第38話 楽しいお買い物

アカネはとある用紙を俺に渡して来た。


それは大きな屋敷の物件情報だった。

4人が俺を囲むかたちでそれを見る。


「いいですねこれ!」


「私の家より小さいけどいいと思うにゃ!」


「私も賛成です。」


「ふええ・・・でも値段が・・・」


金貨400000枚と書いていた。

金貨1枚が1万円ほどなので屋敷の値段はおよそ40億だ。

普通の高校生ぐらいの少年には金貨1枚でさえ大金である。


アカネは俺をまじまじと見て、笑いながら呟く。


「国家予算規模の資金力を持つ貴方なら、痛くも痒くもないと思うのだけれど。」


「まぁな」


金貨40万枚は先ほどアカネが倒したモンスターから得たお金で工面できる。

それを見越してナノエクスプロージョンを発動したのであろう。


4人は目を輝かせて俺の方を見る。

女の子をお金で釣るのはあまり好きではない。


「コウさん、お金持ちだったんですか・・・なら責任を!」


「それでこそ私の夫にゃ!」


「これで、お薬いっぱい・・・ますますコウさんが欲しいです!」


「ふええ・・・すごいね。コウ君」


「ありがとな・・・まぁ転生者だから」


俺は紙をまじまじと見て見る。

敷地面積は広く、敷地内に湖、森林、ダンジョン有りと記載している。


ダンジョンがあるということはモンスターが近くに沸くから、売りに出された屋敷ってことじゃ・・・


寝泊まりしている家にダンジョンの入り口があるような・・・昔やってたゲームじゃあるまいし・・・。

まさかな・・・。


そして屋敷の住所を見る。


「おいここって。」


「えぇ、いつも貴方とナシェさんがラブラブで登校している通学路の途中にある屋敷よ。」


「普通に通学路って言えばいいだろ・・・」

確かに、貴族が住んでいそうな屋敷があるのは知っていたが、中に人が居るのを見た事がなかった。

あの辺りは田園風景が広がっているので屋敷の膨大な敷地面積の理由も容易に想像できた。


ナシェが照れる。

「ラブラブって・・・」


ナシェ以外の3人が強気に呟く。

「そうだったんですか!?でもこれからナシェさんに抜け駆けさせませんよ!」


「ずるいにゃ!」


「私も負けません!」


俺はその様子に呆れるも購入手続きを進める。


「それじゃぁアカネ、購入手続き頼めるか」


「えぇタブレット端末から貴方の持ち物にアクセス出来るから問題ないわ。」


「金貨40万枚は手渡しじゃないよな?」


「まさか・・・口座振込ぐらいこの世界にあるわ。」


「なるほどな」


その後実家に帰ると両親に詰められた。


「コウ!これはどういうことだ!?」

父親が屋敷のチラシを見せてくる。


「えーっと・・・」


俺がおどおどしていると母親が詰め寄ってくる。

「ナシェちゃんの両親から聞いたわよ。あなたこのお屋敷を買ったそうじゃない。お金はどうしたの!」


幼馴染はやっぱりドジっ子なのか・・・。

俺はうまくごまかす。


「えーっと、アカネって子に買ってもらったんだよ・・・・」


「あら?アカネって言う子は学園の生徒会長さんかしら?」


「うん。一緒に住もうって言われた。」


母親が驚いた様子で口元に手を当てる。

「まぁ、名門のお嬢様と恋人になるなんてやるじゃない!この子。」

あのアカネが・・・名門のお嬢様!?????


