ぐちゃぐちゃ

クロノヒョウ

第1話



 営業の瀬尾さん、経理の横山さん、同じ事務の寺岡さん。


 歓迎会の時、もともとお酒が好きだった私の飲みっぷりを見て三人は嬉しそうにしていた。


「最近お酒飲めない子多いからね」

「桃香ちゃんが飲んでくれて嬉しいよ」


 そんなに歳も離れていない私たちはすぐに意気投合して仲良くなり毎週末を四人で過ごすようになった。


 そんな中、私は唯一結婚している営業の瀬尾さんに恋をしてしまった。


 どうして結婚している男性って魅力的に見えるのだろう。


 やっぱりあの余裕のある雰囲気と大人な空気感に惹かれるのだろうか。


 頭の中ではいけないとわかっていても私の心はどんどん瀬尾さんに溺れていった。


「ねえ、違ってたらごめん。桃香ちゃんさ、瀬尾のこと好きだよね?」


「えっ」


 瀬尾さんたちを待っている間、居酒屋で同じ事務の寺岡さんにそう言われた。


「瀬尾はそういうの鈍いから気付いてないだろうけどさ」


「う……ん」


「俺が言うのもなんだけど、瀬尾を好きになってもどうにもならないよ。桃香ちゃん可愛いんだから、もっとちゃんとした男いっぱいいるって」


 寺岡さんの声がBGMのように聴こえていた。


 そんなことわかってるよ。


「俺も横山も心配なんだよ。大袈裟かもしれないけど桃香ちゃんには幸せになってほしいから」


 気持ちはありがたかった。


 そりゃあ端から見れば誰だってやめろと言うだろう。


 でも私は気付いている。


 最近瀬尾さんのワイシャツがぐちゃぐちゃなことを。


「よっ、お待たせ」


「おう」

「お疲れ様です」


 それからいつものように飲みあかし四人ともべろんべろんになってから寺岡さんと横山さんを駅からタクシーに乗せた。


 静かになった二人の間。


「どっか行く?」


 瀬尾さんが私の手を握って歩きだした。


 目の前にはホテル。


「ぐちゃぐちゃにして……」


 そのワイシャツみたいに私のこともぐちゃぐちゃにしてほしい。


 そう思って私はぎゅっと瀬尾さんの手を握り返した。





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