エントロピーに逆らえない哀れな種族

令和の凡夫

エントロピーに逆らえない哀れな種族

 小さなコロニーにまん丸星人がいました。


 リアム、オリビア、エマ、ノアは仲良し4人組。

 まん丸コロニーの中で、4人はいつも一緒に暮らしていました。


 あるとき、リアムが言いました。


「いつも思っていたんだけど、このコロニーって小さくない?」


 それに一番に反応したのはオリビアでした。


「実は私もそう思っていたの」


 その会話にエマがハッとして言いました。


「もし子供ができたら、誰かがコロニーから押し出されちゃうわ」


 彼らまん丸星人はコロニーに隙間なく綺麗に並んで住んでいました。

 だから、もし一人でも増えたら誰かがコロニーからはみ出てしまいます。


「じゃあさ、新しいコロニーに引っ越さない? もっと大きいコロニーに」


 ノアがそう提案すると、他のみんなも賛成しました。

 彼ら4人の呼びかけで、まん丸星人はみんなで新しいコロニーへと移住することになりました。



 新しいコロニーはすんなり見つかりました。

 まん丸星人たちの移住もあっという間に終わりました。


「ここは広くて快適だね」


「うん。最高ね!」


 リアムとオリビアは喜び合いました。


 それを見ていたエマは、ふとあることに気づきました。


「あれ? 私たち、離れていってない?」


 実際、彼らは少しずつ距離が開き始めていました。


 踏みとどまろうにも、まん丸星人には足がありません。

 離れる仲間を引き留めようにも、まん丸星人には手がありません。


 彼らはまん丸星人。完全にまん丸な種族なのです。


「しまった! いままではコロニーに隙間がなかったから一緒にいられたんだ。隙間ができてしまったら、僕たちまん丸星人は体が勝手に動いて一緒にいられなくなってしまう。忘れていた。みんな、ごめんよ!」


 こうして彼らは新しいコロニーの中で散り散りのぐちゃぐちゃになったのでした。




『これをエントロピー増大の法則と言います』


『ねえ、あなた。英才教育するにしても、5歳児にエントロピーは早すぎるわ』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

エントロピーに逆らえない哀れな種族 令和の凡夫 @ReiwaNoBonpu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