し始める。
オリバーは、一瞬俺を一瞥するとそのまま歩きだしてしまった。母フリーダに声を掛けることもなく。
いくら何でも冷たすぎる。俺の事は家督争いをややこしくした事で恨みもあるだろうが、フリーダはお前の正妻だぞ。一言でも声を掛けてやるのが筋だろ。
オリバーに続き、騎士たちと、オリバーの側室であろうその女性は勝ち誇ったような笑みを浮かべ、通り過ぎていく。
「やぁ、君がフィンゼル君かい?」
少年に話しかけられた。少年の後ろには2人の少女と1人の少年が立っている。 彼らが側室の子供だろう。皆、金髪に青い瞳を持っていた。
ここで、俺は敬語で対応するかどうか悩んだ。相手は年上だが俺の方が正妻の子なので、立場は上のはず。
別にいいか。
「ああ。 俺がフィンゼル・ライ・ベルフィアだ。そういう君は、レイモンドだね」
事前にフリーダから側室の子供の事は聞いていたので、名前と顔は合致する。
目の前にいる爽やか系男子が長男レイモンド。後ろにいるメガネの男子が次男のヘンリー。金髪のロングヘア―に赤いカチューシャをしているのが、長女のアリスで、ボブカットに頭にでかいリボンをしているのが次女のステラだ。
「そうだよ。僕がレイモンド・ラブル・ベルフィア。よろしく」
そう言って、右手を差しだし握手を求めてくるレイモンド。
俺はそれに答え握手を交わし、レイモンドは立ち去るすれ違いざま―――
「君にライの名は相応しくない。それは僕の物だ」
こんなことを言い広間に向かっていった。
まぁ、無理もない。俺とレイモンドは家督争いのライバル。ちょっと喧嘩腰の方が此方もやりやすい。
ミドルネームのライは本来ベルフィアの当主と正妻、正妻の子しか引き継げない。
今は暫定で俺が引き継いでいるが、相続権を失えばライはもう名乗れなくなってしまうのだ。相続権を失った純潔の貴族は、
俺は次男であろうヘンリーに声を掛けたが無視。次女のステラにはあっかんべーをされ走って逃げられた。淑やかさの欠片もないな。マリアを見習ってもらいたい。
唯一まともに対応してくれたのが、長女のアリスだけだ。
「ごめんね。同じ血を分けた兄弟なのに。みんなには後で言っておくから」
なかなか、出来たお姉さんのようだ。 前世で兄弟は弟だけだったからな。お淑やかな年上というのは若干マリアと被るところがあるが、それでもお節介焼きの姉は前世での憧れだった。
「いや、いいんだよ。仕方がない部分もあるしね」
「ありがと。本当に兄弟同士で争うなんて無意味なことよ」
アリスは心から悲しそうな顔をしている。
「そんな顔をしないで。可愛い顔が台無しだよ?」
「え?」
おおっと。口説きに行くにはまだ早かったか。最近は、マリアやメイド達で練習してはいるのだが、なかなか距離感がつかめない。前世でガツガツナンパしていたあいつの度胸を見習いたい。
俺は咳払いして誤魔化すと
「ともかく、君とだけでもいい関係を築いていきたいんだけど、どうかな?」
「ええもちろん! ただ、年下なのに君だなんて生意気ね。アリスお姉ちゃんって
呼んでもいいわよ」
「お姉ちゃんは恥ずかしいから、姉様とか姉上に……」
「駄目よ。お姉ちゃんって呼んでね!」
お淑やか系と思ったら意外と元気系な性格だな。
「分かったよ。お姉ちゃん」
「やった! ヘンリーはいくら言ってもお姉ちゃんって呼んでくれないから」
ヘンリーの代わりにしたかっただけかよ……。
「私はフィンゼル君のこと、なんて呼べばいいかな?」
「なんでもいいよ。フィンゼルでもなんでも」
「じゃあフィン君って呼ぶね!これからよろしく!」
俺の手を取りほほ笑むアリス。可愛い…。マリアとはまた違った良さがあるな。
「フィンゼル。お話は済んだかしら?そろそろ広間に行くわよ」
フリーダは俺とアリスの会話が済むのを待っていてくれたようだ。
「分かりました。お母様」
「アリスちゃんも一緒に行きましょ?」
「はい! このお城に来たのは初めてなので、案内お願いします!」
「もちろんよ。アリスちゃんは、ミリーシャ達と違って、私たちと普通に話してくれるのね」
「ははは、お母様や周りの使用人たちのヘストロア嫌いは昔から疑問を持っていたので……」
から笑いで答えるアリス。
母親だけでなく使用人も……か。
よくそんな環境で育って俺たちと真っ当に話してくれるな。
俺たちは玄関ホールを後にし、広間に向かった。
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