第11話 大事な人

放課後は授業が終わると皆すぐに教室から出て行く。

この教室は高位貴族の令息令嬢しかいない。

そのため侍従や侍女が教室まで迎えに来て、時間通りに帰っていく。


決められたとおりに動くのは貴族の基本だ。

馬車には護衛がついて、安全に行き帰りできるように手配されている。

予定外の行動をすれば、侍従や侍女が責められることになる。

エリーヌ様でさえ、侍女が迎えに来れば大人しく帰っていく。


私はいつもお義兄様が迎えに来てくれるため、最後まで残っていることが多い。

お義兄様と一緒に帰る際には馬車に侍従や護衛がついているために問題ない。


ただ、こうして長い間教室に残っていることは初めてで、

いつも廊下に立って警備している学園の警備員が声をかけてきた。


「バラデール公爵令嬢、お迎えは大丈夫でしょうか?」


「大丈夫よ。お義兄様を待っているの。すぐに来ると思うわ。」


「かしこまりました。」


ぺこりと礼をするとまた廊下へと戻っていく。

貴族の教室は同じ校舎にあり、平民は教師たちが使う校舎のはじにあるらしい。

こうして警備されているのは貴族の校舎だけだと聞いたが、

こんな風に話しかけられたのは初めてだった。


ミーナのこともあって誰からも嫌われているのかと思っていたが、

意外と警備員の態度が柔らかいことに驚いた。

それだけしっかりと教育がされているのかもしれない。


ぼんやりと待っていたら、誰かが教室に入ってくるのがわかった。

短めなふわふわな金の髪をゆらしながら入ってきたのを見て、驚いて声を上げた。

会うのは五年ぶりだけど、人懐っこい笑顔は小さいころのままだ。


思わず立ち上がると、ぎゅっと抱きしめられる。


「ウィル!!どうしたの!?」


「久しぶり、フィーネ。」


「ええ?公爵領で騎士団の修行受けているんじゃなかった?」


「いや~ちょっと問題が起きてさぁ。

 俺も公爵家にお世話になることになった。」


「どうして?」


「…俺も力が発動した。」


「…っ!!」


廊下にいる警備員にも聞こえないようにか、ウィルは私の耳元で小声で言った。

ウィルは私の双子の弟だ。

私と一緒で金の髪に水色の目をしている。つまり属性も一緒だ。


私は王都から離れたブレーズ子爵領地で産まれた。

ブレーズ子爵家の長女として、弟のウィル。そして父様と母様と四人で暮らしていた。

母様はもともと身体の弱い人だったが、私たちを双子で産んだことで起き上がれなくなり、

父様はそんな母様を治療するために財産をつぎ込んでしまっていた。


領地の税収を上げるようなことはせず、子爵家が持つ個人財産を使い治療していたため、

子爵家は貴族とは思えないほど貧乏な生活だった。

それでも母様が治ってくれるならと私もウィルも文句はなかった。


使用人も最低限度しか雇えず、貴族というのも形ばかり。

領主として父様は敬われていたけれど、ずっと貧しいままだ。


そんな状況では私が嫁ぐとしても持参金は出せないだろうし、

こんなにも貧乏な子爵家に嫁いでくれるような令嬢はいないだろうから、

私とウィルは結婚せずに二人で子爵家を継ごうと考えていた。

家庭教師を雇うお金も無いことから、

子爵家の屋敷にある本を読んで独学で教養を身につけていた。


そんな私たちが十歳になったある日、私の光属性が発動してしまった。

まだ光属性が発動する条件はわかっていないが、祈りが関係するのではないかと言われている。

私の場合は母様が苦しんでいるのをなんとかしたいと、

日々思い悩みながら世話をしていたことが発動するきっかけになったらしい。


私が光属性を使えるようになったことで、

母様はみるみるうちに元気になり、すぐに起き上がれるようになった。

父様は喜んではいたけれど、私の光属性が発動したことは喜ばなかった。

どうしてなのか、それは三か月後に理解した。


使用人から情報を聞いた他国のものが私をさらおうとしたのだ。

大きな男にさらわれそうになり必死で抵抗したが、怒鳴られ殴られた。

一緒にいたウィルが男の足にしがみつき、蹴り飛ばされるのが見えた。

私とウィルの水属性は弱く、攻撃魔術は苦手だった。

それでもウィルはボロボロになりながら抵抗し続け、

その騒ぎに気がついた大人が助けに入るまで、私を守り続けてくれた。


光属性を使えるものはどこの国でも欲しがるほど貴重なもので、

私は一生狙われ続けるのだと嫌でも理解することになった。

父様は子爵家では私を守り切れないと、バラデール公爵家に事情を打ち明け、

私を保護してくれるように頼んだ。


王家に報告すれば保護してもらえるだろうが、軍に使われることになる。

どうにか普通の令嬢として暮らせないだろうかとダメもとで頼んだらしいが、

公爵夫妻は快く受け入れてくれた。


そうして私はバラデール公爵家に養女として引き取られ、

名を改めシルフィーネと呼ばれることになった。

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