第二章 少年の秘密、少女の疑惑
9.『巨大』な村(1/2)
「ねーちゃん、今から2人泊まれる?」
幸いな事に、その村には入ってすぐに『宿』と、手書きで書かれた看板のある、大きめの家があった。
その家に入るとすぐに、幸が背伸びしてやっと肩くらいの高い台があり、幸はそこに腕を乗せて背伸びをしながら向こう側に居る女の人へそう聞いた。
「2人?」
台の向こうに居た着物の女の人は、頬に片手を当てながら不思議そうな声を上げる。
…それもそのハズ、
「……バカに高いから、1人届かないんだ」
女の人が身を乗り出して台の向こう側を見ると、確かに台に届くハズもないような低身長の016がもたれかかっているのが見えた。
「あらあ、ほんと……」
珍しいものを見るような目を向けられて、ただでさえ機嫌の悪い016は少し眉を寄せてしまう。
「……」
016が無反応でいると、女の人は「案内しなくちゃね」と、優しく言いながら幸の隣に並ぶ。
「!……ね、ねーちゃん、背でかいなぁ…」
台の向こう側が高くなっているだけだと思っていた幸は思わずぎょっとしてしまう。
まぁ仕方ない。高身長な方の幸より頭一つ抜けていたからだ。
「……」
016に至っては、もはや比べる対象でも無いのは明らかだ。
「そお?…この村の女のコは、みんなこのくらいよぉ」
女の人はそれに構わずそう言って続ける。
「あなた旅人さん達でしょぉ」
「マントさんくらいの人は見た事あるけど、ネクタイさんくらいの人は初めてよぉ」
悪気なく、ただ楽しそうに話す女の人を、不穏にじっと眺める016に、幸はこそっと、
「……」
「怒るなよ…」
と耳打ちした。
「……」
016は相変わらず黙ったままだったが、腕を組み、イラッとしながらフンッと息を出した。
(これじゃあ当分機嫌直らないな…)
幸はそんな016を横目にヒヤヒヤとしながら、案内された部屋に2人と共に向かった。
***
「ばんごはんよお」
張り上げた声に、辺りが足音で騒がしくなる。
幸と016もその声のする方に向かうと、たくさんの人達がそこでわちゃわちゃしていた。
「ひっ…!」
幸はその中でも2メートル以上はありそうな、縦にも横にも威圧感のある男と鉢合わせてしまい、びっくりして声を出す。
それにその大男はニカッと笑い、
「旅人のにーちゃん!」
と言って、仲良しの友達にやるように幸の首元にぐるっと手を回した。
「相変わらず、よそ者はみんなちっちぇえなぁ!!」
「ぐ…」
その身長差ゆえ、幸は首を持たれて宙に浮く様になってしまい苦しそうにバタバタする。
「へぇ、16で175か?!たまげたなー!!」
が、もう打ち解けたのか、2人は『身長トーク』なんかをする。
「いっぱい食ってけよ!にーちゃん!」
「……!」
(かっけー…!)
強くなりたい幸にとって、その大男はまさしく憧れの存在だった。
そんな大男を羨望の眼差しで見る幸を、016が睨み付ける様に見ていると…
「わーっ、たけるにぃより小さい!」
「148?!うっそー?!」
「本当は24じゃなくて、5歳なんじゃないの?!」
…あっという間に興味津々の子供達に囲まれる。
聞くに、この旅館には滅多に客が来ないので、夜は大食堂に村の人全員でこうやって集まって、食卓を囲むらしい。
(……ん?)
その会話を何となく聞いていた幸には、違和感があった。
(…………24?)
「 にじゅうよん?!?! 」
「えっ」
大声を張り上げて繰り返した幸に、016はそんな驚く?と言うようにキョトンとした顔をする。
「ウソだろ…?てっきり小…中学生くらいかと……未成年じゃないなんて……」
今まで年下だと思っていた少年が年上で、かつ『少年』と言えるのかさえ怪しくなってくるような年齢で、幸は思わずガチなトーンで呟いてしまう。
「…にーちゃん、声に出してる」
「あっ、やべっ」
「 にじゅうよんだよっ!! 」
まさかそう思われてたなんて思ってもいなかったのか、016は顔を赤くして眉を上げながら声を張り上げる。
(えー……にじゅうよん……24……二四……二十四……)
幸はそんな016にはお構い無しに、まだ現実が受け止めきれないと言うようにぐるぐるとその数字を繰り返す。
そんな様子に、さすがの016ももう我慢ならないのか、口をぎゅっとつぐんで額にしわを作りながらイライラしていた。
***
「──で、にいちゃん」
「ん?」
すっかりみんな席についた頃、箸を握って持ちお茶碗さえまともに持たない幸に、先程の大男が話しかけた。
「あんたのお連れさん、やけに遠くに座ってるけど…」
幸と016は、大きな机の端と端くらいの…一番遠い位置にそれぞれ座っていた。
幸の方は意識して避けたわけではなかったが、幸が例の大男と話しながら座っている間に、016はそこからうんと離れた所に座ったという訳だ。
「ん…」
幸が鮭を箸に刺したのを持ちながら016の方を見ると、016は反対側を向きながらツンと静かに夕飯を食べていた。
…幸と違って、食べ方はきちんとしていた。
(どうしたもんか…)
そんな事を思いながら、幸は丸ごと箸に刺した鮭を食べづらそうに口に運ぶ。
「…ま、気にしないでくれ。……今ちょっと、仲違い中なんだ」
ご飯粒を頬に付けながら、幸はそう言ってフッと笑った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます