汚部屋のひと

金澤流都

汚部屋という小宇宙の創造

 部屋が汚い。端的にいってぐちゃぐちゃだ。昼間はいないので夜だけ灯油ファンヒーターを使うのだが、そのせいで壁が結露して床に水溜りができた。とりあえず古いバスタオルを詰めて手当てしたが、ぐちゃぐちゃなのは変わらない。

 ほこりもひどい。部屋の棚に並べている、趣味で集めたフィギュアはだいたいほこりをかぶっている。宝物のはずなのに……。

 そして本である。本棚に収まりきらなかった物理書籍が、いたるところに積まれている。机。床。ローテーブル。無理くりフィギュアの棚にねじこんだ本もある。


 このカオスな状況を見て、私は言った。


「光あれ」


 すると光があった。光は部屋を照らし、床の水たまりには魚やそのほか海の生き物が発生した。その近くには木々が生え、ほこりは人となって立ち上がり、本の山々の合間には村ができた。


「生めよ、増えよ、地に満ちよ」


 こうして私の部屋という小さな世界が生まれた。わたしは満足して、週末のんびりと布団にくるまって寝ていた。

 敷き布団はベッドのマットレスをどかしたところに直に敷いている。湿気を吸って若干濡れている。敷き布団をベッドから剥がしてみる勇気がどうしても湧かないのであった。


 さて、週末の二度寝ののち、わたしは映画を観に出掛けた。

 なんて素晴らしい休日。昼は回転寿司にした。ルンルンで家路を歩き、映画の面白かったところを反芻しながら帰宅した。


 ――家に帰ってくると、なにやら玄関に紙ゴミの束が山積みにされていた。もしや、と部屋に急ぐと、オカンがぜんぶひっくり返して掃除をしていた。

「ちょ?!」と奇声が出た。バスタオルはどかされほこりは掃除機で吸われ、本はほとんどが縛られて紙ゴミの束になっている。玄関に置かれていた紙ゴミは私の本だったのだ。

 時すでに遅し、ほこりの民は滅ぼされ、本はゴミに出され、わたしの小宇宙は滅びた。


 しかしたぶん、すぐ小宇宙になると思う。

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汚部屋のひと 金澤流都 @kanezya

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