第4話 約束

「ようやくシルフィーネも学園に入学してきたんだ。

 食事くらい一緒にしようと思って。いいだろう?」


「…せっかくですが、お断りいたします。」


「どうしてダメなんだ?シルフィーネは俺の婚約者だぞ?

 仲良くしておいたほうがいいだろう。」



その言葉に身体の震えが止まらなくなる。

フレデリク様と一緒に個室で食事をとるなんて、こんな状態でできるのだろうか。

けっしてフレデリク様のことが嫌いとか、何かされたというわけではないけれど、

その大きな身体で近づいてこられると逃げ出したくて仕方ない。


第二王子から逃げ出すなんてことをすれば不敬だと言われてしまう。

お義兄様に、公爵家に迷惑をかけてしまわないように、

それだけが嫌で必死で我慢している。


「フレデリク様。シルフィーネは婚約者ではなく、婚約者候補です。」


「同じようなものだろう?」


「いいえ、全く違います。

 他にも婚約者候補の方がいるのに、不用意なことは言わないでください。」


「全員と仲良くすればいいんだろう?」


「そういう問題ではありません。

 婚約者候補の中の一人しか選べないのに、全員と仲良くしてどうするんですか。

 婚約が決まるまでは近寄らせるわけにはいきません。

 父上にきつく言われております。」


お義父様も私がフレデリク様を怖がっていることを知っているため、

学園で近づかなくて済むように考えてくれているらしい。

子爵家出身の私が婚約者に選ばれるわけが無いのだから、

早く決まってほしいと思っている。


「公爵がそういうのならば仕方がないか。

 わかった。婚約者になったら誘ってもいいな?」


「…そうですね。そのようなことになれば。では、失礼します。」


強引に会話を終わらせたと思ったら、そのまま個室へと連れて行かれる。

さすがにそのまま行くのは失礼だと思い、フレデリク様に礼をして去ろうとしたら、

後ろに控えていた側近候補たちのつぶやきが聞こえた。


「…お堅いこと言ったって、公爵だって愛人がいるくせに。」


誰が言ったのかはわからなかったけれど、

お義兄様が私をつかむ手が一瞬だけ強くなった。

…お義兄様にも聞こえたんだ。

それなのにお義兄様は何も言わずに個室へと入る。


「…時間が無くなってしまう。早く食べようか。」


「はい。」


何も言わないお義兄様に聞くことはできず、出された食事に手を付ける。

食欲はない。それでも朝食も食べていなかったからか、少しは食べることができた。

お義兄様が食べ終わるのを待って、また教室へと送ってもらう。


「シルフィーネは食べる量を少し増やしたほうがいいな。」


「今日はたまたまです。ちょっと食欲が無くて。」


「ここ二週間減りっぱなしだと思うが?」


「……。」


見られていたのだと思うと言い返せない。

学園が始まることが重苦しくて、食べようという気持ちにならなかった。

始まってしまえば慣れるだろうと思っていたのに、不安なことが増えただけ。

しばらくは食事量が増えることは無さそうだと思う。


「ふぅ。仕方ないな。学園に入学するから緊張していたのだろう?

 休みになったらケーキを食べに行こうか。」


「本当ですか?」


「ああ、約束しよう。だから、午後も頑張っておいで。

 帰りも迎えに来るから。」


「はい、頑張ります。」


教室に戻ればまた視線を感じる。だけど、気にしてばかりではいられない。

午後の授業はちゃんと前を向いて先生の話に集中していた。



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