第12話 ウィル

私と違ってウィルは光属性を発動させてはいなかったが、

このままではウィルを人質に取られてしまう可能性があった。

私を呼び出す材料にされることを懸念され、公爵家で修行をすることになった。


この国で一番の騎士団と言われるバラデール公爵家の騎士団で修行できることは、

子爵家嫡男のウィルにとってこの上ない環境ではあった。

だけど、ウィルも家族と離れ、一人で過ごさなければいけなくなってしまった。


それから五年。会うのは久しぶりだった。


「…何があったの?」


「俺さ、フィーネと同じように母様の世話をしていただろう?

 先に発動したのはフィーネだけど、

 同じ環境にいた俺も弱いながら光属性の修行をしていたような状況だったらしい。

 それが騎士団で修行して強くなって、いつのまにか光属性も強くなっていた。

 団長に呼び出されて、光属性を使ってみろって言われて…

 急に団長が自分の腕を切りつけて…。」


「えええ?」


「もう血は止まらないし、誰も来てくれないしで、必死で。

 何とかしなくちゃって思ってたら、治していたんだ。

 後から団長にどうしてそんなことをしたのか聞いたら、

 俺が毎日傷だらけになるのに、その傷の治りが異常に早かったんだって。

 知らない間に自己修復していたようなんだ。

 だから、一か八かで自分の腕を切りつけたって言うんだけど…ひどいよなぁ。

 こっちは尊敬している団長の腕が!って焦ってたのに。」


「それは…大変だったんだね。」


毎日傷だらけになるまで修行していたなんて知らなかった。

あの時、ボロボロになりながらも大男にくらいついていた姿を思い出す。

そっか…ウィルも光属性を発動させたんだ。


それにしても…公爵家の騎士団の方たちにはお世話になっているが、

団長がそんなことをする性格だとは思っていなかった。

…ウィルの光属性が発動して本当に良かったと思う。


「おかげでいろいろと仕事を増やしてしまって…。

 そのせいで公爵夫妻を足止めすることになってしまって悪かったな。」


「お義父様たちを?」


「あぁ、俺をどうするか団長たちと話し合って、

 公爵家の専属護衛として正式に雇ってもらうことになった。」


「公爵家の専属護衛ってすごいんじゃないの?」


「騎士団の一員だと、軍から寄こせって言われたら断れないらしい。

 名前だけ侯爵家の養子にして、公爵家の家臣にしてしまえば、

 王家から言われても断れるからって。」


「ウィルを軍に…そういうことなのね。」


光属性を持って生まれる者は意外と多いため、金髪はめずらしくない。

ただ、なぜか光属性は下位貴族に産まれることが多いが、

魔力の少ない下位貴族ではほとんどが使えないまま終わる。


その上、魔力の多くを光属性に取られてしまうため、

本来主属性であるはずの四大属性は弱い。

そのために、金髪で生まれたものは能力が劣っていると見られてしまう。


私が公爵令嬢として認めてもらえないのはそれもあるのだと思う。

光属性が発動したことは、公爵夫妻とお義兄様しか知らない。

王家にすら報告していないのだから、私は使えない水属性の令嬢でしかない。


私が公爵家に引き取られた理由は、お義兄様を産んだ後、

流産が続いてしまい、もう子どもを望めなくなったお義母様が、

どうしても娘を欲しがったために養女を取ったということになっている。

跡目争いにならないように令息ではなく、令嬢を。

それも能力の劣っている光属性の私を引き取ることで権力の道具ではなく、

娘を育てたいお義母様のわがままという形になっている。


周りからの目を気にせず、私たちを保護してくれたお義父様たちには感謝しかない。

お義父様からもお義母様からも実の娘のように可愛がってもらっている。


「…その手続きが結構大変で、公爵夫妻が王都に戻るのが遅れたんだ。

 入学してから大変だったんだろう?ごめんな。」


「ううん、お義父様たちから遅くなるって手紙はもらっていたの。

 ウィルのせいじゃないし、大丈夫よ。」


「でも、変な女に絡まれているって聞いた。

 だから俺がここに来たんだ。明日から俺もこの教室で一緒にいるから。」


「え?本当に?」


「ほら、侯爵家の養子になったって言っただろう?

 ブルダン侯爵家の三男になったんだ。

 もちろん名前だけで、公爵家に仕えることになるんだけど。

 それでも侯爵家もいい人たちばかりだった。

 ちゃんと学園に通えって費用を出してくれることになった。」


「じゃあ、一緒に通えるのね!うれしい!」


「ああ、フィーネが喜んでくれて良かったよ。

 また悩みすぎて食事できていないんだろう。

 ちっちゃいころから瘦せっぽっちなくせに、ちゃんと食えよ。」


「…ちゃんと食べるわ。ウィルはずいぶん大きくなったんだね。」


「フィーネが縮んだんじゃないのか?」


「もう!私だって大きくなっているわ。」


一緒に暮らしていた十歳のころは同じくらいの身長だったのに、

今では全然違って頭一つ分くらい差がある。

私だって成長しているのに、こんなに差が出るとは思っていなかった。

身長だけじゃない。体つきも変わっていて、しっかりと筋肉がついている。

この国一番と言われているバラデール公爵騎士団で鍛えられたことが、

ちゃんと身についているのだろう。


二人で笑いあっていると、廊下から大きな声が聞こえてくる。


「こちらには入れません!」


「いいから、通せよ!」

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