花曇りの観覧車

秋谷りんこ

花曇りの観覧車

 感情がぐちゃぐちゃだ。

 目の前で、チョコレートパフェをぐちゃぐちゃにかき混ぜながら食べている子供を眺める。

 どうしようもなかったと思っている。こうするしかなかったと思っている。

 でも。

 でも、なんだ。

 じっとみつめる私の顔を、子供が見つめ返してくる。真っ黒い瞳は、母親似だろうか。あの人には、似ていない。

「おいしい?」

「うん! おいしい」

 口のまわりをクリームやチョコレートで汚しながら、それでも器用にスプーンを使ってパフェを食べるこの子は、私の好きな人の子供だ。

「お父さんがお迎えにくるまで一緒にパフェ食べよう」

 そういって声をかけたら、信じられないほどあっさりとついてきた。五歳といっていたから、私とあの人が出会ったあとに産まれたのだ。

「妻とはほとんど別居状態だから」

 そんな言葉を信じた私が悪いのはわかっている。でも「堕ろしてくれ」と言われて渡されたお金は、手つかずで家に置いてある。妊娠したなんて嘘を、信じると思わなかったよ。

「観覧車に乗ろうか!」

「乗りたい!」

 ずいぶんと嬉しそうに笑うのね。笑顔が少しあの人に似ているのが癪で、思わず舌打ちをする。

 平日のみなとみらいは空いていた。夜になると灯りに群がる虫のように湧いてくるカップルも、こんな花曇りの午後には来ないらしい。並ばずに観覧車に乗り込んだ。受付の人も物憂げだ。

「高いねぇ」

 一番上にきたときに、扉の安全装置をそっとはずした。ゆっくりドアが開いて、薄甘い春の風が入ってくる。ここから落とせば。それはもう、あっという間に……

 振り向くと、子供は私を見ていた。

「どうしたの?」

「高いからちょっとこわい」

 そういって、私の手を握った。

 温かい。

 そのまま観覧車はゆっくりまわり、地上についた。私は、ぐちゃぐちゃに泣いていた。

「だいじょうぶ? こわかった?」

 そういって私を見上げる子供を抱きしめて「ごめんね」と言ってまた泣いた。

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