モブはパンデミックに沈む
不明
モブはパンデミックに沈む
街にある普通のショッピングモールの中、一階にて無数のゾンビに圧し掛からた大の字に倒れる男がいた。
噛まれる瞬間、はたから見れば一瞬に過ぎないが、彼の頭の中では何分にも感じられ頭の中はフル回転していた。
何故あの時、名も知らない子供を助けたりしたのだろうか? 助けさえしなければゾンビに押され二階から落とされこんなことにはならなかっただろうに。 と恐怖という感情は無く後悔だけが頭をよぎる。
歳はまだ二十四歳。まだ世に名前を残すようなことは何にもしていない。
普通の日常が続いていたら。やりたい仕事をして好きなことして生きて行けただろうか。
そんな考えを打ち砕き現実に戻されるほどの強い痛みを体全身に感じた。
「ああああああぁあああああああぁ」
腕や腹を噛み、引き裂かれ、痛みに叫ぶことしかできない。
このまま惨たらしく死ぬのか。そう思っていた時、自分が落ちてきた二階から人が落ちて自分に噛みつくゾンビ一体の頭を『グチャ』と音を立て踏みつぶした。
「お食事のところ邪魔して悪いが、そいつはお前らが食うには贅沢すぎるぞ」
意識がもうろうとする中、彼が見たのは髪の長い鋭い目つきの女性が鉄パイプを持っている姿だった。
だがゾンビの行動は止まらない自分の肉を食らい続ける。そんなゾンビに対し彼女は「話聞けよ、クソども‼」と大声で叫びながら鉄パイプを振りかぶる。
ゾンビの頭にクリーンヒットして、頭を吹き飛ばした鉄パイプだがその衝撃で鉄パイプがぐにゃりと曲がってしまった。
だが大きな音を出し、反応したゾンビは待ってはくれない。ゾンビは自分を食らうのをやめ、女性に向かい歩きはじめる。
「チッ、だから加工前って嫌いなんだよ!」
リーチが短くなった鉄パイプを捨て、背負っていた鉄バットを抜き取るとゾンビ顎に向かって振り上げる。
次々に襲ってくるゾンビの頭を的確に殴る、殴る、一歩も引かずに殴り続ける。
ものの数分足らずに自分と女性だけを残し、辺りは静寂に包まれ人間だった物の臓物と血などでぐちゃぐちゃになっていた。
「こんな……死にかけの、モブの……ために……死ぬかも……しれないのに……どうして……」
自分にゆっくりと近づき、返り血で血まみれの女性はしゃがみ込みこむと。
「あんたはモブなんかじゃない。あんたは人間の命を一つ救ったヒーローだよ。子供に話を聞いた私が証明する」
そう言いながら優しく手を握った。
あぁ、あの子は生き残ってくれたのか。
何も知らない子供なのに、その事を聞いてホッとする。
「だから……選択させてやる。ここでそのまま死んで殺人鬼の仲間になるか、殺されてヒーローを続けるか。前者なら瞬き一回、後者なら瞬き二回」
死ぬのは怖いし、世界に名前は残せなかったけど。モブではなくヒーローとして死ねるのなら。
俺は瞬きを素早く二回し迷わず後者を選んだ。
それを見た女性は見知らぬ自分に対して悲しげな顔をし、バットを振り上げる。
最後の力を振り絞ってかすれているであろう声を出す。
「あ……りが……と、う」
お礼の言葉が終わるその時まで待ち、彼女はバットを本気で頭に振り下ろした。
その瞬間、意識と共にヒーローの命の炎が一つ消えた。
モブはパンデミックに沈む 不明 @fumei
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