33.少年の好きな人
「!!」
016は勢いよく目を覚ます。
汗だくな体を勢いよく起こし、それと同時に思い出す。
(そうだ……これは夢か……)
「うっ……」
鮮明な記憶に思わず気分が悪くなりそうになりながらも、016は気づいた。
(違う、これは……)
「009!」
その瞬間、016は隣に居た009に話しかける。
「今の夢は……絶対に起きた事なのか?!」
「……」
「……そうだけど、……どうした?」
****
「いつから知ってたの?僕の仕事の事……」
016は先の夢の内容と幸の見た夢の内容、どちらもを知っていた。
だからこそ、こんなににもたくさんの事に直面しすぎて、幸に当たるしか無かったのだ。
「いつから……」
幸はちょっと焦りながらも、016が自分を責めている訳では無くただ混乱しているだけなんだと理解し、ゆっくりと話し始める。
「まぁ……確信というか、自分の中に落とし込んで納得できたのは……あの、047って人の所……」
「……何で逃げようって思わなかったの?何で……何も聞かなかったの……?」
幸の言葉に、016は信じられないと言う様に答える。
幸は少し考えて、安心させようと016の頬を軽く撫でながら口を開く。
「夢の中でも言った気がするけど……君を信じたかったから」
幸の表情は穏やかだ。
016はその表情と頬を撫でられる感覚に、次第に表情を緩める。
「信じようと思って、勝手に信じた……って、それだけ」
彼女の言葉に黙ったままだった016も、段々頭が動くようになる。
(僕は正直……あれが本当の事だったとしても……)
(……闇雲にあの目を、信じられない……)
016の脳裏には、もうトラウマの様に焼き付いた少女……約束をないがしろにする様な発言をした時の、『れいちゃん』の冷たい眼差しが思い浮かんでいた。
『何の得になるの?』
(あの言葉が本心じゃないって、どうしても信じられない……けど)
そこまで考えてから、016はゆっくりと口を開く。
「キミは……僕を信じた」
「……うん」
016が小さく笑うと、幸は続ける。
「もう君しか、信じてあげられる人……居ないからさ」
「……」
その言葉に016は固まる。そして、幸の上に四つん這いになっていた体制から、両手だけ離して膝立ちの状態になり、ぼそっと呟いた。
「キミは……バカだよ」
「なっ……」
さすがに幸もそんな事言われたら堪らないので起き上がると、そのまま016は気にせず続ける。
「バカみたいに真っ直ぐで、バカみたいにか弱いのに、バカみたいに強がりで……」
「……?」
バカバカ言われてるけど、バカにされている空気でも無いので幸は思わず首を傾げる。
「……バカみたいに優しくて、」
016はそれに気づいてか気づかずか、続ける。
「バカみたいに……かっこいいんだ」
016の口角は自然に緩んでいる。
「そんな君が……」
016は笑顔で幸を見上げる。
目線が合うと、016はまっすぐに言葉を紡いだ。
「……好き」
泣きながら照れ臭そうに笑う016に、幸は思わず……というか、必然的というか、かぁっと音が出るんじゃないかというくらい真っ赤になってしまった。
「……」
そのまま涙を拭いもせずに居る016に、どうしたらいいか分からなくなった幸は、赤い顔を隠すように片手を口元にやりながら口を開く。
「な……にを、……言ってるんだよ。ビックリしちゃったじゃないか……」
そんな風に調子を取り戻そうと早口になる幸の口を、016は「ん」と塞いだ。
「……」
幸はちょっとビックリしながらも、そのキスを受け入れる。
(……好きじゃない人相手に、こんな事出来るかって)
016の頭には、夢の中で『れいちゃん』の姿の幸に言われた言葉が甦っていた。
『……好きな人に、一途で居なよ』
(あの言葉は……)
ゆっくり唇を離し、至近距離で幸を見つめながら016は考える。
(……誰の事?……キミの事?)
幸はそんな様子の016に少し困りつつも、調子が戻らないのか大人しくしている。
(それとも……れいちゃんの事?)
『れいちゃん』を思い出すと、016の頭の中には段々あの表情が帰る。
「……」
自分には見せた事の無い表情。
他の人にはこんな表情もするんだと思いつつも、例え違う人の中に入っていたとしても信じてくれなかった彼女に、016は複雑な気持ちになってしまっていた。
(でも……僕だって、あの表情を信じなきゃ……れいちゃんの為に)
それは、幸にとっての016の存在と同じ様に、016にとっての『れいちゃん』がある事を示していた。
(あぁ……僕……最近泣いてばっかりだ)
奇怪少年016 センセイ @rei-000
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