第14話 公爵夫妻の帰り

「いじめている?違うだろう。そこにいるものは平民だよな?」


「ミーナは公爵家の娘だ!」


「それを誰が証明できる?」


「ミーナが言ってるし、公爵家の娘の証はその女が取り上げたんだろう!?」


「公爵家の娘の証?なんだ、それ。」


「ミーナの瞳の色した髪飾りだよ!

 大事に持っていたものを見せて認めてもらおうとしたら、

 その女がミーナから奪っていったんだろ!?」



お義兄様から贈られた髪飾りをミーナから奪ったと言われ、胸が苦しくなる。

これは…私の大事な宝物なのに。ミーナのものなんかじゃないのに。


「だから、それが公爵家の証だって、誰が証明したんだ?」


「え?」


「全部、そいつが言った話だけだよな。公爵家の娘、公爵家の証。

 どうしてそれを信じられるんだ?」


そう言われたらそうだ。全部、ミーナが言っているだけ。

お義兄様も認めていないのに、令息たちはどうして信じているんだろう。


「だって、見たらわかるじゃないか!

 ミーナはバラデール公爵令息にそっくりだろう。

 どこから見ても兄妹じゃないか。」


その場にいた皆の視線がミーナに集まる。

まっすぐな髪、濃い青の瞳、長い手足に面長で整った顔立ち。

確かにお義兄様に似ている。

だからこそ、お義兄様のそばに来てほしくないと思ってしまう自分がいる。


…私、邪魔はしていないけれど、邪魔だと思ってしまっている。

そのことに気がついて、罪悪感でうつむいてしまいそうになる。

令息たちがミーナを見て、自信ありげな顔になっていく。

だが、それも一瞬のことだった。


「あのさぁ、お前たちって下位貴族だよな?

 バラデール公爵に会ったことなんて無いだろう。」


「…何が言いたい?」


「ジルバード様は公爵に似ていない。公爵夫人に似ているんだ。」


「「「はぁ?」」」


その場にいた令息たちは何を言われたのかわからないという顔になる。

私はウィルが何を言いたいのかすぐにわかり、ハッとした。


「公爵家の愛人の娘というのなら、公爵に似るはずだろう。

 だけど、その女は公爵にはまったく似ていない。

 ジルバード様に似ているから兄妹だというのはおかしいんだ。」


「…いや、だけど…それは。」


「いや、どうせお前だって公爵に会ったことなんて無いだろ?

 その髪の色、下位貴族に決まっている。」


納得しかけた令息に、隣の令息がウィルを下位貴族だと決めつける。

金の髪を見て、光属性だと気がついたからだ。

まぁ、子爵家出身なのは間違っていないけれど。

同じ下位貴族なら、公爵の顔を知るわけがないと思っているらしい。


「俺は公爵家に仕える護衛騎士だ。だから、公爵も公爵夫人の顔も知っている。

 ついさっきまで一緒にいたんだからな。」


「……え?」


「お前たちは公爵家が認めていない女を勝手に娘だと騒ぎ立て、

 公爵令嬢に文句を言いに来ているわけだが。大丈夫なのか?

 公爵家の問題に口を挟むなんて、どこの貴族家がそれを許すというんだ?

 お前たちに帰る場所が残っていればいいな?」


「…あ…いや、それは。」


今まで強気だった令息たちが慌て始めた。

他家の愛人問題に勝手に口をだしていいわけがない。

それは公爵家よりも身分が上だと言っているようなものだ。

俺が、俺の家が判断してやろうと。そういうことになる。


「違う…俺はここに付き添っただけだ…。」


「俺も…関係ないっ。」


「ミーナが言うのに、そばにいてくれって頼まれただけだっ。」


「え?…みんな?どうして?」


真っ青な顔になって逃げていく令息たちを追うことも無く、

一人残されたミーナは呆然としている。


今まで味方だと思っていた令息たちが、

ウィルに追い払われたのが信じられないといった顔をしている。

だが、次の瞬間、私をにらみつけて叫んだ。


「ひどいわ!どこまで私をいじめれば気が済むの!」


「私は何もしていないわ。」


「うそよ!…もう、許さないんだから。」


そうつぶやくと、ミーナも小走りで校舎から出て行った。

後に残された私とウィルに警備員が深くお辞儀をした。


「…申し訳ありません。不快な思いをさせました。

 この件については学園にきちんと報告いたしますので。」


「あの令息たちはどこの家なのかわかるか?」


「ええ、わかります。それも含めて報告いたします。」


「それじゃ、任せたよ。フィーネ、顔色が悪い。

 ジルバード様が来るまで座っていよう。」


「ええ、そうね…ウィル、ありがとう。」


「どういたしまして。」


ウィルがいなかったら、また何も言い返せずに終わったかもしれない。

椅子に座って気持ちを落ち着けようとしたら、お義兄様が迎えに来た。

私の顔を見るとすぐに何かあったのかとウィルに聞く。

ウィルからの報告を聞いて、少し考えこんだ後、私の頭を撫でた。


「大丈夫か?歩けないなら抱き上げて馬車まで連れて行くが。」


「大丈夫です!歩けます。

 ウィルが守ってくれたので、そこまで大変ではありませんでした。」


「そうか。では、帰ろう。」


お義兄様とウィルと三人で馬車に乗り公爵家に帰ると、

屋敷にはお義父様とお義母様がいて私たちの帰りを待ち構えていた。


「シルフィーネ!おかえり!」


「お義父様、ただ今戻りました。」


「大変だったわね、シルフィーネ。大丈夫?」


「ええ、お義母様。大丈夫です。」


大丈夫だと答えたのに、お義母様にぎゅっと抱きしめられる。


「あらあら、こんなに痩せてしまって…すぐに食べやすいお菓子を用意するわ。

 一緒にお茶しましょう。」


「はい、お義母様。」


「あぁ、お前たちは私の執務室に来なさい。話がある。」


「わかりました。」


「はい。」


お義兄様とウィルはお義父様に連れられて執務室へ向かった。

私はお義母様に手をつながれて、そのままサロンへと向かう。

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