「パパはコウならやると信じていたぞー。」


「ありがとう、パパ、ママ。もう眠いから寝るね。」


「そうだな!」


「コウちゃん、今度その屋敷に行ってもいいかしら?」

まずい展開になってきた・・・。


「アカネちゃんは忙しいからダメだよ!」


「あらあら、そうだったのね。ごめんなさい。」


とまあ、こんな感じで異世界でクライアントを説得する技術が役に立ったのだ。

・・・


次の日、アルドリア学園の教室でナシェに釘を差していた。

「って言うことがあったから、ナシェ気をつけてくれ・・・。」


「ふえぇ。ご、ごめんコウ君・・・」


その話を近くで聞いていたリンが呟く。

「私も嬉しくてつい話してしまいました・・・ごめんなさい。」

お前もか・・・・。


「にゃ?私は領主だから関係ないにゃ。」


「もうお前の家で同棲で良いんじゃ・・・・。」


「ならコウと私は一緒の部屋にゃ!」


ナシェとリンは呟く。

「ダメです!」


次の日、アカネから購入完了の知らせが届き、学園の休みを利用して屋敷を見に行った。

アカネを除く4人の少女と俺で購入した屋敷の入り口まで来ていた。

入り口の黒い鋼鉄製のフェンスからは屋敷奥の様子が伺える。


屋敷へと続く道は石煉瓦で舗装されており途中に大きな庭と立派な噴水が見えている。

如何にも貴族が住んでいそうな屋敷であった。


「ここが」

「すごいですね」

「すごいにゃ!」

「大きいね。」


門を左右から囲む石柱に見慣れた端末が設置されていた。

俺はタブレット端末を取り出し、呟く。


「知己、あれは?」


「あれはアカネ様によって取り付けられたインターホンになります。」


「もしかして・・・」


「はい、すでに屋敷の大半がアカネ様により改造されております。」


「はぁ・・・、あの元嫁ならやりかねない。」


屋敷に入ると、まず目に入ったのはレッドカーペットが敷かれたエントランスだった。

各所に照明が設置され天井には宝石をあしらった大きなシャンデリアが吊るされていた。


一歩踏み入るとわかる大理石による重厚感のある床にカーペットによる安定した感触が足裏に返ってきた。

明らかに一般的な民家とは違う貴族らしさというを徐々に身を持って感じることが出来た。


「すごいな・・・こういうの見ると落ちて来そうだけど」


「ですね。」


屋敷は外から見ただけでもかなりの大きさだったので手分けして見て回ることにした。

「広そうだからとりあえずみんなで屋敷を別々に回って見ないか?」


「はい!」

「そうしましょう。」

「にゃ!」

「うん!」


俺は屋敷の2階の東側を周る。

近くからは屋敷の物件情報にあった森林が見える。


「後であそこも探索して見るか・・・」


そして近くに部屋の扉があったので開けて見る。


「お、ここは寝室か・・・」


如何にも眠り心地が良さそうなキングベッドがそこにはあった。

これは試すしかないと思い俺はベッドに寝転ぶ。


「どれ・・・楽しいな。」


ベッドは程よい反発感を保ちながら全身を包み込んでくる。


「これはいい・・な・・・」


あれから寝てしまったようだ。そして暖かい。

この感覚があるってことは嫌な予感しかしなかった。

にしてもこのベッド良い手触りである。


「モフモフだな・・・モフモフ!?」


まさかと思い、俺はゆっくりと目を開ける。

サバトラの毛並みに綺麗な瞳の獣人が現れる。

「ロモか・・・」


ロモは少し赤くなって居た。

「にゃ・・・」


ロモは俺に抱きつくようにベッドに寝ていた。

「やっぱり、毛並みがくすぐったいんだよな・・・」


振り解こうとするがロモが凄い力で抵抗する。

「お、おいエロ猫離せ・・・」


「いーやにゃ!」


「テウリアで出会った時はマトモだったのにどうしたんだよ。」


「責任にゃ、それにもっと甘えたいにゃ」


ロモは俺の胸元に顔をこすりつけてくる。


「はぁ・・・てか屋敷探索はどうしたんだ?」


「探索の途中でコウがベッドで寝てたから一緒に寝たにゃ。」


「理由になってないぞ・・・」


「しばらくこのままで居たいにゃ。」


「今回だけだぞ。」


その言葉の後に俺とロモは眠りへと誘われた。

「無理にゃ・・・・」

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