第3話 魔法教育
あれから3年が過ぎ、俺は4歳になった。
文字の読み書きは意外と簡単にマスターできた。
漢字とかないしな。文法も英語と似たような感じだったし。
しかし、俺は今、別の壁にぶち当たっている。
「いいですか、坊ちゃま! 魔法とはシステムなのです! いくら膨大な魔力を持っていようと、制御できなければ宝の持ち腐れ!さぁ、もう一度!」
「えー……もう無理だよ。疲れたよ、サディー」
俺は今、城にある訓練所で鬼のような魔法教育をされていた。俺の泣き言に、般若のごとく叱ってくるメイド長ことサディー。
魔法とは俺が考えていたゲームや漫画のようなものではなかった。これはもっと別の……そう、数学や化学、物理と言った方が正しいかもしれない。
この世界にきて頑張ろうと思った勉強……俺の意思は早くも挫けそうだった。
「さぁ、坊ちゃま。炎魔法の中でも比較的簡単な
サディーは魔法の発動について俺に教えてくれる。魔法を発動するには、まず魔法制御陣、略して魔法陣を頭に思い描く必要がある。思い描いた魔法陣に、発動したい魔法の情報を記入するように思い描いていく。出来上がったら、描いた魔法陣を実際に具現化させ、その魔法陣に魔力を流すと描いた通りに魔法が発動される……そんな流れだ。
「でもサディー。こんなめんどくさい魔法陣なんか使わなくても魔法の発動できるよ?実際口から火出せたし」
「坊ちゃま。それは魔法を発動しているのではなく、魔力が暴走しているだけです。魔法制御陣なしで魔力を使おうとすると、すぐに暴走してしまいます。特に坊ちゃまはただでさえ魔力が膨大なのです。暴走したら最悪は死に至ってしまう可能性もあります」
俺はサディーの言葉に顔をしかめる。俺もまだ死にたくない。というかこの世界では生まれたばかりだ。
しょうがない……やるしかないか。
俺は頭の中に魔法陣を思い浮かべる。そこに発動する魔法の情報、今回は
飛距離は10メートル、軌道は直線、大きさはサッカーボールくらいか?温度は……適当に1000度でいいか。
情報を思い描いたところで魔法陣を空間に具現化させようとするが、やはり上手くいかず、魔力を流す前に魔法陣は形を崩してしまう。
「坊ちゃま……まじめにやっていますか?」
「やってるよ!」
失敬な……しかしどういうことだ?魔法陣の発動自体はできている……はず。それを具現化しようとすると、途端に上手くいかなくなる。そもそもこれを全部頭の中でやろうとするのが間違っていると思う。
「あのさ、サディー。これ紙とペンを使って魔法発動とかできないの?」
いくら
「確かに魔法が使われ始めたデモス歴以前では、そんな使われ方もしましたが、基本的に魔法とは戦闘で使う戦うために編み出された技です。戦場に紙やペンなど邪魔なだけ。地面に情報を書いて発動するといったやり方もありますが、それも敵に隙を見せることになります。それに今時紙とペンを使うなどと……他の貴族に笑われてしまいます。貴族とは気高く、そして強い存在でなければなりません。他人に侮られる行為は慎むべきかと」
なるほど……この城で貴族は俺と母フリーダしかいないから実感しにくいが、貴族のあり方も前世の貴族と同じ感覚なのかもしれない。
そうなると確かにこれを習得しないといけないと思ってしまう。他の貴族と会った時、こんなことも出来ないの~?とか煽られたら自信を無くしてしまう。人生を謳歌する、心の余裕を確保するためにも頑張るべきだ。
「そうだな。分かったよ。その前にもう一回お手本見せてよ」
「畏まりました」
俺の要望に快くうなずいてくれたサディーはさっそく赤い魔法陣を展開する。
「魔法とは、属性を付与し、魔力で強化します。これをまず頭に入れて、魔法陣を展開、発動まで5秒以内で行うことが理想とされます。それ以上は周りから見ても見苦しく見えてしまうので注意してください」
なるほど。貴族とはどこまでも他人の評価を気にする生き物なんだな。
サディーは展開した魔法陣に魔力を送り込むと、その魔法陣からサッカーボールほどの大きさの火球が勢いよく発射されて、部屋に合った的が焼け落ちる。
「さ、坊ちゃま、もう一度です」
俺はサディーに言われてもう一度魔法陣を思い描いてみるが……やはりだめだった。
この魔法陣に魔法の情報を入力していく感じ、とてつもなく労力が必要だ。例えるなら三桁の足し算を暗算でずっと計算していく感じ。頭が柔らかい人間ならともかく、俺みたいな一般人は、出来なくはないにしても、やり続けるとストレスが溜まってくる。
「なぜなのかしら……。魔法陣を用いるテーゼ式魔法手法は誰でもできるやり方のはず。坊ちゃまに悪いところは見当たらないのに……」
サディーは俺を見ながら何やら考えているみたいだ。俺を見る目は、出来の悪い子供を見る落胆の目……ではなく、本当に悩んでいる様子だった。
サディーが考えている間、俺も考えよう。
整理すると、この魔法陣を使う意味は、魔法陣を使わないと魔法が暴走するから。俺は試しに自分の中の魔力を感じてみる。生まれたばかりの頃はこの力も制御できずにいたが、今では自分の意思でしっかりコントロールすることが出来る為、魔力が漏れ出て口から火を吐くなんてこともない。
なんとなく体の中にある魔力を手の平に集中させてみる。手の平を前に突き出してさらに魔力をコントールする。俺の中にある魔力は従順で、扱い方はなんとなく理解できた。暴走しない……それは感覚で分かる。
「
俺は集めた魔力を炎に変換させ、一気に放出する。
するとサディーが出した物と同じ大きさの火球が放たれ、的を直撃した―――がその瞬間爆発のような大きな音と共に、的どころか壁をも粉砕して訓練所に風穴が空いてしまった。
あ、やっべ……。
俺はほんの少し魔力を放出したつもりだったが、思いのほか威力が出すぎてしまった。これが魔力の暴走と言うものだろうか?
俺は恐る恐るサディーの方に顔を向ける。
「坊ちゃま……今のは?」
「え……? いやぁ、ははっ。ほんの少し魔力を練ったつもりだったんだけど……。ごめんなさい」
俺は引きつった笑顔を浮かべながら謝る。サディーの表情は怒っているというより何が起こったのか理解できていない様子だった。
「坊ちゃま、今のは魔法陣なしで行ったのですか?」
「うん。そうだと思う。いや、言い訳するつもりはないんだけど、なんか感覚でできそうだったから……」
俺が壁を吹き飛ばして数十秒後、ドタドタと何人もの足音が此方に近づいてきた。
「坊ちゃま! サディー殿! ご無事ですか!」
ギュンターと他数人の兵士が慌ただしく訓練所の扉を開いて中に入ってくる。
「大丈夫です。敵の襲撃とかではありませんから。しかし、問題を抱えている事は事実ですね」
サディーは風穴が空いた場所を見ながら呟いた。
「これは……私の手には負えないかもしれませんね」
その言葉と共に、今日の魔法授業は終了した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます