第22話 荒れるオリバー

 広間には大きなワインレッドの絨毯が敷かれており。奥の一段高くなった場所に玉座がある。そこに父オリバーが座っており、後ろにはベルフィアの騎士たちが控えていた。左右にはベルフィアの家紋である獅子が描いている大きい旗がつるされている。


 広間の左側に先ほど玄関ホールで整列していた使用人たちと、ミリーシャ達家族が。右側に俺やフリーダ、ベルフィア城で働いているマリア達使用人が並んでいる。


 なるほど、先の玄関ホールで並んでいた使用人たちはこの城で働いている者たちではなく、アリスの言っていた、反ヘストロア派の使用人たちであろう。


「ベルフィアの使用人同士でも対立しているなんて、争いごとが好きなんですね貴族は」


 俺は隣にいる母に愚痴るように呟いた。


「フィンは何か勘違いをしているようね。ベルフィアの使用人同士で対立なんて起こっていないわよ」

「え? 事実俺たちヘストロア派と反ヘストロア派で分かれているのでは?」

「いいえ。ここにいる使用人たちは全てヘストロアから連れてきた者たちだもの。ベルフィアの使用人で私たちの味方はいないわ」


 なんと新事実。このベルフィアで働いていた使用人は全てヘストロアの使用人だったのか。


「ん? 待ってください。そうすると、もともとベルフィア城で働いていたであろう、ベルフィアの使用人は 今どこで働いているんですか?」

「それは、リーシャ市のリーシャ城で働いているんじゃないかしら? そこらへんは分からないけど」


 まさか、フリーダに使えるのが嫌で出ていったのか。 そのせいでベルフィア城をヘストロアに占拠されてしまったんだから、心穏やかじゃないだろうな。


 というか、よく結婚出来たなこの二人……


 フリーダと話していると、反ヘストロア派の使用人が一歩前に出て、膝をつき、挨拶を始める。


「まずは、閣下この度はよくぞご無事で、ご帰還されました。私たち使用人一同、心より感謝申し上げます」

「感謝……だと? それは遠征に失敗した私に対する嫌味か?」

「い……いえ、そんな、滅相もございません!」

「帝国領を奪った後、自分たちが使うと思って城を落とさなかったことが仇になったと! これでは帝国に打撃すら与えられず、ただいたずらに兵と金を無駄にしただけだと! スカリアの森までで辞めてればいいものを、欲張って帝都まで侵攻するからと! 貴様はそう言いたいのか!」

「い……いえ、そんなつもりで言ったわけでは……」


 使用人の言葉を聞けば嫌味などないことは明らかなのに疑うオリバー。

 どうやら遠征失敗の影響で、大分イラついているところで、使用人の言葉が地雷を踏んでしまったようだ


 というか、自分で失敗の理由は分かっているんだな。


「おい! ゲオルグ! 私は言ったよな!? エルフを攫って売り飛ばせば金の補填になると! だが貴様は反対したなよな? 今から責任もってエルフを攫って金にして来い!」


 オリバーの怒りは後ろの髭もじゃもじゃの騎士にまで飛び火する。


 初めの印象は俺の脳内イメージ通りの貴族って感じだったが、訂正しなければいけないな。

 こいつは貴族ではなく、蛮族だ。評価も決まりでいいだろう。最低の父親だ。


「しかし、エルフはスカリアの森で暮らしてはいますが、帝国の民というわけではありません! それどころか帝国は侵略の対象として見ています。それにベルフィアの領法では帝国の民以外は奴隷にすることを禁じられています。エルフと手を結び帝国を打倒する道ならばいざ知らず、エルフを捕らえ奴隷にするなど……」


 俺はゲオルグという騎士の考えに俺は全面的に賛成だ。

 別にエルフと組めば帝国を倒せるなんて考えていないが、エルフやドワーフ、獣人などといった亜人種の国は、人間の国に滅ぼされている為、その数を大幅に減らしている。特にエルフは長寿であり、もともと繁殖力も高くない。そのため、今ではもっぱら絶滅危惧種である。

 そんなエルフを金の為に奴隷にするなど人間の、それも貴族の考えることではない。


「またお前は私の決定に反抗するのか? いいか? もう一度言うぞ? エルフを捕らえ売り飛ばし、金を補填しろ。今すぐだ。いいな?」


 オリバーの目にはこれ以上の反抗は許さんといった意志が感じ取れた。


「……はっ! 畏まりました」


 ゲオルグは数人の部下を引き連れ、広間から出てく。

 しかし、こんな理不尽な命令をされているのによく耐えているな。これが騎士道精神というものか?


「それはそうと、もう一人私に楯突いた者がいるな」


 広間が誰だ誰だと、ざわざわし始めた。

 こんな領主だ。誰であろうと反抗したくもなる。


「名乗りでないか? じゃあ教えてやろう。ギュンターお前の事だよ」


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