Prologue-2

 「貴方がイクスさんですね。初めまして、私はララです。今日から貴方のパートナーになります」

 二年前。イクスがこの世界――エルラドに来たばかりの頃、ララと出会った。

 この頃は髪を下ろしており外見は幾らか違ったものの、彼女の陽だまりを浴びた花が綻ぶような雰囲気は、今と全く変わりがない。

「あ、その、……初めまして」

 初対面の相手に対しては人見知りを発揮するイクスの口から零れ出たのは、酷くか細い挨拶だった。

 堪らず俯き、所在なさげに視線を迷わせる。こんな自分を変えたくて世界を変えたというのに、これでは意味が無いと肩を窄めて益々萎縮してしまう。

 するり、と。柔らかな掌がイクスの右手を包んだ。

「怖がらないで下さい。貴方を害することはありません。この先何があっても、私は貴方の味方ですよ」

 恐る恐る視線を上げると、ふにゃりと融けた笑みを浮かべられる。

 イクスは思わず目を見張る。嗚呼、何て眩しいんだろう。

 嘲笑ばかり向けられていた自分が、純然たる笑顔を浮かべられるのはいつぶりだろうか。

 誰に聞いても単純だと言われるだろうが、この時、確かにイクスは恋に落ちる。一目惚れであった。

 それから、二人の日々は始まった。

 エルラドでの生活は、何もかもが初めて尽くしで。

 住居を整えたら、働きに出た。最初は簡単なお使いからだった。

 ミノリの薬草を十束、ギルド長に届ける。彼女との記念の初仕事だ、忘れる筈が無い。そのまま誘われて職斡旋ギルド・「幸運ブエナ・スエルテ」に入って。

 ギルドに入ると他のペアと組むことでパーティーにも発展した。

 細身で整った顔立ちに剃髪の男・ゴルキーと、肩までに切り揃えた茶髪を揺らしイクスにも負けない肉体を持つ女・レイラ。二人はパートナーだが恋人ではなく、あくまで戦友といった関係らしい。戦闘狂、と呼べる程に戦い好きだ。

 四人と人数が増えた事で、こなせるクエストの質も量も一気に上がった。

 近所のお手伝い程度から、危険な悪党や組織の検挙、魔獣等の討伐へ。時には喧嘩もしたが、絆は確実に深まっていった。

 仕事だけに熱を上げていた訳でもなく、イクスとララの趣味は多岐に渡った。

 料理、錬金術、釣り、園芸、魔法学。とにかくエルラドで出来ることは何にでも手を出したかった。とにかく毎日を満喫したかった。

 そして、ララとの距離も少しずつ近付いていった。

 初めはパートナーとして。徐々にそれ以上の存在として。

 四六時中行動を共にしているのだ。関係が深まっていくのはごく自然なことであった。

 そして去年の秋。イクスの想いは漸く実を結んだのだ。

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