スキル「ぐちゃぐちゃ」で成り上がる。

白鷺雨月

第1話スキル「ぐちゃぐちゃ」で成り上がる。

「キマイラ、おまえを誇りある勇者パーティーから追放する」

黒髪の勇者アベルが俺に言った。

「この勇者の仲間にはおまえのような醜い役立たずは必要ない。すぐに立ち去るかそれがいやなら我が神剣バラゾスの試し切りにしてやろう」

勇者アベルは殺気のこもった瞳で俺を見る。

重戦士カーネル、聖女スズナ、魔女のリンネらもまるでゴミでも見るような瞳を俺に向けている。


確かに美しく強い彼らに比べれば俺はみにくいかもしれない。それに唯一もっているスキルも「ぐちゃぐちゃ」というどうやって使っていいかわからないものだ。


それでも雑用係りとして長く彼らと旅を続けていたというのに。なかでも魔女のリンネは同じ村の出身で幼なじみなのに、その彼女ですら俺を冷たい目で見ている。


この場にいられなくなった俺は勇者パーティーから去ることにした。それにこのままここにいたら勇者アベルに殺されてしまうかもしれない。


俺は一人で王都を歩く。頼るものもなく、行くあてもなく俺は一人で歩く。


気がつけば俺は王都の外れにある墓地にきていた。ここには墓地を整理するための道具をいれておくための小屋がある。

今日はここに泊まるか。それにしてもお腹がすいたな。無一文なので食べ物も買えない。

近くにあるぼろ布をまとい、眠りについた。明日になってもいいことなんてないが、とにかく眠ることにした。


夜になり、ふと目を覚ますと俺はなんと幽霊たちに囲まれていた。

「ぼうず、しけた面をしているな」

ひげ面の幽霊が言う。

「まあこの子かわいいわね」

三角帽子のセクシーな女幽霊が言う。

「ほっほっほっ。こやつは追放されたらしいぞ」

半月眼鏡の老人の幽霊が言う。


ああ、どうやら俺もこいつらの仲間いりか。

不思議と幽霊たちに囲まれても怖くなかった。


「ほう、我らを見ても恐れぬか」

ぎろりとひげ面の大男の幽霊が言う。

「まあこの子のスキル珍しいわ」

うふふっと魔女の幽霊は妖しく笑う。

「ほうぐちゃぐちゃのスキルではないか。スキルをぐちゃぐちゃにして新しいものにできるスキル。たしかにこれは面白い」

ふむふむと老人の幽霊は頷く。


三人の幽霊はなにやら話し合っている。

しばらくして三人の幽霊は俺をじっとみつめる。


「ぼうず、おまえに力をやろう」

「あたしの魔力をあげるわね」

「わしの知識をやろう」

そう言うと三人の幽霊は俺の体に流れこんできた。

そこで俺は気絶した。



俺はどうやら三人の幽霊からそれぞれのスキルを譲られたようだ。それらがぐちゃぐちゃに混ざり、三つのスキルになる。

すなわち「ベルセルクの剣技」「爆炎の魔女」「神軍師の策略」であった。


朝になり俺は小屋を出る。

頭がすっきりして体に力がみなぎる。

そうするとどうだろうか、遠くで女の悲鳴が聞こえる。

俺はその悲鳴のところにかけていく。

ベルセルクの力だろうか体が軽く、すぐにたどりついた。

悲鳴は馬車からだ。

どうやら盗賊に囲まれていた。

魔女の力で盗賊の一団を焼きつくす。

助けたのは公爵令嬢のリーゼロッテだった。

「危ないところを助けていただきありがとうございます」

金髪のとても美しい少女はそう言った。


俺はこの後リーゼロッテの親衛隊長に任命された。

公爵家をついだリーゼロッテと共に俺は王国に反乱を起こした勇者アベルと戦うことになった。

魔王を倒した勇者アベルはその功績におごり、自分が王になろうとしたのだ。

俺は「神軍師の策略」を使い勇者率いる反乱軍を罠にはめまくり、壊滅においこんだ。


あの勇者アベルと魔女のリンネが囚われて、ひざをついている。重戦士カーネルと聖女リンネはすでに戦死していた。


「キマイラ、もとは仲間だろう、見逃してくれよ」

勇者なのにアベルは情けないことを言う。

「ねえ私たち幼なじみでしょう。あなたのためならなんだってするわ」

かつて好きだったリンネは命乞いをする。ならあの時ひきとめていてくれたなら。


アベルは公開処刑され、リンネは国外追放にした。

リーゼロッテは王国の摂政になり、俺は王国騎士団長に任命された。

そして俺はリーゼロッテと結婚し、何度も国を救う戦いに参加して、そのすべてに勝利した。

大英雄キマイラと俺は大陸の人々から敬意をこめてそう呼ばれるようになった。


終わり

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スキル「ぐちゃぐちゃ」で成り上がる。 白鷺雨月 @sirasagiugethu

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