一日目-2
盟友達との挨拶を済ませたイクスとララは、王都から地方の街へと足を進めていた。
風が髪を靡かせ、優しく頬を撫でる。天気は朝と変わらず陽光の恵みを与えてくれていた。
「クエスト、どんな内容のものにしたんですか?」
ララがふと尋ねる。これまで何も言わずイクスに付いてきていたが、記念すべき最後の依頼だ。気になったのだろう。
イクスは依頼書を見遣り口を開く。
「討伐系や狩猟系、あと護衛系はやめておいた。俺達二人でやれなくは無いけど、時間が掛かりすぎてしまうから。パーティーが解散した以上、危険も伴うしな。配達と納品の複合クエストにしたよ」
「複合クエストですか。良いで――」
「ララ?」
数歩先を歩いたところで振り返る。ララは足を止め、地面を見ていた。
呼びかけてみる。返事が無い。肩を揺すってみる。やはり返事は無い。
十秒、二十秒と過ぎるが一向に動かない。こうなってしまっては、どうすることも無く、イクスは唯ララの反応を待ち続けた。
約三十秒後、止まっていたララが動き出した。
「すいません、お待たせしました」
「大丈夫?」
「はい、もう平気です」
そこにいたのは、いつもと寸分違わず変わらない彼女だった。イクスはホッと息を吐く。
「……」
「イクスさん?」
イクスは道を逸れ、草むらへと歩き出す。その先に大きな木陰を見つけると、下でどかりと胡座をかいた。
「ララ、おいで」
自身の膝を指す。ララは僅かに頬を紅潮させた。
「ど、どうしたんですか、一体」
「少し休んでいこう」
くぁ、とイクスは態とらしく欠伸をしてみせ、目を閉じる。常に装備している鎧も脱いで、楽な格好へと変身してみせる。益々ララが戸惑うのを肌で感じた。
「私ならもう大丈夫です。それに、今は少しでも時間が惜しいですから」
「このエルラドで、恋人と過ごす以上に優先するべき事なんて俺にはないよ。言ったろう?昨日緊張して寝不足だって。少し付き合って欲しいんだ」
普段のイクスなら、こんな台詞は絶対に言えない。こんな行動は絶対に取れない。今も油断すると恥ずかしくて地面を転げ回ってしまいそうだ。しかし、二人きりであるという事と、ララが不調である事が、彼の言動を後押しさせた。
ええぇえと困惑の声が聞こえる。暫く悩んでいた様子だったが、ララも意を決した様だった。
「そ、そういう事でしたら……」
閉じていた目を薄く開け、様子を盗み見る。頬は目一杯紅く染まりながらも、ララは怖ず怖ずと横になり、イクスの膝に頭を乗せた。
初めは強張っていた肢体が、両者共に段々と弛緩していくのが感じられる。
「……イクスさんの膝、固いです」
「筋肉が詰まっているからね。寝心地が悪いのは我慢して欲しい」
それきり何も話さぬまま、時間は過ぎていく。
風の駆け足と木々の話し声だけが、空間に響いていた。
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