第13話 乱入者

「こちらには入れません!」


「いいから、通せよ!」


「ダメです!」


さっきの警備員の声と、もう一人はわからないけれど令息の声のようだ。

ウィルと顔を見合わせ廊下へと向かう。何があったんだろう。


教室のドアから顔を出すと、数人が警備員に止められているのが見えた。

ここが高位貴族の教室だと知らないで押しかけて来たのだろうか。

ここは学園長からの許可が無いものは入ることができないことになっている。

警備員に止められるのは当然なのに、無理やり来ようとして揉めているらしい。


放課後で人が少ないせいか、警備員はひとりしかいなかったようで、

令息たちを止めれずにここまで来させてしまったらしい。


「ああ!いたぞ!」


「え?」


見知らぬ令息なのに指を差され叫ばれる。

どういうことなのかと思えば、令息たちの後ろにミーナがいた。

もしかして、この人たち私を探してここまで来たの?


「お前に直接文句を言いに来たんだ!出てこい!」


「シルフィーネ様、危ないので教室にお戻りください!」


なんとか押しとどめている警備員が私に言うけれど、

このままでは突破されてしまうだろう。

警備員一人で令息三人を相手にするのはどう考えても無茶だ。

だけど、そうなればこの令息たちだけじゃなく、警備員も処罰を受けることになる。


「ウィル、守ってくれる?」


「ああ、当然だろ。」


「警備員さん、この方たちは私に用があるみたい。

 ここで話を聞くので、立ち会ってもらえる?」


「よろしいのですか?」


「ええ、このままだと帰ってはもらえないと思うので。」


「わかりました。おい、お前たち、この場で話す許可が下りた。

 だが、シルフィーネ様に近づくな。」


渋々といった感じで、令息たちがうなずく。

話をできるのであれば我慢してやるとでも思っているのだろうか。


「それで、用は?」


「あの…私がお願いがあって。」


意外にも前に出てきたのはミーナだった。

今まで私と直接話したりしなかったミーナが出てきたことに少し驚く。


「お願いって?」


「わ、私を公爵家の娘だと認めてください!

 お兄様と会うのを邪魔しないでほしいのです!

 私はただ…お兄様の妹だと認めてもらいたいだけなのにっ…。

 本当の兄妹が仲良くするのって、当たり前のことじゃないですか!?」


涙ながらにそう訴えるミーナに、

周りの令息たちは労わるように肩に手をおいたり、背中に手をあてたりしている。

令嬢ならばすぐさまふしだらだと言われてしまう状況だが、

平民であるミーナは気がつかない。

これで公爵家の娘だと認めて欲しいと言われても…。

ため息をつきそうになるが、冷静にこたえるように気を付けた。


「…私が認めるとか、そういう問題じゃないのよ?」


「ひどい!どうして認めてくれないの!?」


「ひどいって…そうじゃないわ。」


公爵家が認めていない者を私が勝手に認めるわけにはいかないのだけど。

そう説明するよりも先にミーナが泣きだし、後ろにいた令息たちが騒ぎ出した。


「またミーナを泣かせたな!」


「わがまま令嬢はこれだから!どれだけ性悪なんだ!」


「いいかげんにミーナを認めてやれよ!」


頭が痛くなりそうな発言に、令息たちの顔を確認する。

…水の一族の令息はいないようで、少しホッとする。

水の一族でも水属性以外に生まれるものもいないわけではない。

でも、その場合少数なので顔を覚えている。

ここに水の一族の者がいたとなれば、排除されるに決まっている。

他の一族だとしても問題ではあるが、処分するのはバラデール公爵家ではない。


どこから話せばいいかと悩んでいると、隣から低い声が響く。


「…おい、お前ら。馬鹿なのか?」


「はぁ!?」


「お前たちが今、何しているのか理解できているのか?」


「どういうことだよ!」


ふと隣を見たら、ウィルの目が座っているのが見えた。

…うわ。完全に怒ってる。こうなった時のウィルを止められないのはわかっている。


「シルフィーネは公爵家の令嬢だ。

 養女だとしても、正式に王家からも認められている。

 第二王子フレデリク様の婚約者候補でもある。それはわかっているか?」


「だからってミーナをいじめていいことにはならないだろう!」


…そうだろうか。公爵家のものが本気で気に入らないとなれば、

平民の一人や二人、罰しても問題は無いのだけど。

おそらくこれが火の公爵家だとしたら、間違いなくそうしている。

穏やかと言われる水の公爵家だからそうしないと思われているのかもしれない。


「いじめている?違うだろう。そこにいるものは平民だよな?」


「ミーナは公爵家の娘だ!」


「それを誰が証明できる?」


「ミーナが言ってるし、公爵家の娘の証はその女が取り上げたんだろう!?」


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