第20話 魔女カトレア

「お待ちくださいカトレア殿」


 バルコニーを出たところでカトレアはギュンターに呼び止められる。


「さっきのお言葉は坊ちゃまを怖がらせすぎでは?もっと言い方があったように思えますが」

「あら、いたの?ギュンターくん。入ってきて話に加わればよかったのに」


 カトレアはクスクス笑いながら話す。


(本当に分からないお方だ)


 ギュンターが王国騎士団に入隊したのが20の時。カトレアはその時から王国魔導団の筆頭の立場にいた。何度か戦場を一緒に戦ったこともある。その戦いぶりは凄まじく、多彩な魔法を駆使して相手を屠るその姿は、まさに悪魔……いや、美貌を加味して評価するなら天使といった方が正しいか。


 ともかく、そんな激しい戦闘をする彼女は、滅殺の魔女の異名を取り、その戦いぶりと美貌で異性同棲関係なく様々人々を魅了した。


 時には貴族からもアプローチがあったようだが、カトレアに浮かれた話など一切なく、結婚しているといった事もない。


 ギュンターは30歳の王国騎士団を退役し、大恩あるヘストロア家の騎士に仕官した。

 そしてそれから5年後、ヘストロア当主であるアレクの命で、フリーダの護衛兼、その子である、フィンゼルの教育係としてベルフィアにやってきた。


 初めは、魔法の教育は、サディーが務める予定であったが、フィンゼルの他とは違う体質は、サディーの手には負えなく、他の教師を雇うことになった。


 ちょうどそのタイミングで、カトレアが魔導隊を解雇されたと情報が入って来た。

 原因はいつまでたっても老いないカトレアを、現国王が不気味がったことだそうだが、ギュンターはダメもとでフィンゼルの家庭教師をお願いしたところ、まさかのオッケー。


 ギュンターは初めなぜ了解してくれたのかが分からなかった。

 いくら辺境伯家とはいえ、ただの家庭教師である。カトレアほどの魔法使いならば、いくらでも他に道はあったはずと。


 最近は、カトレアのフィンゼルへの接し方に性的な疑惑も持ち上がっており、ギュンターはフィンゼル目的で家庭教師になったんではないかと疑っていたが、さっきの会話からはその気配は感じられなかった。手は撫でていたが……。


「カトレア殿、茶化さないでいただきたい。坊ちゃまにあまりご負担を掛けたくはありません。これからはあまり勝手なことしないで戴きたい」

「そうね。でも、フィンゼル様はあのくらいでは負担になんかなりもしませんよ。 ギュンターくんが思っている以上にフィンゼル様はとんでもない力を持っていますので」


 そう言って立ち去ろうとするカトレアをさらにギュンターが呼び止める。


「待っていただきたい! この際ですから、聞いておきたいことがあります」

「なにかしら?」

「あなたが王宮を出された理由です。あなたの正体は何なのですか? 私の知る限りでは老化を止める魔法など聞いたこともありません。国王陛下はあなたの事を悪魔と呼んでいらっしゃいましたね? 本当なのですか?」


 ギュンターは額に汗をかきながら問いかける。


「ふふふ。さぁて、どうでしょう?ただ一つ言えることは、わたくしが人間だろうが悪魔だろうが、フィンゼル様のお味方ということですわ。例え決闘で敗れてベルフィア家を継げなくても、フィンゼル様のお傍にいることこそが、今のわたくしの使命なのですから」


 そう言って、カトレアは城の廊下を歩いて行った。


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